「スズキ・ジムニー ノマド」を徹底解剖! 兄弟車との詳しい違いと誕生の裏側を探る
2025.01.30 デイリーコラムむしろ今まで5ドアがなかったことが不思議
スズキがとうとう、5枚のドアを持つ「ジムニー」の日本導入を発表(参照)しましたね。その名も「ジムニー ノマド」。古参のスズキファンなら、この名前だけでつい落涙してしまう……かどうかは知らないけど(なんせ元ネタが地味だから)、これでより多くの人にとって、ジムニーが身近な存在となったのは間違いない。今回はそんなジムニー ノマドの国内正式発表に合わせ、取材会で気づいたこと、気になったこと、関係者(チーフエンジニアの佐々木貴光氏と、ボディー設計の髙市皓太氏)が教えてくれたことを、残さずここに書き記しておこうと思う。
そもそもまず意外というか、以前から不思議に思っていたのが、ジムニーに今まで5ドアが存在しなかったことだ。5ドアのジムニーは2023年発表のこの「ジムニー5ドア」(日本名:ジムニー ノマド)が初なわけだが、世界を見やれば、クロカンのかいわいでもとうに車形は5ドアが主流だ。スズキとしては「エスクード」がラダーフレームだった時代は「そちらをどうぞ」でよかったのかもしれないが、今やあちらはモノコックボディー+FFベースのクロスオーバーSUV。さすがにモノが違いすぎる。
この点について佐々木氏に尋ねたところ、やはり先代の段階で既に、マーケットからは「5ドアが欲しい!」という要望が挙がっていたとか。ところがスズキは慎重で、2018年に現行のJB64/74型がデビューした時点でも、その計画はなかったという。ジムニー5ドアの設定は、現行型の人気爆発と、それに伴って増幅した、+2枚のドアを切望する声が実現させたものなのだ。実際に検討が始まったのは2019年になってから。世界初公開が2023年1月の「Auto Expo」、インドでの発売が同年の6月なので、およそ4年の開発期間を経て、待望のジムニー5ドア/ノマドはデビューした次第だ。
となると、次に浮かんでくる疑問はこれである。彼らは4年もの間、なにを開発していたのか? それはもちろん、リアドアの実用性や後席の快適性、荷室の使い勝手なわけだが(この辺は当該ニュースをご参照あれ)、実はそれだけではない。ノマドでは、走りに関する部分もこと細かに手が加わっているのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
3ドアとは異なる乗り味と操作性
走りに関する変更について、まず紹介したいのはジムニーの魂が宿るラダーフレームである。当然ながら、長くなったホイールベースに合わせてセンターフレーム部を延ばしているのだが、そのままではねじり剛性が低下するので、延長部分にクロスメンバーを追加。またその箇所の角型パイプも、内部を仕切るように補強板を入れて、剛性を高めている。
加えて、センターフレームの左右にも補強のリーンフォースメントを追加。またボディーとフレームの間に挟まるマウントゴムを大型化して、フレームから伝わる振動の抑制も図っている。ボディー設計の髙市氏いわく、「5ドアのジムニーでは、8カ所あるマウントの一部がちょうどドアの下にきてしまうため、強度確保と乗り心地の両立に苦労しました」とのこと。げに自動車の設計は、外からは見えない苦労のカタマリなのである……。
こうした手当てはメカ系も同様だ。エンジンの種類やトランスミッションの設計なんかは基本的にシエラと共通。ドライブトレインのギア比なども一緒だが、4段ATは重量増に対応すべく各構成部品を高強度化。トランスファーケースから後ろへ伸びるリアプロペラシャフトも、長さを延ばすだけでなく径を太くして耐久性を高めている。
また足まわりでは、動的特性の変化に合わせてコイルスプリングのバネ定数を調整し、ダンパーの減衰特性を見直すとともに、スタビライザーの径も拡大。ブレーキも強化しており、フロントには放熱性に優れるベンチレーテッドディスクを採用した(シエラはソリッドディスク)。ちなみにこの足まわりだが、より頻繁な4名乗車と荷物の積載を想定して、シエラより穏やかめに調律しているとのこと。ロングホイールベースによる挙動の安定化とも相まって、キビキビ系のシエラに比して落ち着きのある乗り心地とハンドリング特性、そして高い直進安定性を実現しているという。……こりゃあ、比較試乗企画を実施するしかありまへんな!
無論、これらの変更は悪路での走破性や耐久性の担保にも効いてくるのだが、そもそもの「シエラ+340mm」というノマドの寸法自体、オフロード性能を考慮して吟味に吟味を重ねたものだとか。ちまたで言われるように、インドの法律(全長が4mを超えると税金が高くなる)だけを基準にした結果ではないのだ。実際、ロングホイールベース化により減じたとはいえ、ランプブレークオーバーアングルは25°を確保。シエラ(28°)よりは小さいが、もう一人の“山の神”「トヨタ・ランドクルーザー“70”」(26°)に迫る値となっている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
このADASは“3ドア”にも搭載される?
