第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す
2025.10.03 エディターから一言![]() |
2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
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誕生から10年目の節目の年に進化
ミシュラン・クロスクライメート3とミシュラン・クロスクライメート3スポーツは、「雪も走れる夏タイヤ」として2021年8月に登場した「クロスクライメート2」の後継モデルだ(参照)。2015年に欧州で発表された「クロスクライメート」をルーツとし、自動車用品量販店での先行販売を経て、「クロスクライメート」と15インチ以上の「クロスクライメート+」、さらにSUV向けの「クロスクライメートSUV」の3タイプが2019年から本格的に販売された。
オールシーズンタイヤがポピュラーなカテゴリーとして認知されつつあったクロスクライメート2の発売当時でも、ミシュランはオールシーズンタイヤという種別でのアナウンスを積極的に行ってこなかった。理由は「すべての季節や天候に対し万能」というイメージを避けるためだったという。オールシーズンタイヤは、総じて凍結路面に対する性能がスタッドレスタイヤよりも低いことは明確で、それに対する注意喚起の意味合いもあったとか。そこで用いられた表現が「雪も走れる夏タイヤ」である。
いっぽう今回、クロスクライメート3とクロスクライメート3スポーツの発売にあたっては明確にオールシーズンタイヤをうたう。その理由についてミシュランは、カスタマーレベルでオールシーズンタイヤに対する理解が深まったことを挙げる。クロスクライメート2が登場した当時は、「本当にこのタイヤで雪道を走れるのか」「スタッドレスタイヤの代わりになるのか」という声も寄せられたそうだが、現在は突然の降雪にも対応可能な一年を通してタイヤの履き替えが必要ないタイヤであることを、多くの消費者が理解しているという。
いっぽうオールシーズンタイヤの普及に伴い高まってきたのは、快適性や非積雪路でのグリップ性能、低燃費性能を重視する声だ。つまり「雪道をきちんと走れることはわかった。ならば、めったに走らない雪道よりも通常路面での快適性や安心感をより高めてほしい」と、ユーザーニーズが変化してきたことになる。それらをカバーするのが、進化したクロスクライメート3とクロスクライメート3スポーツというわけだ。
タイヤが減っても性能低下が小さい
クロスクライメート3とクロスクライメート3スポーツは、夏の強い雨や冬の急な雪など、予測しづらい天候変化にも対応でき、日常の運転に安心感をもたらすとうたわれる。トレッドパターンのデザインは従来型の延長線上にあり、クロスクライメートシリーズの伝統にのっとって「Vシェイプトレッドパターン」を踏襲。ただし、しっかりとした縦溝がトレッドパターンの中央に刻まれているのが新しい。このセンターグルーブは排水性、排雪性の向上に有効で、グリップ力はもちろんのこと、ブレーキ性能も高めるという。
一つひとつのブロックは従来品よりも幅を狭く設定。ピッチを増やすことで接地面内のブロックエッジを増加させ、スノーグリップ性能の向上を図った。サイズの異なるブロックを最適配置する「ピアノ アコースティック チューニング テクノロジー」も新採用された技術で、これにより不快に感じる周波数帯のノイズ削減を実現している。
今回、クローズドコースを舞台に用意されていたメニューは3つ。最初に試したのは「トヨタ・カローラ ツーリング」に新品のクロスクライメート3と残溝が2mmとなったクロスクライメート3を履かせて、ウエットブレーキ性能を比較するというものだ。サイズはいずれも205/55R16である。
クロスクライメート3は、「マックスタッチコンストラクション」と呼ばれる技術でトレッド面に均一な接地圧分布を確保。接地面が安定し、高い耐摩耗性能を実現するとしている。わかりやすく言えば、「タイヤが減っても新品時からの性能低下が小さい」ということである。
さっそく80km/hからぬれた路面でのフルブレーキング。大人の事情によりはっきりした数字は公表できないが、新品は同車両7台分程度の制動距離で、対する残溝2mmの制動距離は、それにプラスすること車両1台分もない。いずれも3度トライした平均値である。制動距離の短さとその差の小ささは驚愕(きょうがく)レベルである。しかも制動の立ち上がりのフィーリングはどちらも良好。これはもう、うなるしかない。
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オールシーズンタイヤなのに走りが楽しい?
この良好なフィーリングは、2つ目のメニューである高速走行時にも体感できた。試走車両は同じくカローラ ツーリングで、装着するクロスクライメート3のタイヤサイズも同じく205/55R16である。速度を80km/h、100km/h、120km/hと引き上げていっても、オールシーズンタイヤにありがちなハイスピード域での高周波ノイズはしっかりと抑え込まれている。これはダブルレーンチェンジを行った際のスキール音の小ささでも確認できた。ピアノ アコースティック チューニング テクノロジーの恩恵だろう。試しに行った120km/hから60km/hへの急激な減速では、他ブランドのオールシーズンタイヤとは異なり、後輪の荷重が抜けた際に感じる不安定な挙動が最小限であったことも報告したい。
3つ目のメニューはウエットハンドリング路における新品のクロスクライメート3スポーツと同じく新品のクロスクライメート2の比較試走だ。車両は「フォルクスワーゲン・ゴルフeTSI」で、装着サイズはいずれも225/40R18である。先にクロスクライメート2を装着した車両で走ると、まるでウエットグリップをウリにしているプレミアムタイヤのような、ステアリング操作に忠実な挙動を確認できた。正直、これはなかなかのものである。サマータイヤとしてみても、かなりいいセンだ。
しかし、クロスクライメート3スポーツはその印象を上書きするに十分な走りを披露してくれた。まずはスタート時のひと転がり目が軽快だ。この軽快さは、連続するコーナーを抜けた後も継続。路面との密着感にも確かな違いを覚えた。
特徴的なトレッドパターンのせいか大きな舵角を与えるとザラッとした感触が伝わってくるのは両者に共通するが、グリップ力はこちらが一枚上手。聞けば、ミシュランの「パイロットスポーツ」シリーズでもおなじみのアラミドとナイロンを組み合わせた高剛性のハイブリッドキャッププライを採用した「ダイナミックレスポンステクノロジー」を投入したとのこと。このケース剛性の高さが、全体のレベル引き上げにつながっているのは間違いない。
では、クロスクライメート3とクロスクライメート3スポーツの違いはなにか。それはズバリ走りを楽しめるパフォーマンスをクロスクライメート3スポーツが有しているという点にある。サイズが18インチ以上で、すべてXL規格対応とくれば、その狙いもまた明確。スポーツの名が示すそのままの結論で面白みはないが、しかし、オールシーズンタイヤで走りが楽しめるなどと、いままで誰が考えただろう。これは実に画期的なことでもある。機会があれば、雪上での印象も追加で報告したい。
(文=櫻井健一/写真=日本ミシュランタイヤ、webCG/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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