第413回:それでいいの? 過剰安全ニッポン!
深夜3時ナゾの“無工事”車線規制の愚
2010.10.22
小沢コージの勢いまかせ!
第413回:それでいいの? 過剰安全ニッポン! 深夜3時ナゾの“無工事”車線規制の愚
工事していないのに規制!?
いやー、久々に怒! 怒!! 怒!!! っていうか、このまま行くと日本の交通社会はもちろん、ひいては日本はどうなっちゃうんだろ? と思いましたね。道路の安全に対する考え方というか、根本の安全思想!
というのも先日終わったばかりですけど、10月4日から15日のうちの9日間、東名高速で集中工事やってたじゃないですか。多くの区間で2車線を1車線にして。
それ自体は別にいいと思うんですね。道路は生ものというか傷むもの。何年かに1回の集中工事も必要でしょうし、多少の犠牲も必要。ただ問題はその中身ですよ中身!
まずは10月6日の昼間。取材で東京から名古屋まで行く用事があって、わけあって中央を使わずに東名で行ったんですわ。渋滞覚悟で。そしたら東京インターから名古屋インターまでのほぼ300kmがずーっと1車線で、いつもは3〜4時間ちょいで行くところが、実に倍の7時間半。朝8時台に出て、着いたの午後4時ですよ。ふぅ〜。
で、通った人は知ってると思うけど、工事してるはずの1車線、ずっと工事してるわけじゃないんだよね。数100m、いや数kmの間作業してなくても連続で車線規制しっぱなし。理由はホームページでも現場の看板でも訴えてるけど、「安全のための連続規制中」ってことになってます。
正直、個人的には全く納得できない。空いてるところが数kmもあれば、速い乗用車が、遅いトラック抜いて前に出ることができ、それだけでも効率的な上、エコロジーでもある。ところが工事側はそういう追い抜きやスピードが“危ない”というリクツだ。
俺的には、それがわずか100m程度の無工事区間ならわかるが、延々と何kmも2車線空いてるのに通れないのは理解できないし、なんらかの基準を示してほしいが、ここは一応大人である。一歩譲って、「仕方がない」としよう。
でも……。
豊明−浜松間、なんと無工事!
その夜のことですよ。あまりに渋滞が無駄だってんで、仲間を新幹線で帰らせ、俺一人、翌日の箱根の試乗会に行くために愛知県の豊明から御殿場までクルマで行くことにしたんですね、早朝。
起きたのは午前2時、豊明インターに入ったのは3時頃ですわ。そしたらガチョーン! 「岡崎−三ヶ日 渋滞60分」の表示(注:岡崎−三ヶ日間は約45km)が。うーむ、侮れじ東名集中工事。深夜もやっていたとは……。
でもそれ自体は結構納得できる。だって道路工事は本来深夜にやるべきでしょう。騒音で迷惑をかける都心部はともかく、山間部はことによったら24時間作業も可能だし、そのぶん、工期を削ったり、昼間の渋滞緩和につなげることができるし。
そしたら走っててふと気づいたんですわ。豊明インターからしばらくして始まった1車線規制区間、もしや全然工事してないのでは? と。だって昼間はあって動いてたローラー車とか、スコップやツルハシを持った作業員を全然見かけないのだ!
で、渋滞でヒマなんで三ヶ日インター手前の宇利トンネルからマジでチェックしてみたわけですね。本当に作業してないのかと。以下ざっと当時のメモを見てみましょう。
4時23分:1カ所トラック発見。人気ナシ
4時25分:工事準備中の看板
4時35分:浜松西インターに原付発見
4時38分:238kmポスト、トラックのハザード点滅
4時39分:三方原PA 看板工事中だが人ゼロ
ざっとこんな調子です。三ヶ日から浜松インターで規制がいったん解除されるまでの約20km。目視した限り、工事車両や点検員は見ても、作業をしてる人は全く見なかったし、おぼろげな記憶を含めれば、豊明から約40km間なにもしてなかった。それどころかその後、再び焼津インター手前から車線規制が始まり、初めて工事を見かけたのは朝5時28分の静岡インター手前2km付近。実に50km以上にわたって無工事だったことになる!
