「電動ターボ」と従来型の過給機は、何がどう違うのか?
2025.07.15 あの多田哲哉のクルマQ&Aここ数年、電気で駆動するターボチャージャーが出てきているようですが、従来のターボやスーパーチャージャーとはどう違うのでしょうか? それぞれの長所短所を含め、特徴を教えてください。
過給機は、いかに効率よく、多くの空気をエンジンのシリンダーに入れるかということを目指して進化してきました。
このうちターボは「エンジンの排気を利用してタービンを回し、より多くの空気を燃焼室に送り込む」ものであり、スーパーチャージャーは「エンジンの回転軸に過給機を連動させることで稼働し、空気を圧送する」という違いがありますが、どちらも、より多くの空気を燃焼室に送り込んで燃焼させ、より大きなパワーを得ようというシステムです。
“電動ターボ”と呼ばれるものは、それらの欠点を補うべく、新たに登場したものです。電圧が12Vの時代では十分な電動過給ができなかったのですが、48Vがどんどん普及すると十分なモーターパワーが出せるようになって、エンジンの低回転領域においては、同軸上に組み込んだ電気モーターでタービンを回し、そこでの力不足を補うことが可能になりました。そして上の回転域に入ったなら、従来のように排気でタービンを回そうというわけです。アウディのように、ターボとは独立した(同軸上にはない)コンプレッサーとターボとを併用するかたちの電動ターボもありますが、限られたエンジンルームに組み込むのは、車種によっては難しいですね。
スーパーチャージャーは上述のとおり、エンジンの出力の一部を割いてコンプレッサーを回すシステムですから、そこにはパワーロスがある。電動ターボは、それを補う装置になり得る、といえます。もっとも、電動ターボと同様に、モーターを使って低速のトルク不足を補おうという“電動スーパーチャージャー”なる過給機も存在しますが、いずれにせよ、電動システムを持つ過給機は、純粋に排気を利用するターボや、エンジンの回転力を使うスーパーチャージャーとは異なる、第3の過給装置であるといえます。
低速域の力を補うという意味では、電動化が進み、エンジンをモーターがサポートするハイブリッドシステムも一般的になりました。それらハイブリッドにもエンジンの苦手とする低速域を補う働きがあり、主に燃費向上を目的として利用されています。しかし、昨今の欧州車に多く見られる“パワー志向のハイブリッド”は、先に挙げた過給機のように、エンジンの特定の回転域をサポートして全域でパワフルになるようなセッティングになっています。
スポーツカーのエンジンは、環境規制がどんどん厳しくなっていくなかで、高回転型のエンジンではもう規制がクリアできなくなっていて、いわゆる“パワーバンド”が狭くなってしまいます。そこで逆に、パワーバンドを下の領域へと広げようといろいろ工夫することになる。
例えばポルシェは、最新の「911カレラGTS」において、エンジンに電動ターボとモーターを組み合わせて、アイドリングから高回転域まで“全域パワーバンド”とでもいうべき、まったく落ち込みのないパワー供給を可能としています。
これは、エンジンでもモーターでも従来のハイブリッドでも経験したことのない、独特のパワーフィールですね。「911 GT3」と比較すると、トップエンドのエンジン回転数は下がっているのですが、パワーバンドが減ったようには感じません。
エンジンの出力特性は駆動用モーターとエンジンの組み合わせでも改善できますし、今回のような電動過給機も(12Vから48Vへと)自動車の高電圧化がどんどん進んでいくなか、有効な技術であるといえるでしょう。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。