ポルシェ911カレラ(RR/8AT)/メルセデスAMG GT43クーペ(FR/9AT)/MINIクーパー3ドアC(FF/7AT)
そんな時代もあったねと…… 2025.03.23 試乗記 「ポルシェ911カレラ」と「メルセデスAMG GT43クーペ」と「MINIクーパー3ドアC」。年初恒例のJAIA輸入車試乗会で、webCGこんどーはドイツメーカーの“魂”のこもった3台にチョイ乗りし、クルマの愉(たの)しさをかみしめた。変わらないもの
ポルシェ911カレラ
エンジンをかけた瞬間、「ああ、やっぱり911だ」と思う。タイトなコックピットに身をしずめ、ステアリングを握ったときには、すでに特別な時間が始まっている。アクセルペダルに足を乗せる。エンジンがスムーズに始動し、走り出す。その瞬間、思わず笑ってしまう。なんだ、この一体感。この滑らかさ。その進化は、やっぱり期待を超えてくる。
まず感じたのは、意外なことに静かさだった。エンジン音も排気音も控えめで、室内には上質な響きだけが広がる。けれど、ひとたびアクセルを深く踏み込めば、精緻に、しかし力強く回転が上昇し、車体を一気に前に運ぶ。それはもはや機械というより、まるで生き物のような反応のよさだ。
サウンドと同様に、シャシーにも変化がみられる。市街地や高速道路での乗り心地はしなやかで、従来型以上に快適性を重視したモデルに仕上がっている。このカレラに関しては、ピュアなスポーツカーというより、万能のグランドツーリングカーといった趣である。
インテリアでは、ついにメーターがフルデジタル化された。伝統の5連メーターを模した設定も用意されているが、中央の回転計だけは機械式を残していた“こだわり”が失われたのは、少しさびしい。エンジンのスタート/ストップが、ノブをひねる動作から一般的なプッシュ式に変わったのも、911ならではの「儀式感」を求める人には、やや物足りないかもしれない。
そしてさらなる大きな変化。911カレラ史上初めて2シーターが標準となった。後席は無償オプションで選択可能なので、後席を追加したほうがこのカレラのキャラクターには合っているように思うが、911シリーズ全体としては、より純粋なドライビングマシンとしての性格が強まったと考えるべきだろう。
いつまでも、どこまでも走りたくなるクルマとは、911のことだ。ステアリングを握れば、たぶんそれは誰にでもわかる。そしてそれは、その心臓部に「911の魂」が息づいているからに違いない。空冷から水冷に変わっても、ボディーが大きくなっても、さらなる電動化が進んでも、MTが廃止されることがあっても、おそらくそれは変わらない。
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1850×1300mm/ホイールベース:2450mm/車重:1570kg/駆動方式:RR/エンジン:3リッター水平対向6 DOHC 24バルブ ターボ(最高出力:394PS/6500rpm、最大トルク:450N・m/2000-5000rpm)/トランスミッション:8段AT/タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)305/30ZR21 104Y/燃費:10.7-10.1リッター/100km(約9.3-9.9km/リッター、WLTPモード)/価格:1694万円
テクノロジーで挑む
メルセデスAMG GT43クーペ
AMG GTクーペとはいっても2リッターだし、911カレラのあとに乗るのは酷かも……。そう思いながらキーを受け取る。プッシュボタンを押すと、直4ターボが目を覚ました。もちろん並のエンジンじゃない。アファルターバッハ仕込みの「M139」、F1由来のエレクトリック・エグゾーストガス・ターボチャージャーを搭載する。最高出力は421PS、最大トルクは500N・m。数字のうえではガチのライバルと目される911カレラを超えている。
そっとアクセルを踏む。走り出した瞬間、またも笑ってしまった。物足りなさなんて微塵もない。エンジンも軽くなっていることだし、ライトウェイトスポーツカーのような雰囲気なのかと思いきや、まったく違って重厚感あふれる仕上がりだった。街乗りの限りにおいては、「AMG GT63」とエンジンの存在感以外ほぼ変わりがない。
いっぽうで、911と比べるならば、そのキャラクターは全然違う。「古き良き」の伝統をできるだけ残そうとする911に対して、AMG GTは「ハイテク感」「先進感」を前面に打ち出す。ノスタルジーをまったく感じさせようとしないのだ。テクノロジーそのもので愉しませるような感覚がある。9段ATの変速は、この上なくダイレクト。アクセルオンで瞬時にブーストがかかり、どの回転域からでも鋭く立ち上がる。
