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発売1カ月で受注は3万台! 新型「ダイハツ・ムーヴ」の人気は本物か?

2025.07.24 デイリーコラム 玉川 ニコ
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いつの間にか地味で平凡な存在に

ダイハツ工業が2025年7月8日に発表したところよれば、同年6月5日に販売を開始した新型「ムーヴ」の累計受注台数が、発表後約1カ月で月販目標台数(6000台)の5倍にあたる3万台に達したとのこと。もちろん今後2年、3年が経過した際の売れ行きがどうなっているかは未知数だが、少なくとも初速の段階においては「バカ売れ!」と評していいのだろう。

新型ムーヴはなぜ、こんなにもバカ売れしているのだろうか? もちろんその正確で完全無欠な理由など知るよしもないが、下町の自動車マーケティング評論家として推測するのであれば、新型ムーヴがバカ売れしている理由は以下のとおりとなるだろう。

「軽自動車に中庸(偏りがなく中立的であること)を求めるユーザーは依然として世の中に多数遍在していたが、その購買マインドを確実に刺激するモデルは近年、存在していなかった。しかし今、新型ムーヴという、中庸を求める民草の心に刺さる軽自動車がやっと誕生した。だから必然的に売れているのだ」

クルマに限らず、世の中の市場で「中庸な商品」をヒットさせるのはなかなか難しい。例えば食品であれば「激辛!」「激安!」「超手間いらず!」などの極端な特徴を訴求できる商品であるほうが、耳目は集めやすい。しかし「激辛でも激安でもありませんが、とにかく普通においしいのです」という類いの地味で中庸な良品は、店頭ではなかなか売れにくい。そのためそういった中庸良品は、あえなく返品および廃番となってしまう場合が多い。これは食品に限らず書籍でもなんでも、本質的な傾向はだいたい同じである。

そして軽自動車の世界においてはいつの間にか、先代までのムーヴのような軽トールワゴンが「地味で中庸な良品」に、つまり売りづらい商品になってしまっていた。

2025年6月5日に発表・発売された新型「ダイハツ・ムーヴ」。今回の新型は7代目にあたり、実に10年半ぶりのフルモデルチェンジとなった。ムーヴとしてはこれが初となるリアスライドドアや、「DNGA」プラットフォームの採用がトピックだ。
2025年6月5日に発表・発売された新型「ダイハツ・ムーヴ」。今回の新型は7代目にあたり、実に10年半ぶりのフルモデルチェンジとなった。ムーヴとしてはこれが初となるリアスライドドアや、「DNGA」プラットフォームの採用がトピックだ。拡大
新型「ムーヴ」の開発コンセプトは「今の私にジャストフィット 毎日頼れる堅実スライドドアワゴン」。車両骨格から全面刷新し、軽自動車としての魅力を全方位で向上させたという。
新型「ムーヴ」の開発コンセプトは「今の私にジャストフィット 毎日頼れる堅実スライドドアワゴン」。車両骨格から全面刷新し、軽自動車としての魅力を全方位で向上させたという。拡大
Aピラーの傾斜とヒップポイントの位置を最適化することで、見晴らしのよい前方視界や好適なドライビングポジションを実現。インターフェイスをシンプルにまとめ、オーディオを低い位置に搭載したインストゥルメントパネルも新型「ムーヴ」の特徴と紹介される。
Aピラーの傾斜とヒップポイントの位置を最適化することで、見晴らしのよい前方視界や好適なドライビングポジションを実現。インターフェイスをシンプルにまとめ、オーディオを低い位置に搭載したインストゥルメントパネルも新型「ムーヴ」の特徴と紹介される。拡大
6代目にあたる先代「ムーヴ」(写真)は2014年に登場。2023年7月まで販売された。7代目となる最新型では初代からの伝統であるカスタムモデルを廃止し、車種体系を一本化。ラインナップは自然吸気エンジン搭載車が3グレード、ターボエンジン搭載車が1グレードのシンプルな構成となっている。
6代目にあたる先代「ムーヴ」(写真)は2014年に登場。2023年7月まで販売された。7代目となる最新型では初代からの伝統であるカスタムモデルを廃止し、車種体系を一本化。ラインナップは自然吸気エンジン搭載車が3グレード、ターボエンジン搭載車が1グレードのシンプルな構成となっている。拡大
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軽トールワゴンは下位互換?

