ランドローバー オフロード試乗会【試乗記】
岩場も泥もお手のもの 2010.10.11 試乗記 ランドローバー オフロード試乗会「レンジローバー」から「フリーランダー2」まで、ランドローバー全モデルにオフロードコースで乗れる試乗会が開催された。ランドローバー・ファミリーがそこで示した実力は?
なんとももったいない話だ
仮に「レンジローバー」を所有しているとする。本格的なクロスカントリー・コースを走り、このクルマのたぐいまれなるオフロードの走破性能を堪能できるチャンスはどれくらいあるのだろう? それはおそらくフェラーリを所有している人がサーキットに走りに行く機会より少ないのではないか?
プロユースのツールが、都市部ではイメージのみ高級嗜好(しこう)品として消費されるのはよくあることだ。ぜいたくといえばそのとおりかもしれない。しかし、それが健全な楽しみ方かどうかあらためて考えてみると、やっぱりちょっと疑問が残る。高い能力を使わないでいるなんて、なんとももったいない話である。
クロカン四駆がSUVを経てクロスオーバー車と呼ばれるようになり、オフロードの走破性がどんどん合理化されていく中で、ランドローバーというのはとても骨っぽいスタンスを保ち続けている会社である。同社の製品である以上、4WDであるのは当然で、たとえ街乗りセレブカーとして人気があろうとも、悪路の走破性能に妥協はしないと主張しているのだ(もっとも最近、「フリーランダー2」の現地モデルと新型「イヴォーク」にFWDモデルを設定する発表を行ったが)。
そして「フリーランダー2」にすら、ランドローバー車の基本性能をフルに引き出す上で欠かせない統合制御システム「テレイン・レスポンス」を標準で装着している。今回はそれを存分に試せる希有(けう)なチャンスである。
まずはファミリーの頂点に君臨する「レンジローバーヴォーグ」で、デコボコのモーグル路に入ってみることしよう。
テレイン・レスポンスは助手席の名インストラクター
モーグル路でコブを乗り越えるたびに、「レンジローバーヴォーグ」はユッサユッサとボディを揺らす。しかしリジッドアクスルのヘビーデューティーな四駆のように、容赦なく揺さぶってくるようなことはしない。独立懸架のエアサスがもたらす、穏やかで角が取れたジェントルな揺さぶりだ。
オフロードですらこの乗り心地の良さ。しかも泥や砂利の上で、白い革シートに座らせるというこの貴族的な感覚! 「レンジローバー」の“特殊性”はオフロードでこそ立体感を帯びてくる。
ところでこのサスペンション、外から見るとちょっと面白い動きをしているのがわかるだろう。独立懸架のくせに、サスペンションが押し上げられるとその反対側が逆に押し下げられるという、まるでライブアクスルのような動きをするのである。これは電子制御クロスリンク・エアサスペンションの働きによるもの。タイヤの接地性能を最大限に引き出すために、意図的にそういう制御がなされているのである。
また、モーグル路のような地形では、いま車両のタイヤがどんな状況にあるのか常に把握しておくことが大切だ。タイヤが空転し始めたら、車外に出るなりして、とにかくこの目で確認しておくことが基本だが、ランドローバーのエアサスペンション装着車の液晶モニターには4輪の状況がリアルタイムで表示されるのでとても楽である。もっとも心配症の筆者は、それでも実際に目視しないと気が済まないけれども。
さらにテレイン・レスポンスがイイ仕事をする。4輪の回転を制御し、しかもセンターデフロックをおよそ人力では不可能なほど緻密(ちみつ)なタイミングと頻度で作動させるため、ドライバーは極端な話、スロットルを1000rpmあたりに保っていればモーグルをじりじりと走り切れてしまうのだ。まるで助手席に経験豊かなインストラクターが座ってくれているかのような心強い装備だ。
自重が2.5トンを超えるのにこの踏破性、キングはやはり器が違う。次は「ディスカバリー4」でヒル・ディセント・コントロールを中心に試してみる。
坂道の安全性も万全
ヒル・ディセント・コントロール(HDC)は、テレイン・レスポンスのダイヤルの下にあるボタンでオンとオフが選べるようになっている。その名のとおり、斜面を下る時にABSを使って車速を一定に維持してくれる装置で、ローレンジ選択時なら車速を3.5km/hから20km/hの間で設定しておくことができる。前進だけでなく後退時も有効だ。
急斜面での車両コントロールは、恐怖感をともなうためにオフロード走行の中でも難易度が高い。そこからドライバーを解放し、ステアリング操作に集中させてくれるこの装備の有用性はきわめて大きい。わが「ディスカバリー4」は何のあぶなげもなく、安定しきった姿勢で急坂を下っていった。
またランドローバー・ファミリーには、いずれにもグラディエント・リリース・コントロール(GRC)と呼ばれる装置も付いている。これは急こう配での発進で安定性を確保するもので、ブレーキペダルのリリース後、いきなりポーンと車両をスタートさせず、徐々に制動力を緩めていってくれる。これの動作も素晴らしく、わが「ディスカバリー4」は周りをヒヤリとさせることなく、見事な坂道発進をキメてくれた。
10年後のランドローバーは?
次に試した「レンジローバースポーツ」は、ファミリーの中で一番フットワークが軽いモデルである。そのぶん悪路の走破性にガマンを強いられているのかと思えば、そんなことはまったくない。モーグルセクションはきっちり走り切ったし、急坂の処理も見事なものだ。
その中でもすっかり感心してしまったのが、泥濘(でいねい)路での身のこなしである。これはスタックしたなと思うシーンが何度かあったが、テレイン・レスポンスがトラクション・コントロールとデフロックを緻密に駆使し、車両は無事に泥をクリアしてしまった。タイヤはごく普通のサマータイヤだというのに……。実は車両のポテンシャルを台なしにしているのは人間様なのかもしれない。
筆者は四駆のスペシャリストではないし、何か特別な秘技を心得ているわけでもない。この日1日、ごく常識的にステアリングを握り、スロットルペダルを踏んだだけ。たったそれだけで、ランドローバーたちはまるでロボットのように忠実かつ着実に斜面を下り、泥を越えていってくれた。あらためて、すごいものだと思う。
そこでこう思う。10年後のランドローバーはきっと「ドライバー様はまちがった判断をなさるので、黙って座っていてください」と言うようになる。そして20年後のランドローバーは、10年前にドライバーを笑い者にしたことを反省して、わざと軽く坂道を転げ落ちたり、泥にハマってみせたりする「演出モード」をテレイン・レスポンスに備えるようになると!
(文=竹下元太郎/写真=郡大二郎)

竹下 元太郎
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