クルマはどこまで軽くできるか?

2024.12.17 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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多田さんはスポーツカーに限らず「クルマは1gでも軽くつくるのが理想的」とおっしゃっています。では現実的に、例えば2~5人乗車を前提とした2リッタークラスのクルマなら、構造的な工夫や素材次第でどこまでダイエットできますか? カスタマイズの参考としても知りたいです。

これは実は、設計うんぬん以前に“ルール”が大きく絡んでくる話なのです。どこまで法規に適合しているのかという……。その点をクリアしていることを前提とするなら、「1tが市販車の軽量化におけるギリギリ限界」といえるでしょう。

快適性にかかわる部品やエンターテインメント関係のコンポーネンツをすべて捨て、レースカーやサーキット専用車にする……つまり、遮音材を省き、エアコンやオーディオも取り除き、助手席と後席も外した場合は、「1tからさらにマイナス100kg」はいけそうですが、普段使いではとても乗れたものではないというレベルになってきます。

ボンネットをカーボン素材にするといった「素材を変える」的な措置は、コストがかかる割には“改善代”が少ない。やっぱり、“取っ払う”のが一番効果的です。

ADAS(先進運転支援システム)にかかわる部分も外してしまえば、さらにもう何十kgか軽くなるでしょうが、これはいま、ユーザーの判断で勝手に取り外すことのできないものになっています。例えば、切り離してしまうとエンジンが始動できないといったことが起こりうる。つまりこれに関しては、世の規則が変わってクルマの基本設計から「外しても走れる」ようになればの話です。あまり現実的ではありませんね。

そんな次第で、市販車の軽さの限界値は「車重1tを切るくらい」。具体的には、現行型の「マツダ・ロードスター」あたりがベンチマークになるでしょう。「ロードスターは2シーターでオープントップだから軽さを追求するのに有利だろう」と思われるかもしれませんが、オープンカーは、同じようなクローズドボディーのクルマと同等のボディー剛性を確保するなら、それらより車重が30kgから50kgほど重くなるという現実があります。

一般に、2座と4座では、それに付随して求められる後席の快適性確保も含めて「100kg違ってくる」といいますから、例えば、後席もある2リッタークラスのクルマとなると、1t切りは至難の業。実現はかなり難しいといえるでしょう。

軽量化は結局、快適性の妥協点をどこに置くかで決まります。そしてその許容範囲は人ぞれぞれなのです。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。