1993年にスズキが初代「ワゴンR」によって軽トールワゴンというジャンルを発明し、ダイハツが1995年に初代ムーヴでもって対抗し始めてからの十数年間は、ワゴンRやムーヴのような軽トールワゴンこそが「極端な商品」だった。全高1650mmもある軽乗用車は、当時の感覚では“激辛”だったのだ。

しかし2003年から2011年にかけて初代「ダイハツ・タント」や初代「ホンダN-BOX」などの全高1800mm級軽スーパーハイトワゴンが誕生し、それらがマーケットの主流になっていくにつれ、いつしか軽トールワゴンは「中庸」にあたる存在になっていった。

「極端」の部分は、やたらと背が高くてゴージャスなスライドドア付き軽スーパーハイトワゴンと、ビジネスムーバー的用途に徹しまくった「ダイハツ・ミラ イース」などの安価な軽セダン、そしてダイハードな配達業務や釣行などのタフな用途は、運ぶという機能に最適な軽バンが担当するようになった。すると全高1650mm級+ヒンジドアの中庸な軽トールワゴンは、結果としてどうしても「余ってしまう」のである。

それでももちろん、中庸であるがゆえにまあまあの数は売れ続けた軽トールワゴンではあったが、ジャンルとしての勢いは確実に失われていった。それはそうだろう。本来であればヒンジドアで全高1650mmぐらいの軽トールワゴンこそがハマるライフスタイルを持つユーザーまでが、「どうせお金を出すなら、より広くて背が高いほうがおトクだし、使わないかもしれないけど、やっぱりスライドドアはあったほうが……」みたいな感じで上位互換的な軽スーパーハイトワゴンを選ぶようになれば、軽トールワゴンというジャンルはほぼ自動的に衰退していく。

軽ハイトワゴンの先駆者とされるのが1993年に登場した初代「スズキ・ワゴンR」だ。写真は1998年10月に施行された軽自動車の新規格(全長を3300mmから3400mmに、全幅を1400mmから1480mmにそれぞれ拡大)に対応した2代目モデル。
軽ハイトワゴンの先駆者とされるのが1993年に登場した初代「スズキ・ワゴンR」だ。写真は1998年10月に施行された軽自動車の新規格(全長を3300mmから3400mmに、全幅を1400mmから1480mmにそれぞれ拡大)に対応した2代目モデル。拡大
ダイハツの軽ハイトワゴン「ムーヴ」は1995年に初代モデルが登場。スライド式のリアシートや横開きのリアゲートを採用するなどして、ライバル車との差異化が図られた。写真は2002年10月に登場した3代目モデル。
ダイハツの軽ハイトワゴン「ムーヴ」は1995年に初代モデルが登場。スライド式のリアシートや横開きのリアゲートを採用するなどして、ライバル車との差異化が図られた。写真は2002年10月に登場した3代目モデル。拡大
細身のLEDヘッドランプとグリルをひとつながりとした意匠に刷新された7代目「ムーヴ」のフロントフェイス。「ムーヴらしい“動く姿が美しい”端正で凛々(りり)しいデザイン」をコンセプトに外装がデザインされている。
細身のLEDヘッドランプとグリルをひとつながりとした意匠に刷新された7代目「ムーヴ」のフロントフェイス。「ムーヴらしい“動く姿が美しい”端正で凛々(りり)しいデザイン」をコンセプトに外装がデザインされている。拡大
最高出力64PSの0.66リッター直3ターボエンジンを搭載する「ムーヴRS」のインテリア。後席は50:50の2分割式で、可倒/リクライニングに加え、240mmのロングスライド機構が備わる。
最高出力64PSの0.66リッター直3ターボエンジンを搭載する「ムーヴRS」のインテリア。後席は50:50の2分割式で、可倒/リクライニングに加え、240mmのロングスライド機構が備わる。拡大

「中庸を求める心」に火をつけた

しかしそれでも、軽トールワゴンというジャンル自体が死ぬことはない。より正確に言うのであれば、「軽トールワゴン的な乗り物(=現代では普通の軽自動車)を求める民草の心は、永久に不滅である」ということだ。

それはもう当然のことで、なにも世の中の全員が軽バンで配達や釣りに出かけたいと思っているわけではなく、ミラ イースで通勤する必要があるわけでもない。そして1800mm級の全高は特には必要とせず、なおかつその全高ゆえに走行性能や燃費性能が若干スポイルされ、車両価格も高くなってしまうことをよしとしない者も大勢いる。そしてそういった者らが軽自動車を買う場合の最適解は、やはり全高1650mmぐらいの「ちょっと悪くない(ショボくない)感じの軽自動車=軽トールワゴン」であるはずゆえ、縮小されてもジャンルとしては死にようがないのである。