乗り心地は、先に乗った911カレラ並みに快適だ。AMGライドコントロールサスペンションが絶妙なバランスで機能し、街乗りではしっとりと路面をいなす。いっぽうモードを「SPORT+」に切り替えると、エンジンの反応を含め、すべてが好戦的になる。日常での扱いやすさからサーキットなどでのスポーツ性能まで、あらゆるシーンを最新技術でカバーしようとしているのだ。
インテリアにもまた特筆すべき点が多い。航空機からインスパイアされたというウイング形状のダッシュボードやタービンノズル型エアアウトレットはスポーティーな印象。それらが11.9インチの縦型メディアディスプレイや12.3インチのデジタルコックピットディスプレイとも相まって、メルセデスが「ハイパーアナログ」とうたう、デジタルとアナログが絶妙に融合したデザインに仕立てられている。
V8じゃないAMG GTなんて邪道だ。という人もいるかもしれない。でも、きっとこれこそがメルセデスの流儀なのだ。ポルシェ911がスポーツカーの王道を行くなら、AMG GTはその対極。過去を引きずらず、常に最新の技術でもって挑み続ける。「最善か無か」がここにもある。
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1930×1365mm/ホイールベース:2700mm/車重:1800kg/駆動方式:FR/エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ(最高出力:421PS/6750rpm、最大トルク:500N・m/5000rpm)/モーター:スイッチトリラクタンスモーター(最高出力:13.6PS/2500-5100rpm、最大トルク:58N・m/50-1300rpm)/トランスミッション:9段AT/タイヤ:(前)265/40R20/(後)295/35R20/燃費:10.6km/リッター(WLTCモード)/価格:1650万円
変わらないのに全然ちがう
MINIクーパー3ドアC
911からAMG GTときて、最後に乗ったのがMINIクーパー。ホッとする。力が抜ける。ゴーカートフィーリングとかいわれても、ぜんっぜん“気楽さ”がちがう。クルマと長く付き合ううえで、“気楽さ”とか“気軽さ”ってかなり重要な項目だと思っています。
で、新しくなったMINIクーパー3ドア。外観も内装もけっこう変わっているのに、全体のイメージはあまり変わっていない。そこがスゴイ。
まずは見た目から。だいぶスッキリとした印象になった。2001年にデビューしたBMW製のMINI。初代は凝った造形ながら全体のデザインはシンプルなものだったけど、第2世代(2006年~)、第3世代(2013年~)と代を重ねるごとに、ボンネットに穴があいたり、フロントマスクがゴテゴテしたりと、デザインがややこってりしてきた。それが今回、「クーパーSE」などのEV版と歩調を合わせるかたちで、相当シンプルな形に回帰した。
インテリアは、外観以上に大きく変わった。デジタル技術の進化に加え、新たな素材使いの妙もあって、ひとことで言うと四半世紀分モダンになった。ひと目見てMINIだとわかるのに、これまでのモデルとは全くちがう印象になった。どちらが新しいかを1万人に聞いても、ひとりも間違わないレベルで進化した。100点満点!
で、乗ってみるとどうだったか? これまでつくり込まれていたMINIらしさーーゴーカートフィーリングに象徴されるステアリングのクイックさや、乗り心地の硬さーーがだいぶ穏やかになった。まだ意識的に残している部分はあるのだろうけど、「かったいなぁ」とか「うるさいなぁ」とか思わなくなった。これは変化ではあるけれど、進化なのでしょうか? 静かでスムーズなEV版の登場がおそらく影響しているのではあるまいか。
今回試乗したのはベーシックグレードの「C」だったけれど、よりパワフルな「S」とか「JCW」とどちらがいいのか? 飛ばしたい人、飛ばしちゃう人はSとかJCWがいいのかもしれませんが、令和の世の中、あんまりそういうのもどうなんでしょう。パワートレインに悩むのではなく、豊富に用意されるトリムの選択に頭を悩ませる人のほうが、今どきのMINIには合ってるように思います。
(文=webCGこんどー/写真=田村 弥、峰 昌宏/編集=近藤 俊)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3875×1745×1455mm/ホイールベース:2495mm/車重:1280kg/駆動方式:FF/エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ(最高出力:156PS/5000rpm、最大トルク:230N・m/1500-4600rpm)/トランスミッション:7段AT/タイヤ:(前)195/55R16/(後)195/55R16/燃費:16.3km/リッター(WLTCモード)/価格:396万円

近藤 俊
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