クルマと都市がともに進化 メルセデスの考える2040年の自動車社会
2024.11.27 デイリーコラムクルマづくりと都市開発は連携するべきだ
メルセデス・ベンツが定期的に実施しているワークショップ。2024年は2日間にわたって開催され、前回紹介した1日目(参照)に続き、今回は2日目の「Future Experience」について。
メルセデスは以前から、クルマづくりと都市開発は緊密に連携するべきという独自の見解を持っている。今からもう20年近く前のこと。当時の研究開発センター内を特別に見せてもらったとき、そこには仮想都市のジオラマが置かれていて、小型カメラを付けたクルマがそこを走り回り、人間が都市部でどのような運転をするのか、どういった危険に遭遇するのかをシミュレーションしていた。そのデータを元に、将来のクルマに実装するべき装備や機能などを研究していたのである。
今ではシミュレーション技術も発達し、ジオラマやミニカーはもはや必要なくなったようで、2040年以降のロンドンやロサンゼルス、深センといった具体的な都市の行く末の予想を発表した。このシミュレーションをするにあたり、メルセデスは社会学者/哲学者/科学者/建築家などとも知識ネットワークを構築、デジタル化や気候変動によっての世界の各都市の変化を分析したという。
都市の成長に合わせてクルマも進化
例えばロンドン。先進性と歴史や伝統の融合が見込まれる都市では、古い建物と新しい建物が限られたエリアに混在する。道路の大幅な拡張や延伸は見込めず、交通渋滞や駐車スペース不足を解消するために、自動車や自転車、公共交通をつなぐハブとしての役目を担うような集中大型駐車場が整備される。市内中心部の道路を走るほとんどが電気自動車(BEV)のバンやカーゴバイク、ロボタクシーとなり、内燃機のみの車両は見かけなくなるという。
いっぽうロサンゼルスはエリアが広大で依然としてクルマでの中長距離移動が主体となり、個人所有車の数が多い。デジタル化を推進し、クルマ同士や都市部の駐車場などとの双方向通信によりスムーズな交通環境を目指す。自家用車の50%近くがBEVになる可能性が高いので、車両搭載型を含めた太陽光発電の積極的利用が進む。
そして深センは包括的な5Gモバイルネットワークがすでに構築されているので、ロンドンやロサンゼルスよりもデジタルトランスフォーメーションが進み、リーダー的存在となる。人工知能、コネクティビティー、デジタルインフラによる交通管理や、自動運転車両の増加、ロボットやドローンを使った物流の整備が進む可能性もある。
こうした“都市の成長”に対応できる装備や車両の開発は、将来を見据えて今から準備をしておかないと間に合わないので、メルセデスはすでに着手しているとのことだった。BEVや燃料電池車(FCEV)や自動運転がいまだに広く普及しない主な原因は自動車メーカー側というよりも、国や地域のインフラといった行政側にもある。このギャップを埋めるためにも、未来の都市像を具体的にイメージすることが、無駄のない効率的なクルマの開発につながるということなのだろう。
未来を見据えた要素技術
出し物の多くでは、ヘッドセットを装着したAR、VR、MRのデモンストレーションがあった。ディーラーに行かずとも車種が選べるMRバーチャルショールーム(「Apple Vision Pro」を使用)や車内エンターテインメントを楽しむARグラスなどを体験させてもらったが、ヘッドセット自体がまだ大型で装着に手間取るし、うまく作動しないトラブルがデモ中に何度も発生した。個人的には、普通の眼鏡くらいのサイズになって、スマートウオッチくらいの接続容易性がないと、この手の技術は利便性が享受できないと思った。
このほかにも、バイオテクノロジーを駆使し遺伝子組み換えによりシルクタンパク質を精製、光沢のあるシルクのような糸をつくってインテリアトリムに使用したり、リサイクルプラスチックによる代替レザーをシート表皮に採用したりするなど、サステイナビリティーに根ざした素材開発も行っているという。個人的に興味をそそられたのは「インドライブブレーキ」だ。電動ドライブユニット内にブレーキを組み込んで、いわゆる回生ブレーキのみで制動を行う。これならば、ばね下は軽くなるしディスク/パッドの交換も必要なくなるしホイールも汚れない。そして人間の髪の毛よりも薄く1平方メートルあたりわずか50gという軽さのソーラー塗料を開発。これでBEVのボディー全体をラッピングのように包み込むと、中型SUV1台分の面積で、年間1万2000km走行分の電気を太陽電池によって生成できるそうだ。この発電システムは駐車している状態でも作動する。
開発中のすべてがもくろみどおりに実現するとは限らないけれど、その確率を少しでも上げるためには、たとえ絵空事のような技術であったとしても、ひとつでも多くのトライをすることが何より大事なのだろうと思った。
(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)

渡辺 慎太郎
-
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性NEW 2025.9.5 あのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代 2025.9.4 24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。
-
マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る 2025.9.3 ディーゼルエンジンを主力とするマツダにとって、カーボンニュートラルを実現した次世代バイオディーゼル燃料は生命線ともいえる存在だ。関係各社を巻き込んで需給拡大を図るマツダの取り組みと、次世代燃料の最新事情を紹介する。
-
意外とクルマは苦手かも!? 自動車メディアの領域で、今のAIにできること、できないこと 2025.9.1 AIは今や、文章のみならず画像や動画もすぐに生成できるレベルへと発展している。では、それらを扱うメディア、なかでもわれわれ自動車メディアはどう活用できるのか? このテクノロジーの現在地について考える。
-
世界の議論を日本が主導! 進むハンズオフ運転支援機能の普及と国際基準制定の裏側 2025.8.29 世界的に開発と普及が進むハンズオフ(手放し運転)運転支援機能の、国際基準が改定された。先進運転支援や自動運転の技術の基準は、どのように決められ、またそこで日本はどんな役割を果たしているのか? 新技術の普及に必須の“ルールづくり”を解説する。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。