MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)/MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)
横っ飛び! 2025.05.23 試乗記 最新世代の「MINI」にも「ジョンクーパーワークス(JCW)」が登場。全体的にはモデルチェンジで乗り心地が優しくなったという評判のMINIだが、よもやJCWまでもが牙を抜かれて(?)しまったのだろうか。内燃機関搭載モデルの仕上がりをリポートする。世間の認識はMINI=MINIクーパー
簡単に言うと、「新型MINIにJCWが追加された」ということなのだけれど、一応いろいろと整理をしておこうと思います。MINIの「3ドア」「5ドア」「コンバーチブル」は、今回から「MINIクーパー」と呼ばれるようになった。“クーパー”とは1960年代にクラシックMiniをベースに手を加えてレースに参戦、モンテカルロラリーでは3回も優勝するという偉業を成し遂げたジョン・クーパーの名をいただいている。なので、これまではノーマルのMINIに対してスポーティーな仕様をMINIクーパーと呼んでいた。
しかし、日本だけでなく世界的にみても、一般的にはMINI=MINIクーパーだと認知されてしまっているという。これがいいことなのかどうかはよく分からないけれど、少なくともクラシックMiniからのファンからしてみればちょっと納得いかない事象だろう。桑田佳祐の『波乗りジョニー』がサザンオールスターズの楽曲として紹介され、ファンが「違う違う」と憤慨するみたいな感じかもしれない。ちょっと違うか。
いずれにせよ、市場の実情に合わせるかたちで車名を変更したそうだが、もうひとつの理由はJCWという仕様があるからだ。ご存じのように、JCWは“ジョンクーパーワークス”の略である。ノーマルのMINIとちょっとスポーティーなMINIクーパーとかなりスポーティーなMINI JCWがあると、商品ラインナップとしては若干分かりづらい。いまやノーマルのMINIでもスポーティーの領域に片足を入れたような乗り味になっているので、MINIクーパーとMINI JCWの2つに整理したというわけだ。
つまり現行の“MINI”を名乗るモデルは、MINIクーパーと「MINIエースマン」「MINIカントリーマン」の3種類となり、それぞれにJCW仕様が用意された。「MINI JCWカントリーマンALL4」はすでに発表されており、イギリスのコッツウォルズで開催された国際試乗会にはMINI JCWと「MINI JCWコンバーチブル」、そして「MINI JCWエースマン」が用意されていた。
専用エンジンマネジメントでパワーアップ
MINIエースマンは電気自動車(BEV)専用モデルなので、エンジン(ICE)を搭載するのはMINI JCWとMINI JCWコンバーチブルの2モデルとなる。MINI JCWは3ドアのみなので、ICE仕様は事実上3ドアしか選べない。
ICEのJCWは、ノーマルのMINIと同型の2リッター直列4気筒ターボエンジン(B48A20P型)を搭載しているが、独自のエンジンマネジメントプログラムを採用することで、「MINIクーパーC」が最高出力156PS/最大トルク230N・m、「MINIクーパーS」が204PS/300N・mに対して、MINI JCWとMINI JCWコンバーチブルはともに231PS/380N・mを発生する。組み合わされるトランスミッションはノーマルと同じ7段DCTとなる。ステアリングにはパドルが装着されていて、左側には「BOOST」と記されている。これは、パドルを手前に長く引くと10秒間だけ約27PSが上乗せされ、センターの有機ELの円形パネルにはカウントダウンが表示される仕組みである。
シャシーでは、ばねとダンパー、スタビライザー、パワーステアリング、スタビリティーコントロールなどがJCW専用となっている。エンジニアによると「基本的にはニュートラルステアの特性を目指しました。そのためにまずばねを決めます。ばね上の動きに直接関係するし、動きを抑えるためにばねレートを上げると車高も下がるので最初に手をつけました。ダンパーは減衰力が可変しないコンベンショナルなものを採用しています。これ一本で、タウンスピードからサーキット走行までカバーできたので。パワステはアシスト量やリターンスピードを微調整しています。スタビリティーコントロールのDSCは、介入のタイミングや深度を変更しました」とのこと。自動車工学の教科書に書いてあるような理想的順序で改良を施している点が興味深かった。
不快ではない“硬い乗り心地”
まずはMINI JCWから。前後バンパーやボンネットのストライプ、リアスポイラーなどはJCW専用のパーツとのこと。ノーマルよりなんとなく迫力が増しているような気がする。最近のハイパフォーマンスモデルのエクステリアは、どれもお化粧が控えめだ。そういうトレンドなのだろう。これみよがしな感じは、お客も嫌がるのかもしれない。インテリアもノーマルをベースに、随所にワンポイントでJCWであることを示す施しが見られる。シートも専用で、前席はサイドサポートがしっかりとした大きめのサイズだ。
「ポルシェ911」はついにやめてしまったけれど、MINIのエンジン始動の儀式にはまだ“ひねる”が残っている。センターコンソールのスイッチをひねると、MINI JCWはノーマルよりも低いエンジン音を響かせてアイドリング状態になった。マフラーも専用のものに取り換えられているようだ。
走りだしてすぐに気がつくのは、ノーマルとは明らかに異なる乗り心地である。ありていに言えば“硬い”。ばねレートもダンパーの減衰力も上げているのだからやむを得まい。ただ、MINIクーパーの3ドアはノーマルでも決して乗り心地が素晴らしいとはいえない。それもそのはずである。ホイールベースは2495mmで、2.5mにも満たないのだ。これでは物理的にもピッチング方向の動きがどうしても出てしまう。したがって、MINIクーパー(の3ドア)やMINI JCWの乗り心地はボディースペックを考慮するとなるべくしてなっているともいえる。ただしばね上の減衰は速く振動が残存することはないので、確かに硬いけれど不快には感じないはずである。
抜かりのない開発姿勢
