アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ プレミアム(FF/6AT)
スクデットの威光 2025.08.27 試乗記 「アルファ・ロメオ・ジュニア」が日本に上陸。ステランティス グループの技術を結集して生み出された新世代のコンパクトSUVだが、果たして人々の期待に応えるだけのアルファらしさは備わっているのだろうか。ハイブリッドの上位グレード「イブリダ プレミアム」を試す。なにがなんでもイタリア語
1960年代あたまから1970年代半ばにかけて、アルファ・ロメオの屋台骨を支えてきた105系「ジュリア」。その2ドア版といえば当時ベルトーネに在籍していたジョルジェット・ジウジアーロの出世作としてつとに有名だ。
ジュニアはそんなクーペのベーシックグレードにつけられていた呼称となる。なにがなんでもイタリア語なアルファ・ロメオがなんでいきなり英語なん? と思われるかもしれないが、ジュニアはイタリア語でもジュニア、意味も同じだ。ちなみにこの時代のアルファ・ロメオが好んでいた「スプリント」も、英語とイタリア語とでは一字一句変わらない。
パワートレインの電動化という変革期に、ブランドの新章を刻むべく企画されたジュニアは2024年春に発表された。といっても、お披露目された際の名が「ミラノ」だったのをご存じの方も多いだろう。イタリアンメイドの管理に厳しい政府筋から、ポーランド工場生産なのに……と横やりが入り、わずか数日でジュニアに改名された経緯は、大矢アキオさんが詳しくリポートしている(参照)。
日本に導入されたジュニアのラインナップは「イブリダ」と「エレットリカ」の2つ。前者はイタリア語でハイブリッドを意味する。後者はお察しのとおり電気の意、つまり電気自動車(BEV)を指しているわけだ。なにがなんでもイタリア語……は新章でも貫かれる。
条件次第ではEV走行も
今回の取材車はイブリダだが、これまたお察しのとおりこのパワートレインはグループPSAが先代「プジョー208」の登場に合わせて開発した1.2リッター3気筒のEB型をベースに48Vの駆動用モーターを組み合わせるかたちで構築されている。とはいえ、エンジン本体はハイブリッド化に合わせて40%以上の部品を新設計とし、可変ジオメトリータービンによる全域の応答性向上やミラーサイクル化を果たしたものだ。モーターは最高出力22PS/最大トルク51N・mを発生。136PSのエンジンと組み合わせてのシステム出力は145PSと発表されている。ステランティスはこのパワートレインをマイルドハイブリッドに位置づけるが、バッテリーの充電状況次第では30km/h以下の速度、1kmまでの長さならEV走行が可能という点からみれば、フルハイブリッド車的資質も備わるパワーユニットといえるだろう。
この駆動モーターを6段DCTと組み合わせてパッケージ化したドライブトレインは「e-DCT」と名づけられている。ベルギーのパンチパワートレインがステランティスと共同開発したものだが、合弁の生産工場をステランティス側が吸収するなど、モデルレンジの拡大に合わせて投資を拡大しているようだ。ちなみに現在、日本でも同じパワー&ドライブトレインを搭載したモデルが続々展開中。多くのブランドを抱えるシナジーがようやく表れ始めたともみてとれる。
BEVとマイルドハイブリッド車の双方に対応する「e-CMP」プラットフォームを採用……というところからみても、中身的にジュニアと最も近いのは「フィアット600」シリーズとなるだろうか。2560mmのホイールベース長は、先ごろBEVに次いでプラグインハイブリッド車が欧州で発表された「ジープ・アベンジャー」とも共通している。と、これらは生産工場も同じポーランドだ。数的には集約によるコストダウンや効率向上を図りつつも、キャラクターの差別化は十分に可能であり、クルマのアイデンティティーは、単にどこで組み立てられたかという問題ではない。タバレス前社長体制のオペレーションが花開き始めたときにはすでに本人不在……というのは往々にしてあることで、クルマづくりに費やされるリソースの大きさを思い知らされる。
随所に見られる歴代モデルの面影
では前体制の思惑どおり、ジュニアは果たしてアルファ・ロメオ足り得ているのか。少なくとも見て座ってという段では、これでもかというくらいにそれである。
グリルに筆記体のロゴという組み合わせは、「6C1750」や「8C2300」といった第2次大戦前のモデルに用いられたものだ。3連のヘッドライトはES30の「SZ」、ブラックアウトされたテールランプも含めてコーダトロンカ風に見せているテール部は、1960年代の「SZ2」というよりも「TZ2」あたりがイメージの源泉になっているのだろうか。「おいおい、そのへんはザガートの仕事だろう」というツッコミはなしだ。
