三菱がヤマハのオーディオシステムを「アウトランダー」に初採用 その経緯と開発秘話を聞いた
2025.01.14 デイリーコラムヤマハの車載オーディオを三菱が採用
2024年秋に、三菱みずから“大幅改良”と銘打つマイナーチェンジを実施したPHEV「アウトランダー」は、内外装デザインは最小限の変更なのに、静粛性、動力性能、ハンドリングの進化は見ちがえるほど……というマニアックな改良内容が印象的である。
そんな新しいアウトランダーには、いかにも開発陣の強い思い入れがうかがえる変更点が、もうひとつある。それはオーディオシステムだ。
従来のアウトランダーには、6スピーカーの標準オーディオシステムのほか、上級に9スピーカーの「BOSEプレミアムサウンドシステム」が用意されていた。対して、大幅改良版のアウトランダーは、8スピーカーの「ダイナミックサウンドヤマハプレミアム」が標準となり、さらに「ダイナミックサウンドヤマハアルティメット」と称する12スピーカーのシステムが、最上級の「Pエグゼクティブパッケージ」に標準装備、その下の「P」および「G」グレードにオプション設定となった。つまり、最新型のアウトランダーは全車がヤマハのサウンドシステムを搭載しているのだが、これは日本仕様にかぎらないグローバルでの共通戦略という。
ヤマハといえば、いうまでもなく日本を代表する楽器・音響メーカーである。ちなみに、オートバイで有名なヤマハ発動機もルーツは同じだが、戦前に軍用航空機のプロペラを製造していた経験からオートバイの生産に乗り出して、1955年に分社化されている。
ホーム用オーディオ/シアター製品では超有名な老舗ブランドのヤマハなのに、カーオーディオのイメージは皆無に近い……のも無理はない。ヤマハが車載オーディオ事業に参入したのはつい最近のことで、2021年の中国製電気自動車の「ジーカー001」に搭載されたのが最初で、続いてMG(上海汽車)や広州汽車にも採用された。そして、中国車以外では、2023年8月に発表されたアジア向けの「三菱エクスフォース」が初採用となる。さらに、同年秋にはトヨタの「センチュリー」や「クラウン セダン」にヤマハ製スピーカーが搭載されたが、大々的にヤマハブランドを打ち出した国内向け車載商品は、今回のアウトランダーが最初なのだ。
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他社とはちがうブランドでやりたい
三菱車の上級サウンドシステムといえば、先代までのアウトランダーや最後の4代目「パジェロ」に採用されていた「ロックフォードフォズゲート」を思い出すファンもおられるだろうが、同ブランドを純正システムとして日本に持ち込んだのも三菱だった。そんな三菱だからして、今のアウトランダーがBOSEを積んだときには、良くも悪くも「やけに定番すぎないか?」と思ったものだ。もっとも、そこには現行アウトランダーの土台となるプラットフォームが、日産主導で開発された「CMF-C/D」であることも無関係ではないようだ。日産とBOSEの関係は非常に深いものがあり、アウトランダーとプラットフォームを共有する現行「エクストレイル」も、当然のごとくBOSEのサウンドシステムを積んでいるからである。
最新型アウトランダーのオーディオシステム開発担当氏は「もちろん、従来のBOSEのサウンドシステムも、お客さまからも不満の声はまったくありませんでした。ただ、今回の大幅改良にあたっては“三菱らしい快適性の追求”をテーマとして、いろいろなサプライヤーさんとお話をさせていただきました。“車内で聴く音楽も、遠くへ出かけたくなる心を高揚させる要素のひとつ”という思いを一緒に実現したい……というわれわれの意図に賛同いただけたのがヤマハさんでした」と語る。まあ、それがヤマハと手を組んだ最大の理由なのは事実だろうが、かつてロックフォードフォズゲートという未知のブランド(?)を招き入れた三菱だけに、今回も「とにかく他社とはちがうブランドでやりたいという思いもあったのでは?」とたずねると、アウトランダー本体の企画担当氏は否定しなかった。
三菱ではない某自動車メーカーの担当者にうかがった話では、BOSEは良くも悪くも“BOSEらしいサウンド”に対する要求が厳格らしい。対してヤマハは「自分たちと一緒に、アウトランダーに適したサウンドをつくっていこう……という姿勢で取り組んでいただけました」と前出の開発担当氏。
上級のダイナミックサウンドヤマハアルティメットには、走行状況に合わせて音量や音質を自動補正する「SCV(スピードコンペンセイテッドボリューム)」機能も備わるが、それは単純に速度に比例して音量を大きくしたり小さくしたりするだけではない。開発時には、まず5km/h刻みの車速で実際のノイズを測定して、その音量と周波数に合わせて、聞こえにくさを解消する調律を追求したのだという。さらにはワイパーの作動によって雨も検知して、ホイールハウス内にこもる水しぶきノイズに合わせた補正もおこなうとか。
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名前で勝負できる日本発祥のブランド
~アルティメットではさらに、高音、中音、低音、サブウーファー、リスニングポジション……といった細かい設定項目のほか、すべてを統合チューンする「サウンドタイプ」という機能も用意される。このサウンドタイプには「Powerful(パワフル)」「Relaxing(リラクシング)」「Lively(ライブリー)」、そして「Signature(シグネチャー)」という4つの選択肢があるが、最後のシグネチャーについては「あえて三菱側からの要求は最小限にして、音づくりをほぼヤマハさんにお任せしました」と開発担当氏は明かす。
シグニチャーはいわば、ヤマハモードとでも呼ぶべきサウンドタイプということだ。オーディオについてはド素人の筆者だが、実際に4つのサウンドタイプを聴き比べると、オーケストラやアコースティックギターの音にいちばん温かみがあるような気がしたのがシグネチャーだった。つまりは、それが“ヤマハの音”ということなのか。もっとも、同時視聴できた従来型BOSEのキラキラ感のある音と比較すると、今回の~アルティメットは、どのサウンドタイプでも音の傾向は基本的に似てもいた。やはり、これがヤマハらしいサウンドなのだろう。
2024年末時点の受注実績では、上級のダイナミックサウンドヤマハアルティメットを標準装備するPエグゼクティブパッケージの比率が全体の52%、さらにPやGグレードでのオプション装着も含めると、~アルティメットの国内装着率は6割近いのだという。
最近の自動車メーカーが純正採用する高級オーディオブランドといえば、前記のBOSEに加えて、「harman/kardon」「JBL」「マークレビンソン」「AKG」「Infinity」「Bowers & Wilkins」、「Bang & Olufsen」「REVEL」などが思い浮かぶ。しかし、ここにあげたBOSE以外のすべての車載オーディオ事業は、今やサムスン電子資本のハーマンインターナショナルが手がける。いっぽう、日本にも優秀なカーオーディオメーカーは数あるが、自動車メーカーが名前を掲げて勝負したがる日本発祥のブランドは多くはない。筆者が即座に思い出せるのは、1990年代に初代「セルシオ」や「ブガッティEB110」に採用された「Nakamichi(ナカミチ)」くらいだ。
ヤマハは当時のナカミチよりはポピュラーだが、アウトランダーのスピーカーグリルに貼られた「YAMAHA」の文字(と、おなじみの音叉マーク)を見ると、中高年の筆者はどうしたって胸が熱くなる。がんばれ、ニッポンのオーディオメーカー!
(文=佐野弘宗/写真=三菱自動車/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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