アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ コア(FF/6AT)【試乗記】
SUVらしくない!? 2025.07.08 試乗記 アルファ・ロメオの新たなエントリーモデルとして登場したコンパクトSUV「ジュニア」。ステランティスの「eCMP」プラットフォームを用いた新種に、ファンが期待するアルファの味わいはあるのか。マイルドハイブリッド車のステアリングを握った。待望のエントリーモデルが日本上陸
コンパクトなハッチバック「ジュリエッタ」が生産を終えて、エントリーモデルの不在が続いていたアルファ・ロメオが、満を持して投入したニューモデルがジュニアである。かつて、このクラスといえばハッチバックが主流だったが、SUV全盛のいま、ジュニアがコンパクトSUVとして登場してきたことに異議をとなえる人はいないだろう。
2024年4月のワールドプレミアの直後に、名前が「ミラノ」からジュニアに変更されたのは記憶に新しいが、1960年代の「GT1300ジュニア」を起源とする伝統ある車名は、新しい時代のエントリーモデルという意味ではミラノよりもむしろぴったりといえるのではないだろうか。そんな注目度の高いアルファ・ロメオのニューモデルが、ついに日本に上陸し、さっそく試乗できることになった。
ジュニアは、ステランティスのコンパクトカーで用いられる「eCMP」プラットフォームの上に成り立つモデルで、「プジョー208」や「フィアット600ハイブリッド」などと共通のベースを持っている。
4195mmの全長は「ミト」とジュリエッタのちょうど中間くらいで、日本車なら「トヨタ・ヤリス クロス」、輸入車なら「フォルクスワーゲンTクロス」あたりとほぼ同じ大きさであり、日本でも扱いやすいサイズが強みになるはずだ。
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「イブリダ」と「エレットリカ」
ジュニアには、1.2リッター直3ガソリンエンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた「イブリダ」と、電気自動車(BEV)の「エレットリカ」が用意され、今回試乗したのは前者のイブリダである。
アルファ・ロメオといえば、フロントの盾(スクデット)のグリルが特徴だが、イブリダの上級グレード「プレミアム」とエントリーグレード「コア」ではメッシュの上にクラシカルな「Alfa Romeo」の文字が描かれるのに対して、BEVで唯一のグレードとなる「エレットリカ プレミアム」と、イブリダに設定された台数限定200台のローンチエディション「イブリダ スペチアーレ」では、アルファ・ロメオのエンブレムの中に描かれるビシォーネ(蛇)型に切り欠かれている。
スクデットとその下に広がるエアインテークで構成される“トライローブ”や三眼ヘッドを組み合わせたフロントマスクをはじめ、SUVとしては低めの全高、リアエンドをスパッと切り落としたような“コーダトロンカ”など、さまざまな特徴を持つジュニアのエクステリアは実に精悍(せいかん)で、このあくの強さもまたアルファ・ロメオらしさといえる。
ジュニアのインテリアは、黒を基調としたスタイリッシュな雰囲気にまとめられている。それとともに、センターに置かれた10.25インチのタッチスクリーンはドライバー側に傾けられ、ふたつの丸い庇(ひさし)を持つメーターとあいまって、このクルマの主役がドライバーであることを強く意識させられる。
四つ葉のクローバーを模したというエアコンの吹き出し口には、その中心に赤いビシォーネがあしらわれ、そんなちょっとした演出もファンにはたまらない。
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これはもうほぼハイブリッド
前述のとおり、このジュニア イブリダには、1.2リッターの直3ガソリンエンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み合わせたパワーユニットが搭載され、6段デュアルクラッチトランスミッションを介して前輪を駆動する。
これがなかなか興味深く、Dレンジを選び、ブレーキペダルから足を離すと、エンジンは停止したままゆっくりとクルマが動き始める。ジュニア イブリダでは、基本的には発進を電気モーターが担当するのだ。ただし、速度が数km/hという時点でエンジンが始動するため、いわゆるストロングハイブリッドシステムほどEV走行する時間は長くない。それでも、これまでのマイルドハイブリッドシステムではEV走行ができなかったことを考えると、このジュニア イブリダのマイルドハイブリッドシステムは限りなくフルハイブリッドシステムに近いものといえる。
エンジン始動後は低回転から十分なトルクを発生し、アクセル操作に対する反応も良好で、街なかを走らせるには好都合だ。アクセルペダルを踏み込むと2500rpmあたりから力強さを増し、さらに3500rpm付近からは勢いづく。
マイルドハイブリッドシステムは走行中にアクセルペダルを緩めたときにもその存在を静かにアピール。走行中でもエンジンが停止するし、軽い加速ならモーターだけで済んでしまう。また、アクセルペダルを戻したときの回生ブレーキも、通常のエンジンブレーキよりも強力なのだ。
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見た目のとおりスポーティー
気になったのは、低速走行時のアクセル操作に対して、パワートレインがややギクシャクすること。また、マイルドハイブリッドシステムとしては、エンジンが再始動する際のショックもやや大きめだ。このあたりは今後徐々に改善されていくだろうが、それはさておき、搭載される最高出力136PSの1.2リッターエンジンは想像以上に活発であり、見た目のスポーティーなイメージを裏切らないのは確かだ。
ジュニア イブリダの走りは、いい意味でSUVらしくない。全高が低く、ドライバーの着座位置もさほど高くないため、運転席に収まるとSUVであることを意識することはないし、実際に走らせても、背の高いクルマにつきもののロールやピッチングといわれる揺れも、きっちりと抑え込まれているのだ。
乗り心地はやや硬めの味つけで、目地段差を越えるときなどにはショックを伝えてくることもあるが、そのぶんコーナーでの動きには軽快さがあり、このあたりにもしっかりとアルファ・ロメオらしさが感じられた。
室内の広さについては、コンパクトなボディーのわりに後席はヘッドルーム、ニールームともに広く、大人でも十分くつろげるほど。ラゲッジスペースも外観から想像するよりも広く、実用性は十分といえる。
今回はベースグレードのイブリダ コアに試乗したが、個人的には装備のレベルは十分であり、420万円という価格でアルファ・ロメオが味わえるのだから、これはかなり魅力的な一台だと思う。
(文=生方 聡/写真=佐藤靖彦/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ コア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4195×1780×1585mm
ホイールベース:2560mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:136PS(100kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:230N・m(23.4kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96H(後)215/60R17 96H(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2 SUV)
燃費:23.1km/リッター(WLTCモード)
価格:420万円/テスト車=427万0920円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション プレミアムフロアマットセット<Ibrida用>(5万2800円)/ETC1.0車載器(1万6060円)/電源ハーネス(2060円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1012km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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