とはいえ物品の購入には、特に自動車のように高額な品の購入には、前述したような理屈だけではなく「いきおい」が必要であり、商品には、購入者の勢いを誘発させる「何か」が絶対に必要となる。そしてその「何か」が欠けていたゆえに、近年の軽トールワゴン各モデルは今ひとつぱっとしない状況が続いていた。

しかし今回登場した新型ムーヴは「何か」のカタマリである。ここでいう「何か」の筆頭はもちろん「両側スライドドア」であるが、それに加えて「やや力強いが、決してオラついた感じはない端正で中性的なデザイン」も、人々に「本当はこういう軽が欲しかったんだよ!」ということを思い出させた要因のひとつだろう。また一部のカーマニアには「DNGAプラットフォームになった」という点も刺さったのかもしれない。フルモデルチェンジのタイミングであったムーヴは、例の認証不正の件を機に新型車の生産が先送りされたままだったので、その登場を待っていた(買い控えていた)ユーザーも多いと聞く。

いずれにせよ新型ムーヴは、多くの人々に共通する「中庸を求める心」に火をつける要素を備えていたがゆえに、バカ売れした。そしてその売れっぷりは今後も続き、もしかしたら軽スーパーハイトワゴンを駆逐するのでは――とも思いつつ、もはやライバルといっていいN-BOXが、2025年上半期の登録車を含む新車販売台数において第1位を獲得したとの報を聞くと、この見立てについての自信を失ってしまう自分もいるわけだが。

(文=玉川ニコ/写真=ダイハツ工業、スズキ、本田技研工業/編集=櫻井健一)

7代目「ムーヴ」では、これまでムーヴの伝統だった標準車と「カスタム」のつくり分けを廃止。メーカーオプションとディーラーオプションの組み合わせによる「アナザースタイル」で、個性の演出を提案している。写真はダークメッキを用いて大人のスポーティーさを表現したという「ダンディスポーツスタイル」仕様。
7代目「ムーヴ」では、これまでムーヴの伝統だった標準車と「カスタム」のつくり分けを廃止。メーカーオプションとディーラーオプションの組み合わせによる「アナザースタイル」で、個性の演出を提案している。写真はダークメッキを用いて大人のスポーティーさを表現したという「ダンディスポーツスタイル」仕様。拡大
オプションの組み合わせによる独自のコーディネートを提案する「アナザースタイル」のもうひとつが、写真の「ノーブルシックスタイル」。カッパー色の加飾をエクステリアに用いて、大人の上品・上質さを演出したと紹介される。
オプションの組み合わせによる独自のコーディネートを提案する「アナザースタイル」のもうひとつが、写真の「ノーブルシックスタイル」。カッパー色の加飾をエクステリアに用いて、大人の上品・上質さを演出したと紹介される。拡大
新型「ムーヴ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1655mmで、ホイールベース=2460mm(FF車)。4WD車は全高が15mm高い設定だ。従来型より若干全高がアップし、同じリアスライドドアの軽ハイトワゴン「ムーヴ キャンバス」と近しい外寸となった。写真は車両本体価格が189万7500円の「ムーヴRS」(FF車)。
新型「ムーヴ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1655mmで、ホイールベース=2460mm(FF車)。4WD車は全高が15mm高い設定だ。従来型より若干全高がアップし、同じリアスライドドアの軽ハイトワゴン「ムーヴ キャンバス」と近しい外寸となった。写真は車両本体価格が189万7500円の「ムーヴRS」(FF車)。拡大
新型「ムーヴ」は、夜間の歩行者および二輪車にも対応する、衝突警報機能や衝突回避支援ブレーキ機能を有するステレオカメラ方式の先進運転支援システム「スマートアシスト」を搭載している。
新型「ムーヴ」は、夜間の歩行者および二輪車にも対応する、衝突警報機能や衝突回避支援ブレーキ機能を有するステレオカメラ方式の先進運転支援システム「スマートアシスト」を搭載している。拡大
「ムーヴ」のライバルといえる「ホンダN-BOX」は、2025年上半期の登録車を含む国内新車販売台数において第1位を獲得。「スズキ・スペーシア」や「ダイハツ・タント」を交えた軽乗用車の上位争いも熱くなってきた。
「ムーヴ」のライバルといえる「ホンダN-BOX」は、2025年上半期の登録車を含む国内新車販売台数において第1位を獲得。「スズキ・スペーシア」や「ダイハツ・タント」を交えた軽乗用車の上位争いも熱くなってきた。拡大
玉川 ニコ

玉川 ニコ

自動車ライター。外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、自動車出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。愛車は「スバル・レヴォーグSTI Sport R EX Black Interior Selection」。

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