アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ280ヴェローチェ(FWD)
魂はハンドリングに宿る 2024.07.28 試乗記 アルファ・ロメオの未来を担うコンパクトSUV「ジュニア」に、本国イタリアで試乗。存在が明らかになって以来、世のクルマ好きの耳目を集め続けているニューモデルは、このブランドにふさわしい走りを備えているのか? バロッコのテストコースで確かめた。走りに自信あり
燃料消費やCO2排出量の問題がクローズアップされ、個性豊かなエンジンを載せたクルマをつくりにくくなってから、アルファ・ロメオはハンドリングを磨くことでドライビングプレジャーというブランドの生命線を保ってきたように感じる。
いや、もちろん“曲がる”ことが楽しいアルファは、それ以前からたくさん存在した。けれど、それを顕著に感じるようになったのは、「159」あたりからだっただろうか。いわゆるスペチアーレは言うに及ばず、その後に続く「ミト」「ジュリエッタ」「ジュリア」「ステルヴィオ」そして「トナーレ」といったモデルは、それぞれのクラスで頂点級といえる素晴らしいハンドリングを味わわせてくれた。
2024年の1月、そのアルファ・ロメオが、まだ“新型コンパクトSUV”の正式発表まで2カ月半も前の段階で、「ドメニコ・バニャスコの指揮の下」で「イタリア人エンジニアチーム」がドライビングダイナミクスを担当しているという内容のプレスリリースを出した。
アルフィスティなら先刻ご承知だろうけど、バニャスコさんはアルファ・ロメオのスペシャルビークルを担当するチーフエンジニアだ。「8Cコンペティツィオーネ」「4C」「ジュリアGTA/GTAm」は彼の作品といっていい。トナーレにも「初めての電動化車両なんだからスペシャルモデルも同然」ということで、実はかなり深く関わっている。アルファ・ロメオ開発陣のエースなのだ。幸福なことにGTA/GTAmの試乗をしたことがあるのだが、プロダクションモデルの「ジュリア クアドリフォリオ」だって感動的だったというのに、その記憶をかすませてしまうくらいの強烈なインパクトだった。
早い段階でバニャスコさんが関わってることをアピールしたのは、ニューモデルがBEVとマイルドハイブリッド(MHEV)の2本立てで、それもBEVがメインとなることに懸念を抱いてるアルフィスティに対するメッセージであり、同時に完成しつつあったドライビングダイナミクスに対する自信の表れだったのだろう。
だから、その分野に関してはなんの心配もしていなかった。僕のなかにわずかに残っていた懸念は、そのスタイリングに関してだった。
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やっぱりクルマは実物を見ないと!
2024年4月に「ミラノ」として発表されたときには、正直に告白するとギョッとさせられたのだけど、それから写真を何度も眺めているうちに、「これはこれでありなんじゃないか?」という気分になってはいた。例えば“醜いジュリア”と呼ばれた初代の「ジュリア ベルリーナ」や“イル・モストロ(=怪物)”とニックネームが付けられた2代目「SZ」などは、今ではアルファの歴史的な名車に数えられている。眺めているうちに次第に魅力的に感じられるようになるクルマをときどき生み出すのも、アルファ・ロメオなのだ。とはいえ、クルマはナマで見てみなけりゃわからない。そこがちょっとばかり気になってたのだ。
そして2024年7月頭。僕はアルファ・ロメオの聖地であるバロッコのテストコースで、ミラノ改めジュニアに初めて接見することができた。そのときに僕が最初に発した言葉は、「なんだよ、写真で見るよりぜんぜんカッコいいじゃん」だった。その「なんだよ」は、おそらく「心配させやがって」の気持ちの表れだったんだと思う。
ステランティスのモジュラー型プラットフォーム「eCMP」を基本骨格にして構築されたジュニアのシルエットは、ステルヴィオ、トナーレと続いたアルファ・ロメオのSUVのラインを引き継ぎながら進化させたものといっていい。ステルヴィオやトナーレの面影を部分的に残しつつ、ルーフを低く下げ、ハッチバック風に仕立てたような印象だ。力強く膨らんで見える4つのフェンダーと、前後のフェンダーを滑らかな曲線でつなぐショルダーライン、それにボディーサイドの面構成の巧みさなどで、見る角度によってはグラマラスにすら感じられる。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4173×1781×1505mmと、背の高さを除けばジュリエッタよりほんのわずかに小さいのに、堂々として見えるのだ。ノーズが短くてちんちくりんに見えたりするようなことがないのも、スポーティーなイメージに貢献している。ジュニアのスタイリング、実物はなかなか悪くない。