このほかにもジムニー ノマドには、ベースとなったシエラとは異なるところが、ビミョーにだが結構ある。わかりやすいのが見た目で、フロントにはキラキラのガンメタ塗装にメッキ装飾の専用ラジエーターグリルを装備。この辺りは、5ドアのジムニーが“母国”インドではマルチスズキの上級車種であることも関係するのだろう。なにせかの地では、高級販売チャンネルの「NEXA(ネクサ)」で取り扱われているのだ。車体色の設定もジムニー/ジムニー シエラとは異なり、鮮やかで元気のいい色よりは、落ち着きや上級感を覚えさせる色をそろえている。
なかでもノマドの専用色となるのが、「シズニングレッドメタリック/ブラックルーフ」と「セレスティアルブルーパールメタリック」の2種類。前者は現行のジムニーシリーズに設定される初めての“赤”で、郵便ジムニーに無類の尊敬と憧憬(しょうけい)を抱く一部のファンには、待望の色だろう。まぁ色味や彩度は結構違うし、しかも黒屋根とのセットでしか選べないんですけど。
また後者のセレスティアルブルーは、詳しい方ならご存じでしょう、コンパクトSUV「フロンクス」にも設定のある色だ。実は先述のネクサでは、この青が「ネクサブルー」と呼ばれてイメージカラーになっている。高級チャンネルの訴求色だけに、これが深みがあって実にきらびやかな色なのだ。既存のジムニーのイメージとは一味違うが、案外、人気が出るかもと思った次第。個人的にもビビビッときた色なので、ぜひご注目あれ。
いっぽう装備関連では、予防安全・運転支援システム(ADAS)の刷新が一番のトピック。オーストラリア仕様のジムニー5ドアと同じく、ステレオカメラ方式のシステムが搭載されているのだ。スズキでは現在、より新しい単眼カメラ+ミリ波レーダー方式のADASの導入を進めているが、こちらにしても現行「ハスラー」や「アルト」などが採用するバリバリ現役のもの。なにより既存のジムニー/ジムニー シエラのそれは、単眼カメラ+赤外線センサーの……なんというかクラシックな(オブラートに包んだ表現)システムなので、この辺りは劇的な進化といっていいでしょう。
これにより、あらゆる機能が既存の2車種よりステップアップしたのだが、なによりありがたいのが、AT仕様にジムニー一族で初めてアダプティブクルーズコントロールが採用されたこと。なんと、ついに、あのジムニーに、“半自動運転装置”が搭載されたのだ! よもやそんな時代が来るとは。こうして文章にしたためていて、あらためて感慨深くなった。
となると気になるのが今後の展開で、いずれはこのステレオカメラ方式のADASが、ジムニー/ジムニー シエラにも導入されるのだろうか? 佐々木氏&髙市氏に聞いたところ、「商品計画に触れる話なので……フフフ」と言って、教えてくれなかったのだが……。ちなみに装備関連だと、細かいところではリアフォグが付いていたり、間欠ワイパーに作動間隔の調整機能が追加されていたりもします。これも地味にありがたい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
日本の湖西工場と同様の品質管理でデリバリー
最後に、ちょっと聞きづらい疑問についてもいくつか聞いてみた。ひとつは日本導入のタイミングに関してだ。読者諸氏のなかには、インドでの発売から1年10カ月遅れという“時差”に、「なにかあったんじゃない?」といぶかる人もおられよう。しかし、これについては「当初からの予定どおり」というハッキリした回答を得た。
今日ではインドに加え、中近東、中南米、アフリカ、オーストラリアでも販売されている5ドアのジムニーだが、その導入スケジュールはすべて、製造を担うインド・グルガオン工場の生産計画をもとに組み立てられたものだ。そこで日本向けが後回しにされたのも、ローカライズの難しさを思えばまぁ納得がいく。同じインド生産の「フロンクス」にしても、2023年4月インド発売→2024年10月日本発売で、日本導入までに1年半かかっている。右ハンドル……なのはインドも同様だが、法規が異なるうえにADASが必須で、品質についても小うるさい(笑)日本に製品を導入するには、このくらいの時間はかかるものなのだろう。
次いで、最後の最後に聞いたのが……「インド生産で品質は大丈夫?」というものだ。怒るかな? と思ったが、佐々木氏、髙市氏とも「むしろ聞いてほしかった」「お客さまの不安を払拭(ふっしょく)するのが大事なんで」と前のめりに教えてくれた。いわく、グルガオン工場のジムニー ノマドのラインには、日本でジムニー/ジムニー シエラを生産する湖西工場と同様の品質管理を導入しており、ラインオフ後は粉じんなどで傷がつかぬよう、厳重に梱包(こんぽう)して移送・輸出。日本に到着したらあらためて湖西工場で点検を実施し、アナタのもとに届けられるという。要は「日本と同じ品質管理で送り出されるので、無問題」ということだった。
そうはいっても実車はどうなのよ? と問われれば、撮影会で現物をなめ回し、カメラが火を噴くほど激写しまくり、100枚からの写真をギャラリーにアップした記者としても(ちょっとだけスズキ提供の写真もありますが)、湖西製のジムニーとの違いを見いだすことはできなかった。ご世間には心象的にアジア製品を忌避する人がままいるが、その理由を品質のせいにするのは、いい加減ムリがあると思うぞ。
そんなわけで、記者は品質についても全然心配していない。アッチコッチ触った感じ、肝心の実用性も申し分なさそうだし、これでジムニーの売り上げも爆増……とまではいかなくとも、きっとまた売れちゃうんだろうなぁと思っている次第だ。むしろちょっと不安なのは、3ドアのシエラのこと。過去の他車の例を見ると、こうして5ドアが登場すると、そちらに人気が集中していつの間にか3ドアが終売、というのがお約束なのだ。同門のエスクードもそうだったしね。
海外マーケットもあるし、さすがに絶版なんてことはないだろうが、「気づいたらシエラは国内販売終了」というのはあり得そうで怖い。どうかジムニーファンの皆さん、ちょっと不便だけど無類にカッコいいジムニー シエラも、どうぞ愛してあげてください。
(webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>)
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆【ニュース】「スズキ・ジムニー」に待望の5ドアモデル「ジムニー ノマド」登場
◆【画像・写真】「スズキ・ジムニー ノマド」の外装・内装を詳しくチェックする(104枚)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。