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【スペック】全長×全幅×全高=4290×1845×1360mm/ホイールベース=2610mm/車重=1350kg/駆動方式=FF/1.6リッター直4DOHC16バルブターボ(156ps/6000rpm、24.5kgm/1400-3500rpm)/価格=399万円(テスト車=同じ)

プジョーRCZ(FF/6AT)【試乗記】

「買い!」というにはあと一歩 2010.10.28 試乗記 細川 進 プジョーRCZ(FF/6AT)
……399万円

プジョーの超個性派クーペ「RCZ」は、乗ってみても印象的? 右ハンドルのオートマモデルで、走りと乗り心地を試した。
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プジョーの「TT」?

早朝。激しい雨のなか、『webCG』のS氏が「プジョーRCZ」で迎えに来てくれた。これから試乗かたがた、一緒に取材に行くのだ。

「RCZ、どうかな?」

あいさつ代わりにまことに漠然とした質問を投げると、「プジョーTTですよ」とにべもない。仕事熱心なSさんは、これから待つ雨の撮影にうんざりの様子だ。「できればマニュアルを借りたかったんですけど、スケジュールの関係でオートマになりました。6MTは19インチ、今回の6AT車は18インチ。なのに、なぜか6MTモデルのほうが乗り心地がいいんですよね……」と、軽井沢で行われたプジョーのプレス試乗会を思い出しながら教えてくれる。「まったくオートマは!」と、熱いクルマ好きのSさんは嘆息する。
「『カッコがいいだけによけいに残念!』と思っているのか」とシートとミラーの調整をしながら聞いていると、「RCZは、顔がニヤニヤしているところも気にくわない」とダメ押しの一言。うーむ……。
前後のウィンドウの上を、滝のように水が流れ落ちていく。
「降ればドシャぶり」。心の中でツブやくと、1.6リッターターボに火を入れた。

プジョーRCZは、2009年のフランクフルトショーで発表された2ドアクーペ。2610mmのホイールベースから推測されるように、「プジョー308」のコンポーネンツを活用してつくられたスペシャルモデルだ。ヨーロッパの、というかフランスに限定されるかもしれないが、古老のクルマ好きのなかには、「ダールマ・プジョーはよかった」と戦前の例を引いてプジョーの“変わり種"ボディを賞賛する人もいるのだとか。ライオンマークのスペシャルティは、長い歴史を背負っているのだ。少々脱線すると、メルセデスが「SLK」で先鞭(せんべん)をつけ、いまではすっかり一般的になった「自動折りたたみ式ルーフ」も、プジョーは「402」のいちバリエーションとして、戦前に開発、市販していた。スタイルだけでなく、テクノロジーの面でも先取の気質が十分だったわけだ。しかし時の流れは残酷で、大衆は忘れやすいものである。RCZをして「プジョーTT」と呼ぶSさんを、誰が責められよう。

ナッパレザーで仕立てられたシートには、シートヒーターが備わる。オプションで、ダッシュボードやドアトリムもレザーにすることができる。
ナッパレザーで仕立てられたシートには、シートヒーターが備わる。オプションで、ダッシュボードやドアトリムもレザーにすることができる。 拡大
ATモデルのホイールは、写真の18インチが標準。MTモデルでは19インチとなる。
ATモデルのホイールは、写真の18インチが標準。MTモデルでは19インチとなる。 拡大
荷室は、スタイリッシュなクーペにしては意外に大きく感じられる。トランクリッドには、速度に応じて角度が変わるリアウイングが備わる。
荷室は、スタイリッシュなクーペにしては意外に大きく感じられる。トランクリッドには、速度に応じて角度が変わるリアウイングが備わる。 拡大
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きわどい個性

走り始める前に、リアウィンドウのワイパースイッチを探していて苦笑した。プジョーRCZ用のリアワイパー機構は、そうとう複雑なものになるだろう。なぜならRCZのリアガラスは、ルーフ左右にこぶをつくるダブルバブルの流れをデザイン的に引き継いで、こちらも優雅にふたつに膨らんでいるのだから。そんな微妙な曲面をふき取るワイパーなど、もちろん用意されない。サイドのルーフラインをわざわざシルバーに塗ってまで強調しているフレンチクーペのハイライトは、カタログにも掲載されている通り、斜め後ろから見た姿だろう。