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“昔風”なのもいいけれど
ミラノとしてデビューしたときに議論の的になることが多かったアルファ・ロメオのアイコン、“スクデット(=盾)”もそうだ。盾の部分が大きな十字と“ビシォーネ(ヘビ)”の透かし彫りみたいになっているこの意匠は、上級グレードに使われる「プログレッソ」と呼ばれる新しいアイコンなのだが、写真ではそこが悪目立ちしちゃっていたのだろう。実車ではスクデットのブラックの色調や光沢感が巧みに抑えられていることがわかって、わりとすんなり受け止めることができたのだ。
おそらくこの意匠は、アルファ・ロメオが獲得を狙っている若く新しいユーザー層に向けたものだ。もうひとつ、保守派のための「レジェンダ」という意匠もあるわけだが、三角形のメッシュの上に戦前のアルファ・ロメオのように筆記体のロゴが流れる、ベーシックなグレード向けのこの顔のほうが、個人的には好みではある。けれど、プログレッソも思いのほか悪くない。ちょっとホッとした。
スクデットがプログレッソであることからもわかるとおり、今回の試乗車は上級グレード、それもBEVとMHEVを合わせたすべてのラインナップのなかでも、最も高性能な「ジュニア エレットリカ280ヴェローチェ」だった。前輪を駆動する最新の「M4+」モーターは280PSのパワーと345N・mのトルクを発生し、5.9秒という0-100km/h加速と200km/hの最高速(リミッター制限)を実現。そして容量54kWhの高エネルギー密度バッテリーにより、WLTPサイクルで334kmの航続距離を可能にしている。当初、ヴェローチェの最高出力は240PSと発表されていたが、40PSもプラスされることになったわけだ。
すべての感触が滑らかで心地いい
乗り込んでみると、そこにはアルファ・ロメオらしさのあるコンサバティブな景色が広がっていた。写真で見たときからなんの疑念も懸念も抱かなかったのだが、2眼に盛り上がるメーターナセルは初代ジュリアの「1750GTV」あたりを範にしたトラディショナルな方向のデザイン。「156」の時代以降、これがアルファのスタンダードになっている。インフォテインメントシステム用の10.25インチタッチモニターがコンソールの内側にレイアウトされているのが異なるが、おおむねステルヴィオやトナーレに似た雰囲気だ。装備類に不足はなさそうだし、全体的にプレミアム感の高い仕立てになっているようだが、細かくチェックする時間もないままコースインを促される。
今回の試乗では、広大なバロッコのなかにある“いつもの”高速主体のサーキット「ミスト・アルファ」のほか、アップダウンやさまざまな速度域のコーナー、いろいろな種類の路面、そしてそれらの複合技もある、一般道を模した20kmほどの「ランゲ・サーキット」も走ることができた。後者は今回、バロッコ村にテストコースができた1962年以来、初めて開発陣以外のドライバーを迎え入れたのだという。このクルマに対する力の入り具合が、そんなところからも察せられる。
まずはその“ランゲ”のコースから走りはじめたのだが、車重が1590kgと、同じクラスのライバルたちより200kgは軽いこともあって、その加速は軽快にして爽快だ。背筋がゾクッとするほど速いというわけじゃないけれど、胸がすく思いがして、口元が緩むぐらいには速い。BセグメントのSUVであることを考えると、十分以上のパフォーマンスだ。
同時に気づかされたのは、あらゆる部分の滑らかなフィーリングだった。BEVの加速が滑らかなのは当然といえば当然だが、ジュニアの滑らかさはクラスで最も上質と思えるほどの気持ちよさだった。それに電動パワーステアリングのフィールも上々で、スッと切り込んでいくときの感触がとても心地いい。どちらもドライバーの感性を重視したチューニングがきっちりと行われてるのだろう。
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ハンドリングは期待以上
乗り心地もなかなかのものだ。サスペンションはどちらかといえば硬めなのだが、その動きを受け止める車体が強固だから、アシがしっかりと働いて、荒れた路面の凹凸も複雑なうねりも、サラッとやり過ごしていく。ピッチやロールも適度に抑えられていて、ドライバーに余分な動きを伝えてこない。クラスを超えた上質な乗り味。立派に快適といえる領域にある。
