2代は続かぬ大名跡 アルファ・ロメオの命名法則を考察する
2025.07.16 デイリーコラム「ジュニア」の元祖は「GT1300ジュニア」
webCGでも既報のとおり、アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」が日本上陸を果たした。ご記憶の方もあろうが、このジュニア、2024年4月10日に本国で発表されたときの名称は「ミラノ」だった。アルファの本拠地であるミラノ市にちなんだものだったが、「国外で製造された製品に対してイタリアを連想させる名称の使用を禁止」するイタリアの法律により、このポーランド製の新型車はミラノを名乗ることが許されず、わずか5日後にジュニアに変更されたのだった。
この素早い対応は、こうした事態が起きる可能性を考慮して、あらかじめジュニアを次点候補として用意していたからではないかと思う。それはさておき、ジュニアの名は1966年に登場した「GT1300ジュニア」に由来しているという。
そういえば、Bセグメントの3ドアハッチバックの「ミト」が2008年にデビューする前にも、車名はジュニアといううわさがあったように思う。コンパクトカーには使いやすい名前だし、いずれ復活させたい車名のリストの筆頭にあったのだろう。
いや待てよ、つい最近もジュニアを名乗るモデルがあったような? と思って調べたところ、「ジュリア」と「ステルヴィオ」に、やはりGT1300ジュニアに着想を得たという「GTジュニア」を名乗る限定車が2021年(日本上陸は2022年)に存在していた。
コンパクトカーのみならず、フラッグシップにも使われていたジュニア。その元祖であるGT1300ジュニアがどんなモデルだったかといえば、1964年にベルトーネ時代のジウジアーロがデザインしたボディーをまとって登場した「ジュリア スプリントGT」の内外装をやや簡素化し、直4 DOHCエンジンを1.6リッターから1.3リッターに縮小したスポーツクーペ。つまりジュリア スプリントGTの弟分というわけだ。
このGT1300ジュニアを皮切りに、ジュリア系のボディーに1.3リッターエンジンを搭載したモデルにアルファはジュニアの名を与えた。「1300スパイダー ジュニア」とか「ジュニアZ(ザガート)」などだが、なぜかベルリーナ(4ドアセダン)は「ジュリア1300」と名乗っていた。このあたりの規則性の乏しさはイタリアらしい気もする、というのはうがった見方だろうか。
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2度復活したジュリエッタ
2025年で創立115周年を迎えたアルファ・ロメオは、このジュニアをはじめ「ジュリエッタ」やジュリアなど、かつて存在した車名を復活させることがある。それ以前にアルファというメーカーは特定の名称を2世代以上に連続して使ったことがなく、復活、再使用する場合も必ずインターバルがある。これはなかなか興味深いと思うのだ。
実際に復活した車名を紹介すると、まずはジュリエッタ。ロミオとジュリエットにちなんだロマンチックな名を冠した初代モデルのデビューは1954年。戦前は今日のフェラーリのようなハイエンドのスポーツカーとレーシングカーのメイクだったが、戦後は1950年にリリースした「1900」によって量産メーカーに路線変更したアルファ初の小型車で、1.3リッター直4 DOHCユニットを積んでいた
最初に登場したのは「ジュリエッタ スプリント」と名乗る2ドアクーペ。翌1955年以降、「ベルリーナ」(4ドアセダン)や「スパイダー」、さらに「スプリント スペチアーレ」などのバリエーションを加えていったジュリエッタはヒット作となり、今でいうところのプレミアムで高性能な小型車としてのアルファ・ロメオの名を広めた。
このジュリエッタの名が復活したのは、初代の誕生から20年以上を経た1977年。デビュー前に車名は「アルフェッティーナ」(小さいアルフェッタ)とうわさされていたが、そのとおり中型サルーンである「アルフェッタ」のプラットフォームを流用しつつボディーを小型化した4ドアサルーンで、ラインナップ上は初代ジュリアの後継モデルとなる。
2代目ジュリエッタはウエッジシェイプの4ドアサルーンのみで、ボディーのバリエーションは用意されなかった。ただしパワーユニットは1.3/1.6リッター直4 DOHCにはじまり、同じく1.8リッター、2リッター、2リッターターボ、そして2リッターディーゼルなどが用意されていた。
その2代目から30年以上のインターバルをおいてみたび登場した3代目ジュリエッタ。「147」の後継となるCセグメントの5ドアハッチバックで、2010年にデビュー。1.4/1.75リッター直4 DOHCユニットなどを搭載し、2020年までつくられたのだった。
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F1マシンに由来するアルフェッタ
前ページに2代目ジュリエッタは「中型サルーンである『アルフェッタ』のプラットフォームを流用」と記した。アルフェッタは初代ジュリア ベルリーナの拡大版だった「1750ベルリーナ」の後継モデルとして1972年に登場したのだが、その名はかつてのグランプリレーサーにちなんだものだった。
F1世界選手権が始まったのは1950年だが、その年と翌1951年シーズンを、アルファは戦前に設計されたグランプリレーサーである「ティーポ158」とその改良型の「159」で連覇した。その158と159の愛称が、「小さなアルファ・ロメオ」を意味するアルフェッタだったのだ。