そのわりに、と不思議に思うのがトランク部で、あたかもリトラクタブルハードトップ車かのように、見た目のボリュームが大きくて、視覚的に重たい。リアフェンダーを獣の後脚のように膨らませて躍動感を強調しているが、ちょっとカバーしきれていない印象だ。
しかしここは「プロポーションが……」と嘆くより、背後に流れる308シリーズとの血縁を論じるべきだろう。「なるほど! デザインに『CC』、入ってる」と。さらにトランクリッドを開けると、スタイリッシュなクーペにしては意外なほど大きな荷室が広がるさまに、「クーペでも合理性を重んじるフランス人」と、比較文化方面から攻めてもいい。何を攻めるんだか、よくわからないが。

プジョーRCZはたしかにカッコいいクルマだ。でも、あまりにクールですきがない「アウディTT」と比較して、どこか憎めない愛嬌(あいきょう)がある。「TTとの類似性? そんなこたぁ、わかってるんだ」とばかりに豪気に乗ると、男らしくていい。

乗員のヘッドクリアランスを確保しつつ、空気抵抗を考慮して、できる限り全高を落としたことを示す「ダブルバブルルーフ」。「RCZ」がもつ個性的ディテールのひとつである。
乗員のヘッドクリアランスを確保しつつ、空気抵抗を考慮して、できる限り全高を落としたことを示す「ダブルバブルルーフ」。「RCZ」がもつ個性的ディテールのひとつである。 拡大
サイドビュー。独特のプロポーションにより、あたかもリトラクタブルハードトップをもつクルマのようにも見える。
サイドビュー。独特のプロポーションにより、あたかもリトラクタブルハードトップをもつクルマのようにも見える。 拡大
「RCZ」のシート配置は2+2。後席のヘッドクリアランスはミニマム。あくまで非常用といったところ。
「RCZ」のシート配置は2+2。後席のヘッドクリアランスはミニマム。あくまで非常用といったところ。 拡大

ゴツゴツ硬い猫の足

犬と猫が大騒ぎしているような雨のなか、プジョーRCZが行く。猫足……のはずが、舗装が荒れているところが多い一般道では、たしかにあまり感心する乗り心地ではなかった。ゴツゴツしていて、乗員のオシリに伝わる硬さがナマな感じ。まだ「スポーティ」に昇華されていないというべきか。
では高速道路に乗ると格段によくなるかというと、これまたあまり感心せなんだ。80km/h付近で走っていると揺すられるような無粋な上下動が出て、隣にいるアンチRCZ派(ATモデルに限る)と顔を見合わせてしまった。

セダンやハッチバックといった、かの地のメインストリームから派生した“変わりボディ"のモデルは、初期には乗り心地やハンドリングで苦労するのが常で、(この文脈で例に挙げるのもどうかと思うが)初代TTデビュー直後の四苦八苦を記憶している方も多かろう。
日本への輸入が始まったばかりのRCZ。今回の試乗車がいわゆる「ハズレ」の個体だった可能性もあるし、プジョーのことだから、これからどんどん改善されるに違いない。

日本で購入できるプジョーRCZは、大きくわけて、オートマ右ハンドル(399万円)と3ペダル式6MTの左ハンドル(423万円)の2種類。どちらも1.6リッターターボを積むがチューンが異なり、前者が156ps/6000rpmの最高出力、24.5kgm/1400-3500rpmの最大トルク、後者が200ps/5800rpmと28.0kgm/1700rpmとなる。
6ATと組み合わされる156psユニットは、5000rpmを超えるとようやく声を高めるが、あまり存在を主張しないタイプだ。総じてルックスほど目立つ動力系ではないが、余裕の動力性能を提供する。

もし後日、再び違うプジョーRCZに乗る機会があるのなら、そのようなときこそは、ぜひ抜けるような青空の下、言い切りたいものだ。
「カッコさえ気に入ったなら、買い!」と。

(文=細川 進/写真=峰 昌宏)


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インテリアの様子。ダッシュボードには、新素材の「プジョーテクノテップ」を採用。優しい手触りが楽しめるという。
インテリアの様子。ダッシュボードには、新素材の「プジョーテクノテップ」を採用。優しい手触りが楽しめるという。 拡大
エンジンルーム。フェンダーのデザインを損なわないよう、ボンネットはホイールアーチごと開く造りとなっている。
エンジンルーム。フェンダーのデザインを損なわないよう、ボンネットはホイールアーチごと開く造りとなっている。 拡大

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