クルマの内装から「物理スイッチ」が消えてタッチパネルばかりになるのはどうしてか?
2026.03.17 あの多田哲哉のクルマQ&A車内のスイッチの多くが、なんだかスイッチらしくない電気式のタッチパネルになってしまいました。個人的にあまり歓迎していない傾向なのですが、そもそもタッチパネル化はなぜ進むのか、理由を教えてください。
これまでのクルマの内装、例えばメーターやスイッチ類のデザイン構成は、「車種ごとに一新する」という流れできました。トヨタの場合でいえば、“外のデザイン”と“中のデザイン”は車種ごとに、モデルチェンジのたびに新しくつくる、というやり方です。一方でヨーロッパのメーカーは、「ラインナップ全体でほぼ共通のインテリアデザインにし、あとは加飾などで差をつける」という考え方でした。
それが、クルマの電子化に伴い大きく変わりました。今どきの新しいクルマは、メーターパネルが液晶や有機ELのディスプレイになっていて、そこにさまざまな情報が投影されます。さらにそのディスプレイがインテリア全体に広がり、スイッチ類も画面上に集約されるという構成に変わってきています。
これはもう後戻りできない流れです。なぜなら、こうした内装システムを制御する基盤ソフトウエアの開発に、莫大(ばくだい)なコストとマンパワーを必要とするからです。それを車種ごとにバラバラに開発するというのは実質不可能で、メーカー内の全車種を横断的にカバーする共通システムを設計し、見かけだけを車種ごとに少し変えるという手法をとるしかありません。
スイッチについても、スマホに慣れた世代にとっては、物理的なボタンよりも階層構造で画面を操作していくほうが直感的にわかりやすいという変化が起きています。昔からのクルマ好きの方々には「慣れ親しんだボタンがなぜないんだ」と不評なこともありますが、ユーザーのメイン層がスマホ・パソコン世代に移るなかで、メーカーには、昔のボタン式に戻るという選択肢が全くありません。
残念ながら、より多数派に向けた、スマホに近いインターフェイスの開発に注力せざるを得ないのが現状です。かつて“女性仕様”や“シニア仕様”といった特別なパッケージが大きな市民権を得られなかったように、あえて古い仕組みに戻すことは、商売として成り立ちにくいのです。
たしかに、特定の操作にフィードバック(感触)が必要な場合もあり、今はタッチパネルでも振動などを使って疑似的なフィードバックを出せるようになっています。ここ数年、メーカーによっては物理スイッチを復活させる流れもみられますが、長期的な視点でみれば、もう以前のような物理スイッチの世界には戻らないでしょう。さらにいえば、これからは「ボタン/スイッチを押す」という動作すらなくなり、目線で操作したり、音声で操作したりする世界にどんどん移っていくはずです。
音声操作は今よりも“当たり前”になり、声を出すのすら面倒という人向けには「目で合図すれば操作できる」といった、かつてSFで描かれたような世界が実現する。新しいものが登場すると必ず一定期間は文句を言う人が出てくるものですが、時間がたてばそれが当たり前になっていくのも世の常です。数年もすれば、あらゆる操作系が電子化され、今は想像もつかないような新しい機能がどんどん実装されていくと思いますよ。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。