ルノー・カングー リミテ(FF/7AT)/フォルクスワーゲン・ティグアンTDI 4MOTIONエレガンス(4WD/7AT)/ジープ・アベンジャー アルティテュード(FWD)
普通だけど普通じゃない 2025.03.16 試乗記 「ルノー・カングー」「フォルクスワーゲン・ティグアン」「ジープ・アベンジャー」をまとめてドライブ。何の脈絡もないようだが、みな欧州仕込みのごく普通のクルマである。それぞれの乗り味や個性、使い勝手などをリポートする。計算が合わない
ルノー・カングー リミテ
高速道路のジョイントを越えた後の収束がこれまでとは違う。聞こえる音がタタンッではなくタタンと一拍早く終わっている。これはただのカングーではなく、日本全国で50台しか販売されなかったカングー リミテなのだ。
カングー リミテは「こだわりの旅やアウトドアへ出かける大人のロングツーリングをより快適にする限定車」とされている。パワーユニットは1.3リッター4気筒ガソリンターボエンジンで、131PSの最高出力と240N・mの最大トルクを発生。このあたりはベースモデルの「クレアティフ」グレードと変わらない。
ボディーが引き締まって感じたのは、「パフォーマンスダンパー」が装着されているためだろう。もともとはヤマハの製品だが、これを欧州車のチューニングで知られるCOXがカングー専用に最適化。走行中の微小なボディーの変形や振動をダンパーで抑制する。新型カングーは決してボディーが緩いクルマではないが、いかんせん開口部が大きいゆえに効果は如実に感じられる。単体で購入すると11万円もするこのボディーダンパーを、カングー リミテは標準で装備している。
リミテの価値はそれだけではない。足元で鈍い光を放つのはOZ製の16インチアロイホイールだ。17万6000円相当のこのホイールもまた、リミテは標準で装備する。マットブラックは専用塗装だという。まだある。クロスバー一体型のルーフバーも標準装備だ。これがなかなか便利な逸品で、ルーフバーの横棒を、使わないときはルーフレールと重ねてしまっておけるようになっている。横棒が出しっぱなしだと走行中に風切り音が気になるものだが、その心配がない。これが7万2490円相当。前後の黒いルノーエンブレムも特別感を演出する大事なポイントだ。これが1万6500円相当。
もうひとつ。カングー リミテには「ジョンアグリュム(黄)」と「ブランミネラル(白)」の2色のボディーカラーが設定されており(各25台限定)、これと同系色の折り畳み自転車が付属している。自転車が付属していても持て余すことがない、大きなラゲッジスペースを持つカングーならではの特典といえるだろう。
実は自転車以外の項目はすべてカングーのアクセサリーカタログに掲載されており、価格はそれをもとに算出している。自転車だけは同じ手が使えないのでインターネットで調べたところ、大体5万円~7万円くらいで販売されているらしい。なので6万円相当としよう。
電卓のご準備はよろしいでしょうか。カングー リミテの価格は395万円で、これには特別に装備(&付属)する総額43万4990円相当のアイテムが含まれている。それに対してアイテムが“付属しない”カングー クレアティフの価格は395万円。リミテとクレアティフの差額が算出できただろうか。計算を間違えたと思った方は何度でもやり直してもらって構わない。
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm/ホイールベース:2715mm/車重:1580kg/駆動方式:FF/エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ(最高出力:131PS/5000rpm、最大トルク:240N・m/1600rpm)/トランスミッション:7段AT/タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(ハンコック・ヴェンタスevo SUV)/燃費:15.1km/リッター(WLTCモード)/価格:395万円
がんばれアイダくん!
フォルクスワーゲン・ティグアンTDI 4MOTIONエレガンス
ステアリングホイールにずらりと並んだボタンを見てほっとした。と同時に先代モデルで東北道を北上していたときのことを思い出していた。
あれは5年ほど前のこと。アダプティブクルーズコントロールに頼って前走車を追従していると、時折カチッ、カチッという音が聞こえる。原因を探ると、左手の親指の付け根がステアリングホイールのタッチスイッチをかすめていた。そのたびにアダプティブクルーズコントロールの設定速度が1km/hずつ上がっていく。気がつけば設定速度は制限速度のはるか上。あわてて戻したので事なきを得たが、もし前走車がいなかったら……と考えて青ざめたのだった。
新型はタッチスイッチからプッシュボタンへと、トレンド的には先祖返りだが、いわば着実な進化を果たした。ブラインド操作が前提のスイッチだけに、やはり確実な操作感が得られるほうがよい。
すでにいろいろなところで紹介されているので車両の基本的なことは他の記事に譲るが、このクルマは2リッター4気筒ディーゼルターボエンジン搭載で4WDの「TDI 4MOTIONエレガンス」である。2つの尿素SCRによるツインドージングシステムを搭載するなどしているが、電動化という意味では丸腰。同じティグアンでもマイルドハイブリッドの1.5リッター4気筒ガソリンターボモデル「eTSI」との違いが気になる人も多いことだろう。そもそも4WDとFFで値段も全然違うのだが、それはそれとして。
普通にドライブしていて一番違うのは、マイルドハイブリッドがないTDIはアクセルオフ時のコースティングがないことだ。eTSIは一般道でも高速道路でも隙あらばエンジンオフで空走して燃費を稼ぐが、TDIにはそれがない。eTSIはコースティングの始まりもエンジンの再始動も注意深く観察していないと気づかないほどにスムーズだが、ひとつだけ困るのは下り坂で日本車のように勝手に加速してしまうことだ。空走しているので当然だし、左パドルを引くなりSレンジに入れるなりすれば済むことではある。TDIの場合は速度をキープしたまま下ってくれるので、ドイツ車を乗り継いでいる人などにはこちらのほうが受け入れやすいかもしれない。