そして運転席に座れば目の前に双眼鏡型のメーターナセルが鎮座。エアコンを調整しようとすれば吹き出し口が四つ葉(クワドリフォリオ)と人食い蛇(ビショーネ)というアルファ・ロメオを代表するアイコンをモチーフとして形づくられているなど、もはや視界のどこかに必ずなんらかのディテールが見切れているという状況だ。そのアソートぶりは思わず苦笑してしまうほどである。
カーブで分かるアルファらしさ
とはいえ、アルファ・ロメオといえば血湧き肉躍る源たるエンジンが注目されるところだ。この点については、さすがに同じパワートレインを搭載する他銘柄と完全に一線を画するところには至っていないというのが正直な印象だ。やはりモーターが絡んでくると、これが加勢するぶんだけ加速感が肉厚でフラットになり、絞り出すようなパワーの伸び感やそれにシンクロするサウンドといった高揚感がどうしても薄くなってしまう。そんなのは今どき非効率であることは承知しつつも、どうしても期待値が高くなってしまうのがこのブランドだ。
一方で、ハンドリングの味つけはいかにもアルファ・ロメオらしい快活なものだった。舵の切り始めからぎゅんぎゅんゲインが立ち上がり、前内輪を軸足にくるんと回るように曲がる。思い出すのは1990年代後半、「156」を皮切りとした世代のアルファ・ロメオのテイストだ。足まわりの形式もフィアット600と変わらないが、アジリティーはがぜん異なる。でも乗り心地的にはロールをしっかり抑えながらも突き上げを感じるほど締められた感のない、ちょうどいいあんばいといえるだろう。テレホンダイヤルホイールを現代的にアレンジしたら梅結びの水引みたいになってしまったバネ下もきれいに路面の凹凸に追従している。ちなみにタイヤのサイズや銘柄もフィアット600と同じだ。
ジュニアはアルファ・ロメオにとっての故郷であるバロッコのテストコースでチューニングされてきたという。それをもって紛れもなくそれというのは、ちょっとタバレスさんずうずうしいんじゃね? という気がしなくもない。が、走ってみれば同じ骨格でも手当てや味つけでここまで変われるというのが偽らざる印象だ。となると、ジュニアの課題はグループ内の多数の銘柄で共有するこの新しいパワートレインを、いかに自分らしく着こなすかになる。並行して燃費性能も高めていきたいところゆえ、それはかなり難しい作業になるだろう。が、グリルに盾をいただく以上、それは避けられない道でもある。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュニア イブリダ スペチアーレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4195×1780×1585mm
ホイールベース:2560mm
車重:1330kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:136PS(100kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:230N・m(23.4kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:22PS(16kW)/4264rpm
モーター最大トルク:51N・m(5.2kgf・m)/750-2499rpm
タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ2)
燃費:23.1km/リッター(WLTCモード)
価格:533万円/テスト車=540万0920円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション プレミアムフロアマットセット<Ibrida用>(5万2800円)/ETC1.0車載器(1万6060円)/電源ハーネス(2060円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2064km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:281.0km
使用燃料:21.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.1km/リッター(満タン法)/13.3km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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