愛称とはいえ、F1王座を獲得したマシンの名を冠したのはけっして思いつきではない。159はトランスミッションをデフの直前に置くトランスアクスル方式とド・ディオン式リアアクスルを備えていたのだが、アルフェッタは主力車種となるサルーンであるにもかかわらず、それらの凝ったメカニズムを採用していたのだ。なお2005年に登場したDセグメントのサルーンの「159」は、グランプリマシンの159に由来するものではない。
コンペティションマシンの名にちなんだ、というか借用したモデルがもう1台。イタリア南部の雇用拡大と活性化という、いわば国策から生まれたアルファ初の大衆車が1971年に登場した「アルファスッド」。水平対向4気筒エンジンによる前輪駆動という、その基本設計を受け継いで1983年にデビューした後継モデルが「アルファ・ロメオ・アルファ33」。その名は1960~1970年代に活躍したアルファのプロトタイプレーシング「ティーポ33」に由来する。
ティーポ33はデビューした1967年から1972年までは2/2.5/3リッターのV8エンジンを積んでいたが、1973年に登場した「T33 TT12」からは3リッターの水平対向12気筒エンジンに換装された。市販型33の登場時の広報写真にT33 TT12とのツーショットがあったことから察するに、両車はボクサーユニットつながりということなのだろう。
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アルファのスペシャルナンバー=「1750」
ティーポ33といえば、車名どころかコンセプトから丸々復活させてしまったのが「33ストラダーレ」。オリジナルの33ストラダーレは、2リッターV8エンジンを積んだレーシングカーのティーポ33のホイールベースを10cm延ばしたシャシーに、フランコ・スカリオーネの手になるボディーを載せたロードゴーイングスポーツ。1967年のトリノショーでデビューし、生産台数は10台前後といわれる。
それから半世紀以上を経た2023年によみがえった現代版はレーシングカーの公道版ではなく、初代をオマージュしたモデル。パワーユニットは3リッターV6ツインターボまたは3基の電気モーター(BEV)で、車名のとおり33台が限定生産されるが、すでに完売済みという。
これと同様に半世紀以上のインターバルを経て復活したのがジュリアである。初代は1962年にベルリーナの「ジュリアTI」としてデビュー、翌1963年に冒頭で紹介した1300GTジュニアのベースとなった2+2クーペのジュリア スプリントGT、その後もさまざまな車種追加と改良を加えながら最終的に1977年までつくられた。
現行モデルである2代目ジュリアは2016年にデビュー。159の後継となるDセグメントの4ドアサルーンで、2代目ジュリエッタの後継となる「75」以来およそ四半世紀ぶりにFRに回帰したモデルとして話題を呼んだことは、読者諸氏の記憶にも新しいことだろう。
初代ジュリアに話を戻すと、1970年前後に1750ベルリーナや「1750GTV」といったジュリアから派生したモデルが存在した。総排気量が1779ccだったからだが、通常ならば「1800」と名乗るところだろう。だがアルファはあえて1750と呼んだ。なぜならレースでも活躍した戦前の名車「6C1750」にちなんだからだ。
だが、後に同じエンジンがアルフェッタに搭載されたときには、そのこだわりは消えてしまったようで「アルフェッタ1.8」と称していた。しかし、最近の「4C」や3代目ジュリエッタなどに積まれた1742ccユニットは「1750」と呼んでいたので、アルファにとってその数字はやはり大事な記号なのだろう。
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車名として一本立ちしたGTV
グレード名およびそれに準ずる名称が、復活して車名に昇格した例もある。初代ジュリエッタシリーズに、1960年に加えられたスペシャルモデルである「ジュリエッタSZ(スプリント ザガート)」。「ジュリエッタ スパイダー」のシャシーにザガートがアルミボディーを架装し、軽さと操縦性を武器にタルガフローリオをはじめとするモータースポーツでも好成績を挙げた。
1965年から少量生産された「2600SZ」を挟んで、「SZ」のみを車名に冠したのが1989年に登場した「アルファ・ロメオSZ」。アルフェッタ以来のトランスアクスルレイアウトと3リッターV6エンジンを組み合わせたシャシーに、やはりザガートの手になるFRP製の超個性的なボディーを架装した2座スポーツカーである。
1966年に初代ジュリアシリーズに加えられた「ジュリア スプリントGTヴェローチェ」に始まるGTヴェローチェの省略形である「GTV」。1970年代の「アルフェッタGTV」などを経て、1994年についに「アルファ・ロメオGTV」として正式車名となった。ピニンファリーナに在籍していたエンリコ・フミアが手がけたウエッジシェイプのボディーを持つ2+2クーペで、同時に2座オープンの「アルファ・ロメオ・スパイダー」もデビューした。
このスパイダー、一般名詞ではあるもののアルファでは正式車名。そう考えると、1966年にデビューして1993年まで27年間にわたってつくられたロングセラーである初代スパイダーと1994年に登場した2代目スパイダーは、空白期間なしに2世代続けて同じ車名を使ったことになる。2ページ目で「(特定の名称を)復活、再使用する場合も必ずインターバルがあるのだ」と言い切ってしまったが、これは例外ということにしていただきたい。
というわけで、アルファ・ロメオの復活した車名について記してきたが、はたして次によみがえるのは何だろうか。
(文=沼田 亨/写真=ステランティス、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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