ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)
ワイルド・バット・マイルド 2025.08.21 試乗記 ボルボの電気自動車(BEV)「EX30」のラインナップにSUV風味あふれるデザインと4WDを採用した「クロスカントリー」が登場。従来型よりも20mm引き上げられた最低地上高と専用サスペンション、前後にモーターを積む4WDが織りなす走りの印象を報告する。人気のクロスカントリーがBEVで登場
ボルボのステーションワゴンをベースに、最低地上高を上げ、SUVっぽいデザインに仕上げたのがクロスカントリーだ。最初のクロスカントリーは1998年に登場した「V70 XC」で、その後、「V60」や「V90」、さらには「V40」にも設定され、日本でも根強い人気を誇ってきた。
そのクロスカントリーのニューカマーとして2025年8月に発売されたのが、BEVの「EX30クロスカントリー」である。いまやボルボのエントリーモデルとしての役割を担うEX30に、伝統と人気のクロスカントリーを組み合わせたいという気持ちはよくわかる。でも、これまではすべてステーションワゴン(またはハッチバック)をベースとしていたのに対し、SUVスタイルが特徴のEX30をさらにSUVらしく演出してしまったというのがなんともユニークである。
まあそれはともかく、ボルボ・カー・ジャパンではこのEX30クロスカントリーの発売と同時に、EX30のラインナップを一気に拡大している。
これまでは、いわゆる三元系リチウムイオンバッテリーとシングルモーターを搭載する「EX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジ」だけだったのが、装備を見直すことで価格を抑えた「EX30プラス シングルモーター エクステンデッドレンジ」や、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用するエントリーモデルの「EX30プラス シングルモーター」、前後2基のモーターで4WDを実現する「EX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」、そして、今回試乗する「EX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」の4グレードが加わったのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
最上級グレードとなったEX30クロスカントリー
EX30クロスカントリーの話を始める前に、簡単にEX30の特徴をおさらいしておこう。BEV用プラットフォームのSEA(サステイナブル・エクスペリエンス・アーキテクチャー)を採用するEV専用モデルで、全長×全幅×全高=4235×1835×1550mmのコンパクトなSUVスタイルのボディーに、ボルボらしいデザインのエクステリアとシンプルでサステイナビリティーの高いインテリア、高性能パワートレイン、自慢の安全性能を詰め込んだ意欲作である。
日本でも2023年8月にお披露目され、2024年はじめに販売を開始。前述のとおり、当初はEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジの単一グレードだったが、今回のラインナップ拡大で、最上級グレードに位置づけられたのが、このEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンスなのだ。
その違いは一目瞭然。これまでのEX30が“ちょっと背が高い、都会的な雰囲気のハッチバック”だったのに対して、EX30クロスカントリーはSUVらしさを前面に押し出した。たとえば、フロントマスクは、グリルのないデザインを受け継ぎながら、前面をブラックとしてワイルドな印象を強めている。また、サイドは、最低地上高を20mm持ち上げるとともに、フェンダーアーチをやはりブラックで縁取ることで、クロスカントリーにふさわしいSUVっぽさを演出。SUVブーム真っただ中ということを考えると、標準のEX30以上にこのEX30クロスカントリーは市場から歓迎されそうである。
一方、インテリアはオリジナルのEX30と基本的に変わらないが、このEX30クロスカントリーの発売を機に、「パイン」と呼ばれる仕様が導入され、再生素材を用いたファブリックシートが淡いグリーンで彩られているのが新しい。Googleのシステムを採用するインフォテインメントシステムは従来どおりだが、メニューの構成が見直されるなどして、使い勝手が向上しているのもうれしいところだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
速さと扱いやすさを両立したツインモーター
そして、デザイン以上に気になるのが、EX30クロスカントリーに搭載されるパワートレインだ。その名にふさわしく、前150PS、後ろ272PSの2基のモーターにより4WDを実現している。この構成は、同時に導入されたEX30ウルトラ ツインモーター パフォーマンスと同じであり、4WDのEX30を心待ちにしていた人にはまさに朗報だろう。
まずは「標準」モードで走りだす。このモードではほぼリアモーターだけで走行するのだが、軽くアクセルペダルを踏むだけで、スムーズで余裕ある加速が楽しめる。EX30自体、登場から1年半以上が経過しているからか各所がブラッシュアップされ、このEX30クロスカントリーでは、以前のEX30に比べてアクセル操作に対する反応が穏やかになり、扱いやすさを増している。ちなみに、4WD仕様のEX30のリアモーターは、シングルモーターのEX30と同じスペックである。
一方、標準モードのままアクセルペダルを深く踏み込めば、スポーツモデル顔負けの鋭い加速に驚く。その場合でも、強大なトルクを前後合わせて4つのタイヤで受け止めるため、安心してフラットアウトにできるのが実に頼もしい。
さらに、「パフォーマンス」モードに切り替えると、フロントモーターが常に作動するようになるとともに、アクセル操作に対する反応がさらに鋭さを増し、そのまま全開加速を試すと、背中がシートに押しつけられるほどに過激である。常にこれだと疲れてしまうが、モード選択とアクセル操作しだいで、スポーティーにもコンフォートにも自在に切り替えられるのがいい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ボルボらしい穏やかな乗り味
回生ブレーキの利き方がいろいろ選べるのも新しいところで、最新版のEX30では、回生ブレーキの利きを「OFF」「低」「高」の3段階から選べるとともに、これとは別にクリープの有無を選択できるようになった。そのため、いわゆる“ワンペダルドライブ”を活用したいなら回生ブレーキの利きを高にして、クリープを有効にすればいいし、発進と停止は自分でブレーキペダルを操作したいというならクリープを無効にすればいいといった具合に、好みの設定が選べるのが実にうれしい。
