三菱パジェロ クリーンディーゼルシリーズ【試乗速報】
今こそ四駆のディーゼルだ!! 2010.09.06 試乗記 三菱パジェロ ロング スーパーエクシード(4WD/5AT)/ロング エクシード(4WD/5AT)/ショート VR-II(4WD/5AT)……487万2000円/440万4750円/384万3000円
「三菱パジェロ」が新たにポスト新長期規制に適合したクリーンディーゼルエンジンを搭載した。環境性能だけでなく動力性能も同時に向上させた新型にオフロードコースで試乗し、ディーゼルのメリットを確かめた。
ハエ取り紙の粘着力がアップ
三菱自動車がポスト新長期規制をクリアするディーゼルエンジンを発表したのは喜ばしいニュースだ。一方、そのクリーンディーゼルエンジンを搭載した「パジェロ」の試乗会がオフロードコースで行われると聞いて、そりゃ困ると思った。オフロードという特殊な環境ではなく、できれば市街地や高速道路で、燃費や静粛性といった日常領域での使い勝手を知りたかった……。
と、思っていただけれど、結果的にはオフロードコースで試乗することができてよかった。砂を巻き上げ、泥まみれになる特殊な環境で乗ったからこそ知り得たことや、思うところがあったからだ。
ぴっかぴかのパジェロが泥んこで汚れる前に、三菱のクリーンディーゼルエンジンについて簡単におさらいをしておきたい。
三菱は、2008年にヨーロッパ仕様をベースに開発したディーゼルエンジン搭載のパジェロを日本で発売している。ただしこの時点では、世界的に見ても非常に厳しい日本のポスト新長期規制をクリアできていない。具体的には、黒煙の原因となるPM(粒子状物質)こそ規制値をクリアしていたものの、光化学スモッグや酸性雨を招くNOx(窒素酸化物)が規制値をオーバーしていたのだ。
ポスト新長期規制クリアに向けて三菱が取り組んだのは、ざっくり言って以下のふたつの内容だったという。まず、NOxを吸蔵して浄化するNOxトラップ触媒の性能が上がったことが大きかった。なんて書くと難しそうですが、三菱のエンジニア氏の話では「ハエ取り紙の粘着力を上げて、何回掃除しても使えるようにした」とのこと。なるほど。
ほかに、圧縮比を下げることやインジェクターの燃料噴射精度の向上など、エンジン本体の改良にも努めた。結果、ポスト新長期規制をクリアするにとどまらず、燃費もパワーも上がったという。
以上でお勉強はおしまい。クリーンディーゼルエンジン搭載のパジェロでオフロードに繰り出す。
内燃機関もまだまだ伸びる
エンジンを始動してクルマの中と外で騒音チェック。アイドリング時の音は、外で耳を澄ましても静かだ。車内も静かで、不快な振動もない。やわらかくアクセルペダルを踏んで、そろりそろりと発進。加速は力強く、低速域でのレスポンスもいい。滑らかプリンの舌触りのようにツルーっとしている、というのは大げさにしても、エンジン回転が上昇する時のフィーリングはスムーズでザラついた感触はない。全体に、頼りがいがあって上質なパワートレインだという印象。
スペック的にも最大トルクは45.0kgmと、ポスト新長期規制クリア前のディーゼルから約2割も強力になっている。この強大なトルクは2000rpmという低い回転数で生まれる。オフロードコースの急坂の岩場を登るような場面でも、アクセルペダルに軽く足を載せただけでトルクがこんこんとわき出る印象。微妙なアクセル操作に対するレスポンスも良好だから、運転が楽で楽しい。
エンジンのスペックをもう少し深掘りしておくと、トルクだけでなく最高出力も従来型より12%向上、燃費は10・15モードで6%向上している。内燃機関にも、まだまだ伸びしろはある。
もちろん、パジェロがアクロバティックな姿勢になっても安定しているのは、シャシー能力が高いから。通常の四駆モードでも見上げるような坂を登るし、4WDトランスファーレバーでセンターデフをロックする「4HLc」モードを選べば、2つのタイヤが浮いてしまうような岩が連続するセクションでも何事も起こらない。「こりゃダメだ」と思うような場所でもあっけなく通過してしまうから、運転していて気が抜けてしまうほど。しかも、ローギアもロックすることで、さらに強力に駆動力を伝達する「4LLc」というモードは温存しているのだ。
そして試乗会では、パリダカを2度制した名ドライバー、増岡浩さんの助手席を経験するというプログラムも用意されていた。
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これがホントのハイブリッド社会
パジェロが真横になったり垂直(!)になったり、増岡さんの超絶ドラテクに目からウロコが落ちたのはもちろん、その発言にもハッとした。増岡さんは、「こういった道だと、ガソリンより下からトルクがあるディーゼルのほうが乗りやすいですよ。ガソリンは回転を上げたときのトルク変動が大きいから、かなり気を遣いますね」とおっしゃったのだ。
頭の中に「!」が4つぐらいともる。ディーゼルというと、燃費がいいという側面だけに光をあてがちだ。けれども燃費だけでなく、大きなクルマを荒れた道で走らせるような場面で、人の役に立つという側面もあるのだ。
現在、世界には9億数千万台のクルマが走っている。これが2050年には20億台から25億台に増えるという。とはいえ、日本でもアメリカでもヨーロッパでも、これから爆発的にクルマが増えることはない。これからは、道が悪かったりインフラが整っていない地域でもクルマは増えるはずだ。つまり世界的には、ディーゼルの四駆が活躍するフィールドはどんどん広がるはず。今こそ四駆のディーゼルが必要なのだ。
「クルマが全部EVになって、電気は自然エネルギーで発電すればいい」てなことを思うこともある。もちろんそれにこしたことはないけれど、現実問題としてすぐには難しい。日本や欧米のようにある程度高価なクルマも買える国だったらハイブリッド、20万円とか30万円といったシンプルで安いクルマが必要な地域にはコンパクトで燃費のいいガソリン車、舗装が行き届いていなかったり雪深い地域には四駆のディーゼル、などなど、それぞれの国や地域の使い方に合ったエコカーが必要となるのだろう。
EVやガソリンやディーゼルが、世界中で適材適所で使われるのが理想だろう。それが本当のハイブリッド、なんて、閉ざされたオフロードコースで試乗したらガラにもなく大きなことを考えてしまった。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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