そんな乗り心地を相殺してしまうほど痛快なのが操縦性である。エンジニアの狙いどおり基本的にはニュートラルステアだが、そこに至るまでの過渡領域が、曲がるというよりも横へ移動するような感覚なのだ。ステアリングを切るとロールとヨーの発生がほぼ同時にやってきて、スッと向きを変える。操舵応答に優れ、無駄な動きが見事に封じ込められていた。
リアの接地感の高さはちょっと意外だった。前輪駆動で全長の短いボディーでは自動的にフロントヘビーとなり、特にコーナーへの進入時の減速ではリアへ荷重がかかりにくくなる傾向にある。ところがMINI JCWはリアタイヤもしっかりと路面を捉えており、安定した旋回姿勢をキープした。あとでエンジニアに聞いたところ、リアのサブフレームに補強を施しているとのこと。また、カントリーマン以外に4WDを用意しなかったのは、車重が重くなることが理由だった。彼らはなかなか抜かりない。
MINI JCWコンバーチブルの乗り味は、MINI JCWよりも全体的に少し柔らかだ。開口部の大きいボディーのため、剛性面で3ドアよりも不利なことがその要因だが、風を感じながら流すようなドライブが想定されるコンバーチブルにはこの柔らかさがピッタリなのである。ほろを閉めると当然のことながらボディーの剛性感は上がり、よりMINI JCWに近い乗り味となる。
車重はMINI JCWが1350kg、MINI JCWコンバーチブルが1430kgなので、エンジンパワーを存分に使い切れるから、気持ちのいい加速感が味わえる。わずかにトルクステアが感じられたので、この件についてもエンジニアに確認した。すると「2WDのハイパワーモデルは、駆動輪がグリップを失う可能性が高くなります。あえてトルクステアを残したのは、ワーニング的な意味合いがあるのです」とのこと。本当に彼らは抜かりないのである。
ところで、BEVのエースマンのことを忘れたわけではない。MINI JCWにもBEV仕様があるので、この2台は近いうちにまたあらためて。
(文=渡辺慎太郎/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
MINIジョンクーパーワークス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3875×1745×1455mm
ホイールベース:2495mm
車重:1350kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:231PS(170kW)/5000rpm
最大トルク:380N・m(38.8kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)215/40R18 89Y XL/(後)215/40R18 89Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト7)
燃費:--km/リッター
価格:536万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3875×1745×1435mm
ホイールベース:2495mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:231PS(170kW)/5000rpm
最大トルク:380N・m(38.8kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)215/40R18 89Y XL/(後)215/40R18 89Y XL(コンチネンタル・スポーツコンタクト7)
燃費:--km/リッター
価格:585万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 慎太郎
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
NEW
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】
2025.12.20試乗記冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。 -
NEW
失敗できない新型「CX-5」 勝手な心配を全部聞き尽くす!(後編)
2025.12.20小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ小沢コージによる新型「マツダCX-5」の開発主査へのインタビュー(後編)。賛否両論のタッチ操作主体のインストゥルメントパネルや気になる価格、「CX-60」との微妙な関係について鋭く切り込みました。 -
NEW
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】
2025.12.19試乗記フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ911カレラT編
2025.12.19webCG Movies「ピュアなドライビングプレジャーが味わえる」とうたわれる「ポルシェ911カレラT」。ワインディングロードで試乗したレーシングドライバー谷口信輝さんは、その走りに何を感じたのか? 動画でリポートします。 -
NEW
ディーゼルは本当になくすんですか? 「CX-60」とかぶりませんか? 新型「CX-5」にまつわる疑問を全部聞く!(前編)
2025.12.19小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ「CX-60」に後を任せてフェードアウトが既定路線だったのかは分からないが、ともかく「マツダCX-5」の新型が登場した。ディーゼルなしで大丈夫? CX-60とかぶらない? などの疑問を、小沢コージが開発スタッフにズケズケとぶつけてきました。 -
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」
2025.12.19デイリーコラム欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。




















