さらにこのクルマの印象をよくしているのが、穏やかな乗り味。専用サスペンションが装着されるEX30クロスカントリーでは、標準モデルに比べて突き上げ感を抑えた設定になっているといい、実際に運転してみると、これまでのEX30ウルトラ シングルモーター エクステンデッドレンジに比べて明らかに乗り心地がマイルドで、それでいて走行中のロールやピッチングはさほど気にならず、とてもバランスのいい仕上がりをみせる。他のグレードを試したわけではないが、ボルボらしい穏やかな乗り味を持つEX30クロスカントリーがすぐに好きになった。
パッケージングに関しては、通常のEX30と変わらず、全長が短いわりに後席や荷室に十分なスペースが確保されている。一方、細かい部分の改良では、たとえば、フロントシートはクッションの形状が見直され、太もものサポート性が向上。導入当初は利用できなかったワイヤレス式の「Apple CarPlay」や、スマートフォンがリモコンキー代わりに使える機能などが有効になったのも見逃せない。
ボルボ・カー・ジャパンでは、EX30のバリエーション拡大に先立ち、発売当初はオンライン方式のみだった販売方法を、通常のボルボディーラーでの方式に改めている。これにより、すでに商談は増えているとのことで、今回のバリエーション拡大により、日本の路上でEX30を見る機会が増えそうだ。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
◇◆◇こちらの記事も読まれています◇◆◇
◆関連記事:ボルボが電気自動車「EX30」のラインナップを拡充 400万円台のエントリーモデルやAWD車を導入
◆関連記事:ボルボの新型電気自動車「EX30クロスカントリー」上陸 AWDとアウトドアテイストで個性を演出
◆ギャラリー:新型「ボルボEX30クロスカントリー」を写真で詳しく紹介(80枚)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1850×1565mm
ホイールベース:2650mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:156PS(115kW)/6000-6500rpm
フロントモーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/5000rpm
リアモーター最高出力:272PS(200kW)/6500-8000rpm
リアモーター最大トルク:343N・m(35.0kgf・m)/5345rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99V/(後)235/50R19 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンスSUV)
一充電走行距離:500km(WLTCモード)
交流電力量消費率:161Wh/km(WLTCモード)
価格:649万円/テスト車=671万2750円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<スタンダード>(17万3250円)/UV&IRカットフィルム(4万9500円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:750km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.11.22 初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。
-
ポルシェ911カレラGTSカブリオレ(RR/8AT)【試乗記】 2025.11.19 最新の「ポルシェ911」=992.2型から「カレラGTSカブリオレ」をチョイス。話題のハイブリッドパワートレインにオープントップボディーを組み合わせたぜいたくな仕様だ。富士山麓のワインディングロードで乗った印象をリポートする。
-
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.18 ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。
-
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.11.17 スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末
2025.11.26エディターから一言「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。 -
NEW
「スバルBRZ STI SportタイプRA」登場 500万円~の価格妥当性を探る
2025.11.26デイリーコラム300台限定で販売される「スバルBRZ STI SportタイプRA」はベースモデルよりも120万円ほど高く、お値段は約500万円にも達する。もちろん数多くのチューニングの対価なわけだが、絶対的にはかなりの高額車へと進化している。果たしてその価格は妥当なのだろうか。 -
NEW
「AOG湘南里帰りミーティング2025」の会場より
2025.11.26画像・写真「AOG湘南里帰りミーティング2025」の様子を写真でリポート。「AUTECH」仕様の新型「日産エルグランド」のデザイン公開など、サプライズも用意されていたイベントの様子を、会場を飾ったNISMOやAUTECHのクルマとともに紹介する。 -
NEW
第93回:ジャパンモビリティショー大総括!(その2) ―激論! 2025年の最優秀コンセプトカーはどれだ?―
2025.11.26カーデザイン曼荼羅盛況に終わった「ジャパンモビリティショー2025」を、デザイン視点で大総括! 会場を彩った百花繚乱のショーカーのなかで、「カーデザイン曼荼羅」の面々が思うイチオシの一台はどれか? 各メンバーの“推しグルマ”が、机上で激突する! -
NEW
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.26試乗記「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。 -
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】
2025.11.25試乗記インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。




















