これはちょっと許せない。もしも騒音で深夜作業がダメならパイロンを外せばいいし、それができないというのは、どちらかというと“安全”の名の元で行われた手間省きにも思える。というか、実は今回の深夜一車線規制区間で2回も事故処理現場を見かけたし、いったいどこが安全だっちゅーの!
そうでなくとも夜中走ろうとしてる一般人はもちろん、プロのトラックドライバーなんかをいったいどう思ってるんだろう。単に趣味で走ってるとでも思ってるのだろうか? とんでもない。みんな生活をかけて走っているのだ。そうでなくてもこの渋滞区間、本来料金を割引すべきじゃないだろうか。民営化したんだから。
安全は大切だけど……
というわけで一応説明を聞くべく、NEXCO中日本のお客様センターに電話してみた。すると……。
小沢:工事してないのに車線規制っておかしくないですか? しかもずっとですよ。
担当:テーパー(パイロンのことを言ってるらしい)を外すと事故が起こる危険性もありますし、お客様には大変ご迷惑をおかけしておりますが、ぜひご納得していただいて……。
小沢:全然納得できないし、そうじゃなくても夜中頑張って走ってるのに遅いなんて、料金割り引きとかしてほしいぐらいですけど。
担当:それが株式会社とは申しましても、実は国が株を100%持っておりまして、料金は国土交通省が決めるんです。
小沢:え?
担当:一方、土地や道路は再生機構(編集部注:高速道路機構)が管理しておりまして……。
小沢:なんだ、自分たちでなにも決められないんじゃない。全然民営化じゃないよ。
担当:それはいかんともしがたく……。
小沢:じゃ、車線規制は誰が決めてるの?
担当:それも行政側からお達しといいますか、指導がありまして……。
うーむ、話が横道にそれてしまいそうだが、結局、民営化によってますます責任の所在はわからなくなり、安全と効率のバランスに関する論議は、やみくもに安全重視になって、しかもクルマを運転しない、直接現場にタッチしない人に決められているよう。
そうでなくても最近、1カ所の工事現場に所在なさげな3人もの“棒ふり”こと交通誘導員がいるような過剰安全の国、ニッポン。たしかに安全は大切だし、やってやり過ぎることはないようにも思える。だが、そうすると究極的には自動車の存在自体を否定することになりかねないし、もう一歩極端に思考を進めると、人が一歩も外に出ないで、在宅勤務&在宅勉強で生活するのが一番ということにもなりかねない。
少なくともドイツではあんなに簡単に車線規制をしないし、工事するとしてもなんと路肩を使ってまで、普段同様の輸送量を確保しようとする。その効率化への執念は大変なもの。
結局、生活や幸せ、快楽はリスクなしでは存在しないのだ。たしかにリスクは減らすべきだが、自由や自己判断を尊重することもまた必要だと思う。
そこんところを、日本人は根本的なところから考え直さなければいけない時期に来ているんではないだろうか。マジで。
(文と写真=小沢コージ)
![]() |

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第454回:ヤマダ電機にIKEAも顔負けのクルマ屋? ノルかソルかの新商法「ガリバーWOW!TOWN」 2012.8.27 中古車買い取りのガリバーが新ビジネス「WOW!TOWN」を開始。これは“クルマ選びのテーマパーク”だ!
-
第453回:今後のメルセデスはますますデザインに走る!? 「CLSシューティングブレーク」発表会&新型「Aクラス」欧州試乗! 2012.7.27 小沢コージが、最新のメルセデス・ベンツである「CLSシューティングブレーク」と新型「Aクラス」をチェック! その見どころは?
-
第452回:これじゃメルセデスには追いつけないぜ! “無意識インプレッション”のススメ 2012.6.22 自動車開発のカギを握る、テストドライブ。それが限られた道路環境で行われている日本の現状に、小沢コージが物申す!?
-
第451回:日本も学べる(?)中国自動車事情 新婚さん、“すてきなカーライフに”いらっしゃ〜い!? 2012.6.11 自動車熱が高まる中国には「新婚夫婦を対象にした自動車メディア」があるのだとか……? 現地で話を聞いてきた、小沢コージのリポート。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。