ボルボEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ(RWD)
アドバンテージをもうひとつ 2025.03.15 試乗記 ボルボの新世代を代表するエントリー電気自動車(BEV)「EX30」に、冬の新潟・妙高高原で試乗。注目したのは、果たしてリアにモーターを積む後輪駆動のBEVで安心・安全な冬道ドライブが行えるのかという点である。刻一刻と表情を変える雪道での印象を報告する。新世代ボルボの旗手
試乗車両の外板色は、「モスイエロー」と呼ばれる何ともいえないニュアンスのイエローだった。白い雪原と、ときおり雲の合間からのぞく青空にことのほか映える。そうした雪に囲まれたロケーションで見るEX30は、「さすがは北欧のデザイン」などと大げさにほめるつもりはなくとも、シャープで存在感あるボディーデザインが最新世代のボルボ車であることを遺憾なく示す。その日本の道にフィットしそうなサイズ感は、ボルボ史上最もコンパクトなSUVとうたわれる。
最新世代のモデルで見慣れた「トールハンマー」型ヘッドランプやBEVらしさを表現するグリルレスのフロントフェイス、リアドアのウィンドウが後方に向かって跳ね上がっているのも今どきのボルボらしいデザインキュー。そのいっぽうで19インチサイズの存在感あるホイールと、2段重ねのリアコンビランプがSUV風味を演出。新鮮で多目的車に期待されるタフさと力強さが表現された、個性あふれるエクステリアデザインだと思う。
こうしたルックスは、従来のボルボ車の延長線上にあることは間違いないが、洗練されており、グリルでブランドを誇示するモデルをひと世代前の存在に追いやってしまいそうだ。そのEX30のボディーサイズはというと、全長×全幅×全高=4235×1835×1550mmとコンパクト。内燃機関を搭載する「XC40」から独立したBEV「EX40」の同4440×1875×1650mmよりも205mm短く、40mm幅が狭く、100mm低いひとまわり小さな外寸もEX30の特徴だ。多くの機械式駐車場に対応する全高は、都市部でも使い勝手がいいだろう。
日本で販売されるEX30は、現在のところ後輪駆動モデルの「EX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ」のみである。そのいっぽうでフロントにモーターを追加した4WDモデル「ツインモーター」や、アウトドアテイストをまぶした「EX30クロスカントリー」も登場しており、ラインナップを拡充中。両モデルとも日本への導入が確実視されている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
不安定な感覚は皆無
今回、冬の新潟・妙高高原でステアリングを握ったEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジは、リアに最高出力272PS、最大トルク343N・mを発生する電気モーターを1つ搭載し、容量69kWhの駆動用バッテリーで後輪を駆動。その一充電あたりの走行距離は560km(WLTPモード)とされる。
雪深い信濃路で後輪駆動の電気自動車をドライブする。そう聞くと、少々腰が引けてしまうのだが、そもそもかつてバブル期に輸入ステーションワゴンブームをけん引したボルボ車はもれなく後輪駆動であった。何の気休めにもならないとはわかりつつも、1980年代に生まれて初めて運転したボルボ車が、スパイクタイヤ(!)を装着した「ボルボ740エステート」だったことを思い出す。後輪駆動の電気自動車を真冬の雪国で乗ったらどうなるのかを確かめるのも、この試乗の重要なテーマのひとつである。
スタッドレスタイヤが純正サイズの「ミシュランX-ICE SNOW」であることを確認し、ステアリングコラムの右側から生えるシフトセレクターを押し下げてDレンジに入れる。タイヤがキュキュッと圧雪路を踏みしめつつ進む感じは、いかにもリアルな雪国の道にいることを意識させる。まわりのクルマの流れに合わせるべくスピードを上げていっても4輪のグリップ感がしっかりと伝わってくる。その加速シーンにおいて、ステアリングが軽くなるような不安定な感覚はない。
これは山道の上り下りを問わず一貫した印象だ。バッテリーを床下に敷き詰めたBEV専用プラットフォームのSEA(サステナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャー)の恩恵であると想像できる。長い下りの直線でブレーキを軽く踏むようなシーンでも、車両は安定している。シャシー制御が残念なモデルは、ステアリングが左右のどちらかに少しでも操舵されていると、リアがその反対方向に振られてヒヤリとするところだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
スタイリッシュなインテリアの功罪
雪道に限らず、初めての土地での運転では、できるだけ車両周囲の情報を視覚的に得ておきたい。EX30はスタイリッシュなフォルムから想像するよりも運転席からの視界が(斜め後方以外は)クリアである。良好な視界は、安全性の向上やストレスのない快適な運転につながる。このあたりのこだわりは、なんとなくスバル車と共通するような気もして、そういえば昔から「安全」をまずは第一に唱えるのが両ブランドであったとも気づく。
