第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.09.03 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
久々のスマッシュヒット
webCGほった(以下、ほった):ここからは3回に分けて、ステランティスのコンパクトSUV 3兄弟、アルファ・ロメオ・ジュニア、「フィアット600」、「ジープ・アベンジャー」のデザインを、順に見ていこうと思います。
清水草一(以下、清水):今回は、ちょっと変則的だね。
ほった:うーん。少し読者の反応が薄いんですよ。最近のステランティスのクルマって(泣)。とはいえ一連の新型車をまったく取り上げないのもよくないですし、こうして、兄弟まとめてやってみようと思った次第です。いやぁ、昔はアルファっつったら、それだけで読者が食いついてきたもんですが。
渕野健太郎(以下、渕野):私も、最近はアルファ・ロメオの存在感は弱いなと思ってました。でも、今回のジュニアは久しぶりに目に留まりましたよ。
清水:俺もです。若干、胸が騒ぐデザイン。
ほった:「若干」ってところがさみしいけど(笑)。
渕野:この15年間ぐらいのアルファ・ロメオ……要は3代目「ジュリエッタ」あたりからなんですけど、全体にどこかレトロで、悪く言えばおじさんくさい雰囲気でしたよね。それでもジュリエッタに関しては、悪くないデザインではありますけど。
清水:悪くはないけど、微妙にさえなかった。
渕野:その後に出た「ジュリア」の面が丸い印象や、「トナーレ」のメインキャラクターが弧を描いてリアで下がるサイドシルエットは、明らかにレトロで……。往年のアルファを想起させていましたが、やっぱり個人的におじさんくさい感じがしていたわけです。
清水:うーん。ただただ締まりのない平凡なデザインだと思ってたけど、この弧は“レトロ”なんですね。
ほった:1950年代あたりのアルファ・ロメオっぽいでしょ?
渕野:ですね。そんななかでジュニアが出てきて、すごく若々しく見えたわけです。
お尻がいいからシルエットがいい
渕野:ジュニアについては、確かにレトロ感もありますけど、各部の処理、特にプロポーションがすごくよくできている。大きなタイヤと幅広いボディーがあれば、プロポーションなんて自動的によくなるだろうって思われがちですけど、そうはいってもここまで仕上げるのは、なかなか難しいですよ。
清水:引き締まってますよね。
渕野:特に注目したのは、リアのデザインです。かなり寝たリアゲートガラスとリアフェンダー(というかショルダー)がひとつの大きなボリュームになったとこで、スパッと断ち落としたようになってます。この処理が新しさとレトロ感をうまく融合させていますよね。
ほった:テールゲートの、リアコンビランプから下の部分ですね。
渕野:そうです。このプロポーションが独特で、レトロなのにすごく新鮮に感じました。フェンダーが張り出していて、塊感があってバランスもいい。フロントももちろんですが、やはりリアが決まっているとクルマはカッコよく見えるんですよ。皆さんはどう思います?
清水:リアのこの“絞り”がいいですね。スポーティーで若々しい。
渕野:すごいですよね、斜め後ろから見ると。特徴的なリアコンビランプのこのグラフィックも、国産車だとなかなかサマになりませんけど、ジュニアは造形と絡めているので、非常にまとまりがいい。
清水:このお尻、久しぶりにアルファにアートを感じましたよ!
渕野:サイドシルエットも抜群にいい。この3兄弟は、ホイールベースは同じですし、フロントガラスとフロントドアのサイドガラスも一緒じゃないかと思いますけど……。
清水:えっ! ビックリ!
ほった:(PCで調べる)……見比べてみると、そうっぽいですね。
渕野:そういう制約があるなかで、3つの車種をつくり分けているわけです。ただ、フィアット600やアベンジャーは、リアが少し寸詰まった感じがするでしょ? フロントのオーバーハングに対してリアオーバーハングが短いので。でもジュニアは、リアがすっと後ろに流れてる。これがプロポーションやサイドシルエットに効いていて、どのビューで見てもシルエットがいいんです。
ほった:なるほど。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「トナーレ」の反省が生きている?
渕野:フロントマスクはどうですか?
ほった:清水さん待望の顔の話ですね(笑)。
清水:ビミョーに鬼瓦だけど、全体がいいので「まぁいいか」って感じです。
ほった:えっ。クルマは顔が命なんでしょ?