そして、楽しみで仕方なかったハンドリングの出来栄えだが、これは期待どおりというより期待を超えていた。ファンタスティック! と言ってもいいくらいだ。ステアリングを切り込むと間髪入れずに前輪と後輪がシンクロするようにして素早く反応し、旋回を開始。狙ったラインの上にピタリと車体を乗せながらコーナーをクリアする。進入するときのオーバーステアも、脱出に向かうときのアンダーステアも、基本、まったく顔を出すことがない。シャープではあるけど安定感は抜群で、とにかくよく曲がる。しかもその動きは手に取るように伝わってくる。
ステルヴィオのように舵角を入れたときの初期反応の鋭さは強烈じゃないし、トナーレみたいにロールがはじまった瞬間からえぐり込んでいくような曲がり方をするわけじゃない。かなりのスピードでグイグイ曲がっているというのに、クルマはとてもニュートラルで、ドライバーに伝わってくるフィーリングにも不自然さとかクセのようなものはまったくない。アジリティーの高さとともに、クルマとの適度な一体感を覚えるのみだ。その曲がりっぷりを的確に言葉へと置き換える能力がないのが悔しいのだけど、楽しさも気持ちよさも、ステルヴィオやトナーレにまったく負けていないし、曲がることにまつわる印象深さは、むしろ姉にあたる2台よりも鮮烈かもしれない。結構ドラマチックなのだ。
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もしBEVしか買えなくなる日が来たら……
立ち話程度の時間しかなかったのだが、バニャスコさんにその秘密を尋ねてみたら、同じeCMPプラットフォームを使うほかのクルマに対して、かなり独自のセットアップやチューニングを加えているらしい。例えば足まわりではアップライトは設計し直しているし、ジオメトリーも変えている。ナックルやアンチロールバーなどは完全な専用品で、ダンパーは「ダブルハイドローリックストップ」と呼ばれる油圧ストッパー付き。ステアリングギアレシオもBEVとしてはクイックな14.6:1という設定だ。
なによりキモとなるのは、「トルセン“D”」と呼ばれる機械式LSDを新開発して投入したこと。2006年に「147」で初めて採用した「Q2」システムの、トルク感応型機械式LSDの働きを電子制御する仕組みを大幅に進化させたものだ。いずれはステランティスのほかのスポーツモデルにも採用される可能性があると予想しているのだけど、少なくとも現時点では、ジュニア ヴェローチェの専用品なのだという。ドライビングダイナミクスに対するアプローチが、他のブランドとアルファ・ロメオとでは違うのだ。
別れ際にバニャスコさんは、「このクルマはレーシングカーじゃなくてファミリーカーだからね」と言ってニコニコ笑っていた。確かに、乗り心地がよくてグランツーリスモ的なテイストもある。車内も車格の割には広く、クーペ風のスタイルをまとう割には荷室容量も400リッターあって、使い勝手もよさそう。サイズも日本の環境にピッタリとマッチする大きさだ。ファミリーカーとしての必要条件は十分満たしているとは思う。でも、走らせているときの高揚感は、ちっともファミリーカーのそれじゃない。
そんな日が来ることはないだろうけど、もしBEV以外に乗ってはいけない時代が来たら……? そのときのマイカー候補はこれまで「アバルト500e」の一択だったけど、そのポジションはこの日、アルファ・ロメオ・ジュニア ヴェローチェに変わった。
(文=嶋田智之/写真=ステランティス、嶋田智之/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ280ヴェローチェ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4173×1781×1505mm
ホイールベース:2562mm
車重:1590kg(空車重量)
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:280PS(207kW)
最大トルク:345N・m(35.2kgf・m)/250-4875rpm
タイヤ:(前)225/40R20 94V XL/(後)225/40R20 94V XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
一充電走行距離:332-334km(WLTPモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
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嶋田 智之
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