インテリアには、スイッチや計器を極力排したシンプルなデザインが採用される。メーターパネルをはじめ通常ドライバー正面に置かれることの多いデバイスの多くが12.3インチの縦型センターディスプレイ内のメニューに収められている。シフトセレクター以外の運転関連スイッチは、ウインカーとワイパーの操作系を一本にまとめたレバーと、ステアリングホイールのスポークに埋め込まれたスイッチのみ。ドアにはパワーウィンドウのスイッチすらない。
そのパワーウィンドウスイッチは、運転席と助手席の間にあるセンターコンソール上部に左右分がセットで配置されている。つまり、助手席の人との兼用スイッチである。いっぽう後席の乗員用となるパワーウィンドウスイッチは、センターコンソール後端に左右分がセットで配置される。もしも前席からリアのパワーウィンドウを操作しようとすると、フロント用のパワーウィンドウスイッチのそばにある切り替えスイッチでリアの操作を選択する必要がある。当然使っていくうちに「いまどっち用?」と、混乱するわけだ。
ここで長々とパワーウィンドウスイッチの操作方法を述べるつもりはないが、つまりシンプルで合理的と紹介されるEX30のインテリアは、すっきりとした見た目を保つために多少の面倒くささや、ダイレクトでわかりやすい操作方法からの逆行と共存していることを理解しなくてはならないということである。スイッチを減らすために操作の手間が増えるのであれば、それは果たして人にやさしいのだろうか。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
SUVの最低地上高とトラコンに助けられる
妙高高原でも有数の規模を誇るスキー場を背に街まで下る長い山道で、EX30はリアにモーターを積んだ後輪駆動モデルを意識させることなく、安定した走りを披露した。エンジン搭載車でいえばリアエンジン・リア駆動のモデルとあれば、運転が難しそうだったり挙動がピーキーだったりと、いくぶんステアリングホイールを握る手に力が入ってしまうところを、一定のペースで安全に下ることができた。おそらくリズムよくワインディングロードを下っているその瞬間においては、後輪駆動モデルであるということを忘れていたかもしれない。
バッテリーを広く低く敷き詰めた低重心化と出来のいい電子デバイス、リアモーター・リア駆動ながらも前軸重量840kg、後軸重量950kgとバランスのとれた前後重量配分、そしてミシュランのスタッドレスタイヤが織りなす走りは、トンネルを抜けた先の雪国でも十分通用しそうだ……と、それっぽくまとめてはみたが、車内では「後輪駆動でも結構いける。いやむしろ、滑り始めがわかりやすくてグリップの回復もさほど唐突ではないから楽しい」と同行のカメラマン氏と盛り上がっていた。その流れで誰も入っていない新雪の駐車スペースで撮影しようとEX30を低速で進めると、好事魔多し。クルマが「グゴゴッ」との音とともに動かなくなった。
実のところわれわれは、新潟・越後湯沢の農道で4WD車をスタックさせ、レスキューを呼んだ経験を持ついわくつきのコンビである。「昨シーズンの悪夢ふたたびか?」と顔を見合わせつつ、いったん下がってアクセルをジワリと踏み込み脱出を試みると、新雪の駐車場から難なく抜け出すことができ、「おおー」との感嘆がこぼれた。ここはEX30の175mmの最低地上高と、優秀なトラコンに助けられたかっこうだ。
BEVの充電や走行可能距離、電費といった性能ではなく、シンプルに冬道のドライブにフォーカスした今回は、「後輪駆動は雪道では扱いづらくて怖い」というイメージを拭い去るに十分であった。走破性は4WDに譲るとはいえ、電費と走行距離は2WDが有利。運転に慣れたドライバーはコントロールする楽しさを実感し、多くの人はモーターと電子デバイスの緻密な制御によって安全に滑りやすい路面をドライブできる。静かで加速がいいだけではないBEVゆえのアドバンテージをもうひとつ、肌で感じた雪上行軍であった。
(文=櫻井健一/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
ボルボEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1835×1550mm
ホイールベース:2650mm
車重:1790kg
駆動方式:RWD
モーター:永久磁石同期電動機
最高出力:272PS(200kW)/6500-8000rpm
最大トルク:343N・m(35.0kgf・m)/5345rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102H/(後)245/45R19 102H(ミシュランX-ICE SNOW)
一充電走行距離:560km(WLTCモード)
交流電力量消費率:143Wh/km(WLTCモード)
価格:559万円/テスト車=567万9650円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット>(8万9650円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1万4423km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:24.4kWh/100km<約4.1km/kWh>(車載電費計計測値)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。