清水:だからギリギリセーフ(笑)。
渕野:黒い部分が少しうるさい気もしますが、小さいクルマなので、これぐらい主張があってもいいかなと思います。同じFF系のSUVでも、トナーレだとグリルの構成の強さもあって、かなりフロントオーバーハングが長く見えますが、ジュニアはコーナーを大きく斜めに切っているので、そこもショートに見せられている。
ほった:そもそもジュニアは、前後のオーバーハングが短そうですしね。
清水:それでセーフに見えるのかな。確かにトナーレは、フロントオーバーハングがすごく長く見える。なんでこんなに魅力がないんだろって思ってたけど、そこがポイントかも。顔は伝統的だけど、それ以外はものすごく平凡で、どこにでもあるSUVに見えちゃうんですよ。
渕野:トナーレもそこまで悪くはないですが、伸びやかさ重視のシルエットに対して、タイヤの位置が内側に入ってしまっている気がします。もう少しホイールベースが長ければ魅力も増してくるんでしょうけど……。パッケージとデザインが、少し合っていないかもしれませんね。
清水:トナーレも、ジュニアみたいにキャビンが小さくて引き締まってれば、それなりにアルファらしさが出せたかも。
渕野:キャビンも結構デカいですもんね。
堀田:その割に、荷室は狭くてあまり荷物が積めなかった印象です。「156」のスポーツワゴンもそうでしたけど。あと、ハイブリッドの燃費がちょっと……。
清水:いいところがひとつもなかったよね。
渕野:自分は試乗していないので断言できませんが(笑)、デザインがすごく悪いわけではないけれど、なんというか“普通”なんですよね。あまり目に留まらない。それに対して、今回のジュニアは小さいのに存在感がある。
清水:アルファの希望の星ですよ!
渕野:ただ一点残念なのは、日本仕様のライセンスプレートです。だいぶ飛び出していて、そこがもったいない。欧州のライセンスプレートは、センター下端のボディーの切り欠き部分に収まっていて、まとまりがいいんですけど。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
イケてるお尻は七難隠す
清水:日本はナンバープレートを、進行方向へ垂直に向けなきゃいけないんでしたっけ?
渕野:いや、垂直じゃなくてもいいんですが、歩行者保護の基準もあって、振り幅に制限があるんです。それにしても、ジュニアは少し飛び出しすぎててもったいない。このクルマのフロントデザインはバンパーが見せ場なのに。
清水:イタ車はいつも、ヨーロッパ系の横長プレートしか考えてないデザインなんだよなぁ。だからアメリカでも売れないって部分もあるんじゃない?
ほった:アメリカのナンバープレートは、日本のに近いタテヨコ比ですからね。
清水:でもまぁ、無理やり真ん中に付けるよりは、今ののほうが許せるよ。多少飛び出してても。
渕野:続いてヘッドライトですけど、ジュニアも最近はやりの「コの字型」なんですよね。
清水:アルファ・ロメオよ、おまえもか。
渕野:このデザイン、なぜみんな好きなんでしょう?
ほった:好きというか、いろいろやり尽くして、これしかアイデアが残ってないんじゃないですかね。
渕野:ワイド感をしっかり見せる意図なんでしょうけど、アルファもトレンドに乗っかった感じはしますね。コの字の部分が全部ランプというわけではなく、黒い飾りの箇所もありますけど、パッと見は明らかにコの字。
清水:コの字だらけなので、もはやスタンダードでなんも感じません(笑)。
渕野:アルファ・ロメオのデザインは、もともと独自路線だったでしょう。それを考えても、あまり魅力的とはいえないかな。
清水:顔は、加点はできないけど、そつなくまとめたなって感じですね。でもいいんです。ジュニアはお尻で勝負してるんで。
ほった:お尻でいいんですか!?
清水:顔が70点でも、お尻が90点なら。
ほった:それ、いつもと言ってることが違うでしょ!
清水:まぁいいじゃない、アルファ希望の星なんだから。
(「フィアット600」編へ進む)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ステランティス、スバル、トヨタ自動車、フェラーリ、向後一宏、郡大二郎/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ― 2025.12.3 100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する!
-
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?― 2025.11.26 盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する!
-
第92回:ジャパンモビリティショー大総括!(その1) ―新型「日産エルグランド」は「トヨタ・アルファード」に勝てるのか!?― 2025.11.19 盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」をカーデザイン視点で大総括! 1回目は、webCGでも一番のアクセスを集めた「日産エルグランド」をフィーチャーする。16年ぶりに登場した新型は、あの“高級ミニバンの絶対王者”を破れるのか!?
-
第91回:これぞニッポンの心! 軽自動車デザイン進化論(後編) 2025.11.12 激しさを増すスーパーハイトワゴン競争に、車種を増やしつつある電気自動車、いよいよ登場した中国の黒船……と、激動の真っただ中にある日本の軽自動車。競争のなかで磨かれ、さらなる高みへと昇り続ける“小さな巨人”の意匠を、カーデザインの識者と考える。
-
第90回:これぞニッポンの心! 軽自動車デザイン進化論(前編) 2025.11.5 新型の「ダイハツ・ムーヴ」に「日産ルークス」と、ここにきて新しいモデルが続々と登場してきた軽自動車。日本独自の規格でつくられ、日本の景観を変えるほどの販売ボリュームを誇る軽のデザインは、今後どのように発展していくのか? 有識者と考えた。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。


















































