シボレー・ボルト(FF)【海外試乗記】
商品力は十分 2010.11.05 試乗記 シボレー・ボルト(FF)米国発の電気自動車「シボレー・ボルト」に、中国・上海で試乗! プロトタイプで明らかになった、その仕組みと実力は?
あくまでも“電気自動車”
ハイブリッドを代表とする“自動車電動化”の技術が日本のお家芸という時代は、どうやら終わりを告げたようだ。むしろこのところ目立っているのは、欧州各メーカー発のさまざまなカテゴリーに属するピュアEVやハイブリッドカーに関する新たなニュース。そうした状況の中にあって、もちろんアメリカのメーカーも黙って見ているだけではない――そんなイメージを一気に高める存在が、2010年末に米国内での発売を高らかにうたう、この「シボレー・ボルト」だ。
世界各地のモーターショーで、プロトタイプの立場で出展が繰り返されてきたこのモデル。しかし今回、上海郊外のリゾート地で対面したのは、「市販バージョンと同スペックの最終完成形」という触れ込みのモデルだ。実は、さまざまなパテントの関係もあってかGMはこのイベント直前のタイミングになって、このモデルの詳細を追加発表した。そこで、遊星歯車式の動力分割装置が搭載されることも明らかになったため、「これはトヨタの“ストロング・ハイブリッドシステム”の亜流ではないのか?」と話題になった。
遊星歯車に加えて2モーター式というスペックで、たしかにトヨタ方式との類似性が感じられる「ボルト」のシステムだが、その仕組みを精査すると、遊星歯車の各要素ギアにつながるアイテムがトヨタ式とは異なることが明らかになった。
具体的にはリングギアに駆動用モーターからの入力と駆動輪への出力、サンギアに発電&駆動用モーター、ピニオンキャリアにエンジンがつながるトヨタ方式に対し、リングギアに発電&駆動用モーターとエンジン、サンギアに駆動用モーターがつながり、ピニオンキャリアが駆動輪へとつながるのがボルトの構造。
その上で、「エンジン出力が直接駆動輪に伝わるモードはなく、駆動力は常に電気モーターが発生させる」とアピールしつつ、あくまでもハイブリッドモデルではなく“発電用エンジンを搭載した世界初の大量生産型プラグイン電気自動車”を自称するのが、このモデルということになる。
「プリウス」にも匹敵
米国車らしからぬコンパクトさと、ちょっと前傾気味のスポーティなフォルムから、「ボルト」のルックスは第一印象でなかなか好感が持てる。一見、ショートデッキ型の3BOXセダンとも受け取れるこのモデルは、実は大きなテールゲートを備える5ドアのハッチバックである。インテリアではキャビンフロアを前後に貫く高いセンタートンネルと、それをまたいでレイアウトされた完全セパレートデザインの後席が目を引く存在だ。そんな高いトンネル内と後席下に、合計16kWhという、くしくも「三菱i-MiEV」と同容量分の288個の角型セルからなるリチウムイオン電池が、上から見て「T」字型にマウントされる。
センターパネル内左側にあるブルーのボタンでシステムを起動させ、まずは充電容量がたっぷり残ったEVモードの状態でアクセルオン。無音の状態からスルスルと加速していくさまは、当然ながら「典型的な電気自動車のそれ」と形容する以外に言い表せないもの。前出の起動スイッチの上に位置する「DRIVE MODE」のスイッチをひと押しすると、モードは「スポーツ」へと切り替わるが、実はこれはアクセル操作に対する発生出力の線形がよりシャープになるだけで、出力自体は変化しないという。いずれにしても、EVモードで走行中はどんなにアクセルペダルを深く踏み込んでも、決してエンジンは始動しないことを確認した。これこそが、エンジンが即座に起動してそのパワーが加速を補助するトヨタ式との大きな違いであるわけだ。
バッテリー内の充電容量が一定値以下に低下すると、最高出力84psを発生させる1.4リッターエンジンが始動して“レンジエクステンデッドモード”へと移行する。当初は、こうして一度エンジンが始動すると、停車まではエンジン停止しないものと想像していたが、実際には頻繁にエンジン停止が行われ、小刻みにEVモードで走行するのは予想外だった。かくして、エンジンの始動と停止は走行中も度々繰り返されるものの、その際の騒音と振動は「『プリウス』にも匹敵する滑らかさ」というのが実感だ。
ちなみに、前出の走行モードにはもうひとつ「マウンテン」というものが存在し、これには「エンジンが発電する電力だけでは不足気味となる、極端な急勾配(こうばい)の上り坂などに備えたモード」と説明が付く。EVモードで走行中にこのモードを選択すると、ノーマル/スポーツモードで走行中よりも多くの充電残量を残した状態で早めにエンジンを始動させ、高負荷のシーンではバッテリーからの持ち出し電力とエンジンが発電した電力の双方を駆動用モーターに導くことで、より高い動力性能を得る仕組みである。ちなみに、この場合でもエンジンの動力が直接駆動輪に伝わることはないという。「だから、ボルトはあくまでもEV」というのが、GMの繰り返しの主張になるわけだ。
プレミアムカーとして
もっともそんな興味深いパワーパックを除いても、「ボルト」はこのサイズのセダンとして十分魅力ある走りのポテンシャルの持ち主であることが実感できた。
電動パワステが生み出すステアリングフィールは、特に剛性感に富むというわけではないものの、路面とのコンタクト感を不安のないレベルで提供してくれるし、トヨタ式と同様に協調回生制御を行うというブレーキも、効き、ペダルタッチともにほとんど違和感のない仕上がりだ。リゾート地の構内道路でのテストドライブゆえハードな走りは行わなかったが、その快適性、ハンドリングの仕上がりも不満がない。すなわち、結論としては「十分に“商品力”は足り得ているな」と思えるのが、ボルトの出来栄えというわけだ。
まずは年内に米国内の7つの州から販売が開始されるという「ボルト」は、“定価”の4万1000ドル(約332万円)から7500ドル(約61万円)の補助金を引いた3万3500ドル(271万円)が実質的な価格とのこと。世界のどの国よりもクルマが安いアメリカゆえ、同クラスのセダンからすればやはり多少の割高感はぬぐえない。そうした価格の上乗せ相当分を、プレミアムカーの価値として、かの地の人々に納得してもらえるのか否か? 誕生したばかりの米国発のエコカーは、まずはそんなポイントが焦点になりそうだ。
(文=河村康彦/写真=ゼネラルモーターズ・アジア・パシフィック・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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