プジョーRCZ(FF/6AT)【試乗記】
「買い!」というにはあと一歩 2010.10.28 試乗記 プジョーRCZ(FF/6AT)……399万円
プジョーの超個性派クーペ「RCZ」は、乗ってみても印象的? 右ハンドルのオートマモデルで、走りと乗り心地を試した。
プジョーの「TT」?
早朝。激しい雨のなか、『webCG』のS氏が「プジョーRCZ」で迎えに来てくれた。これから試乗かたがた、一緒に取材に行くのだ。
「RCZ、どうかな?」
あいさつ代わりにまことに漠然とした質問を投げると、「プジョーTTですよ」とにべもない。仕事熱心なSさんは、これから待つ雨の撮影にうんざりの様子だ。「できればマニュアルを借りたかったんですけど、スケジュールの関係でオートマになりました。6MTは19インチ、今回の6AT車は18インチ。なのに、なぜか6MTモデルのほうが乗り心地がいいんですよね……」と、軽井沢で行われたプジョーのプレス試乗会を思い出しながら教えてくれる。「まったくオートマは!」と、熱いクルマ好きのSさんは嘆息する。
「『カッコがいいだけによけいに残念!』と思っているのか」とシートとミラーの調整をしながら聞いていると、「RCZは、顔がニヤニヤしているところも気にくわない」とダメ押しの一言。うーむ……。
前後のウィンドウの上を、滝のように水が流れ落ちていく。
「降ればドシャぶり」。心の中でツブやくと、1.6リッターターボに火を入れた。
プジョーRCZは、2009年のフランクフルトショーで発表された2ドアクーペ。2610mmのホイールベースから推測されるように、「プジョー308」のコンポーネンツを活用してつくられたスペシャルモデルだ。ヨーロッパの、というかフランスに限定されるかもしれないが、古老のクルマ好きのなかには、「ダールマ・プジョーはよかった」と戦前の例を引いてプジョーの“変わり種"ボディを賞賛する人もいるのだとか。ライオンマークのスペシャルティは、長い歴史を背負っているのだ。少々脱線すると、メルセデスが「SLK」で先鞭(せんべん)をつけ、いまではすっかり一般的になった「自動折りたたみ式ルーフ」も、プジョーは「402」のいちバリエーションとして、戦前に開発、市販していた。スタイルだけでなく、テクノロジーの面でも先取の気質が十分だったわけだ。しかし時の流れは残酷で、大衆は忘れやすいものである。RCZをして「プジョーTT」と呼ぶSさんを、誰が責められよう。
きわどい個性
走り始める前に、リアウィンドウのワイパースイッチを探していて苦笑した。プジョーRCZ用のリアワイパー機構は、そうとう複雑なものになるだろう。なぜならRCZのリアガラスは、ルーフ左右にこぶをつくるダブルバブルの流れをデザイン的に引き継いで、こちらも優雅にふたつに膨らんでいるのだから。そんな微妙な曲面をふき取るワイパーなど、もちろん用意されない。サイドのルーフラインをわざわざシルバーに塗ってまで強調しているフレンチクーペのハイライトは、カタログにも掲載されている通り、斜め後ろから見た姿だろう。
そのわりに、と不思議に思うのがトランク部で、あたかもリトラクタブルハードトップ車かのように、見た目のボリュームが大きくて、視覚的に重たい。リアフェンダーを獣の後脚のように膨らませて躍動感を強調しているが、ちょっとカバーしきれていない印象だ。
しかしここは「プロポーションが……」と嘆くより、背後に流れる308シリーズとの血縁を論じるべきだろう。「なるほど! デザインに『CC』、入ってる」と。さらにトランクリッドを開けると、スタイリッシュなクーペにしては意外なほど大きな荷室が広がるさまに、「クーペでも合理性を重んじるフランス人」と、比較文化方面から攻めてもいい。何を攻めるんだか、よくわからないが。
プジョーRCZはたしかにカッコいいクルマだ。でも、あまりにクールですきがない「アウディTT」と比較して、どこか憎めない愛嬌(あいきょう)がある。「TTとの類似性? そんなこたぁ、わかってるんだ」とばかりに豪気に乗ると、男らしくていい。
ゴツゴツ硬い猫の足
犬と猫が大騒ぎしているような雨のなか、プジョーRCZが行く。猫足……のはずが、舗装が荒れているところが多い一般道では、たしかにあまり感心する乗り心地ではなかった。ゴツゴツしていて、乗員のオシリに伝わる硬さがナマな感じ。まだ「スポーティ」に昇華されていないというべきか。
では高速道路に乗ると格段によくなるかというと、これまたあまり感心せなんだ。80km/h付近で走っていると揺すられるような無粋な上下動が出て、隣にいるアンチRCZ派(ATモデルに限る)と顔を見合わせてしまった。
セダンやハッチバックといった、かの地のメインストリームから派生した“変わりボディ"のモデルは、初期には乗り心地やハンドリングで苦労するのが常で、(この文脈で例に挙げるのもどうかと思うが)初代TTデビュー直後の四苦八苦を記憶している方も多かろう。
日本への輸入が始まったばかりのRCZ。今回の試乗車がいわゆる「ハズレ」の個体だった可能性もあるし、プジョーのことだから、これからどんどん改善されるに違いない。
日本で購入できるプジョーRCZは、大きくわけて、オートマ右ハンドル(399万円)と3ペダル式6MTの左ハンドル(423万円)の2種類。どちらも1.6リッターターボを積むがチューンが異なり、前者が156ps/6000rpmの最高出力、24.5kgm/1400-3500rpmの最大トルク、後者が200ps/5800rpmと28.0kgm/1700rpmとなる。
6ATと組み合わされる156psユニットは、5000rpmを超えるとようやく声を高めるが、あまり存在を主張しないタイプだ。総じてルックスほど目立つ動力系ではないが、余裕の動力性能を提供する。
もし後日、再び違うプジョーRCZに乗る機会があるのなら、そのようなときこそは、ぜひ抜けるような青空の下、言い切りたいものだ。
「カッコさえ気に入ったなら、買い!」と。
(文=細川 進/写真=峰 昌宏)

細川 進
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。



































