スズキ・エブリイワゴン PZターボスペシャル(MR/4AT)【試乗記】
プレミアムでも、まだ足りない 2005.12.14 試乗記 スズキ・エブリイワゴン PZターボスペシャル(MR/4AT) ……153万3000円 フルモデルチェンジされたスズキの「エブリイワゴン」の謳い文句は、「軽のミニバン」。レジャーユースを見込んだ広さとユーティリティ。軽自動車の進化は、どこへ向かうのか。広さはたいしたもの
「軽のミニバン」という謳い文句ではあるけれど、3列シートが装備されているわけではない。軽自動車だから定員は4人までと定められているから、スペースがあってもシートを増設することはできないのだ。じゃあどこがミニバンなのかというと、ボリューム感のあるフォルムと広い居住空間を持った優秀な道具としてのクルマである、ということになるらしい。
少々無理のあるキャッチのような気もするが、確かに内部の広さはたいしたものである。1795ミリの全高を利して、アタマの上には広大な空間が広がっている。インパネシフトの採用で、前席でウォークスルーが可能だし、リアシートは150ミリのスライド量を確保しているから足元の余裕が大きい。もちろんシートアレンジは多彩で、フルフラットにもなる。収納スペースはインパネトレー、オーバーヘッドコンソール、ラゲッジサイドポケットなど、至れり尽くせりだ。
商用車仕様の「エブリイ」では、2人乗車時にビールケースが36個入ると謳われているから、積載能力は相当なものである。トールボーイの「ワゴンR」と比べたって車高は15センチも高いわけで、いっぱい荷物を積みたい向きにはありがたい資質なのだ。ルーツをたどれば1964年デビューの「スズライトキャリイバン」に行き着くというだけあって、長年働き者ぶりに磨きをかけてきたクルマである。
パワースライドドアも装備
しかし、よく働くというだけでは、昨今のユーザーを納得させることはできないようだ。内外装の上質さ、手厚いホスピタリティが、軽自動車といえども要求される。「プレミアム」という表現で説明を受けたのだけれど、この言葉もずいぶん短い間にデフレ現象を起こしてしまったらしい。ただ、インテリアの質感は、一昔前の軽では考えられなかったレベルに達している。落ち着いた色調のツートーンのシート生地はなめらかな感触で、若干肉厚は乏しく座面長が足りないものの、掛け心地はゆったりしている。エアコンはフルオートで、タバコの匂いや花粉を吸着するフィルターまで付いている。
後席の乗降性を向上させるために、特別な装備が奮発されている。リモコンで操作できるパワースライドドアが軽自動車で初めて採用された。ドアが開くと自動的に出現する「電動オートステップ」は、先代の後期モデルから加わったものだ。こういった快適装備は、ユーザーからの評価が特に高かったそうだ。
エンジンはNAとターボ付きの2種が用意されている。1トンを切る車重ではあるが、4人乗車で荷物もたくさん積むということであれば、過給なしではキビシいだろう。今回乗ったのは、最上級グレードのPZターボスペシャルだった。1人、2人で乗っている限り、動力性能にはまったく不満はない。加速の際にはどうしても回転を上げなければならないのだが、前席シートの下に鎮座するエンジンからのノイズは、音質・音量ともにガマンができないほどのものではなかった。
酷なのは承知で、期待したい
サイズが小さくて小回りが利くし、広さや快適度も十分に満足のできる水準になってきた。これなら、軽のミニバンと謳うのも十分に納得できる……と言いたいところだが、残念ながらそうはうまく話は運ばない。乗り心地、ハンドリングの面では、まだまだ改善すべき余地が残されている。
2リッター、3リッタークラスの最近のミニバンは、運転していてその大きさや背の高さをほとんど意識せずに走らせることができるようになってきた。乗用車感覚という言葉が、まったく誇張ではなく当てはまるクルマがいくらでもある。それに慣れてしまっているものだから、コーナーでふらついたり、不整な路面でピョコピョコと落ち着きのない動きを抑えられない様子が、残念に感じられてしまったのだ。
もちろん、軽自動車の枠はスケールの面でもコストの面でも、とてもシビアな制約である。普通のミニバンと同じ土俵に載せるのは酷なことだということは、重々承知だ。しかし、日本が世界に誇るべき軽自動車は、これまでもさまざまな面で驚くべき進化を示してきた。それを知っているからこそ、つい期待してしまうのだ。質感や装備では、本当に大変なレベルまで到達しているのだ。ハンドリングや乗り心地だって、もっと向上させることができるんじゃないか。表面的な「プレミアム」化より、そのほうがずっと大事なことなんだから。
(文=NAVI鈴木真人/写真=峰昌宏/2005年12月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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