新しいティグアンのインストゥルメントパネルには15インチの特大タッチスクリーンが搭載されている。視認性が高く、操作に対する反応もキビキビしている。ただし、ボイスアシスタントの「IDA(アイダ)」だけはちょっと煮詰め不足というか、役立たずというか……。事前にスタッフから「まだ成長途上ですのでお手柔らかに」と聞いてはいたのだが、それにしてもである。
まず、「東京タワーに行きたい」などのコマンドでは目的地設定ができない。「エアコンの温度下げて」と頼むと、2月の頭だというのにいきなり「LO」になり、冷風を浴びせかけられる始末。スタッフの「『冗談を言って』くらいならできるんですが……」の言葉を信じて試してみたところ、「このコマンドは学習していないんですがやってみます」との謙遜の後に「真っすぐ走っていても曲がってしまう人は? お巡りさん」とスムーズに返してくれた。何度も試してみると「クルマで走っていてもカーブで落としてしまうものは? スピード」「クルマが来るまで待ってて」「ひっくり返ると軽くなる動物は? イルカ」「貝は貝でもお風呂に入っている貝は? 温かい」と続けた。おお、できるじゃないか。さらに試すと「真っすぐ走っていても……」「クルマで走っていてもカーブで……」。彼のネタ帳はだいぶ薄いらしい。
実は「とうきょうと、しぶやく、えびすみなみさんちょうめ……」と丁寧に吹き込んだところ、編集部までのルート案内ができた。そのことをスタッフに伝えたところ、「え、できたんですか!」とかえって驚かれてしまったほどだ。
このように再調教が必要なアイダくんではあるものの、幸い彼にできてドライバーにできないことは今のところひとつもない。必要なことは自分でやって、アイダくんはどんなことならできるのか、どんなコマンドなら聞き入れてくれるのかを探すのもひとつの楽しみではないだろうか。
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4545×1840×1655mm/ホイールベース:2680mm/車重:1750kg/駆動方式:4WD/エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ/トランスミッション:7段AT/最高出力:193PS(142kW)/3500-4200rpm/最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-3250rpm/タイヤ:(前)235/55R18 100V XL/(後)235/55R18 100V XL(ハンコック・ヴェンタスevo SUV)/燃費:15.1km/リッター(WLTCモード)/価格:621万8000円
同じでいいじゃないか!
ジープ・アベンジャー アルティテュード
「ジャッ、ドン、ジャッ、ドン……」
ウインカーを操作するとジャズドラムのような心地よいサウンドが鳴り響く。この4拍子を聞きながら車内でまどろむのも悪くない時間の過ごし方だ。後続車のクラクションで左折の途中だったことを思い出し、あわててアクセルを踏む。
アベンジャーはまぎれもないジープだが、前輪駆動のみしか用意がない。最高出力156PS/4070-7500rpm、最大トルク270N・m/500-4060rpmというモーターのスペックは今どきの電気自動車としては控えめであり、実際にも加速はマイルドで、床まで踏めば別だが扱いづらさはまるでない。全長4105mmのコンパクトカーにふさわしい加速感を得られる。
そのおかげというべきか、このサイズで486kmものWLTCモード燃費を実現しているのは立派だ。駆動用バッテリーの容量は54kWhとされている。
室内はといえば、ほとんどすべてがプジョーやシトロエンの最新モデルでおなじみのコンポーネンツで構成されている。ナビゲーションやメーター、ペダル、ドライブモードのスイッチなどである。同じステランティス グループのなかでも旧グループPSAが開発したプラットフォームをベースにしているそうで、前輪駆動しかないのもそのためだろう。生産も欧州だという。
「フィアット600e」や「プジョーe-2008」などの兄弟車にあたるそうだが、例えば600eは内外装の至るところに「600e」のロゴがちりばめられていたのに対し、このアベンジャーは「Jeep」のロゴや「ラングラー」っぽいアイコンなどで対抗している。一応アベンジャーには「スノー」や「マッド」といったジープらしいドライブモードも備わっているが、普段から使うような機能ではないし、ましてや前輪駆動だ。
実はアベンジャーに乗りたかったのは、600eとの違いを確かめたかったからなのだが、何も変わらないことが分かった。どちらにも機能や装備面で不満があるわけではないし、ジープが好きな人はジープを、フィアットが好きな人はフィアットをと選べるようになっているのが親切といえば親切だ。ただし、回生と油圧の切り替えポイントで急にタッチが変わるブレーキの感触だけはどちらも何とかしてほしい。
(文=藤沢 勝/写真=田村 弥、峰 昌宏/編集=藤沢 勝)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4105×1775×1595mm/ホイールベース:2560mm/車重:1570kg/駆動方式:FWD/モーター:交流同期電動機/最高出力:156PS(115kW)/4070-7500rpm/最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/500-4060rpm/タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUV)/一充電走行距離:486km(WLTCモード)/交流電力量消費率:127Wh/km(WLTCモード)/価格:585万円

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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