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第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う

2026.02.25 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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修行が足りないAI

筆者は2023年4月の当連載第805回で、雑誌『CAR GRAPHIC』の創刊編集長・小林彰太郎氏(1929~2013年)の“霊言”に挑戦した。雑誌『SUPER CG』の編集者時代の上司である本人に、なんちゃって降霊術を使って面会を試みたのである。

早いものであれから間もなく3年が経過したので、ふたたび挑んでみることにした。もちろん今回もフィクションであり、過去に実在した本人たちとは一切無関係であることをお断りしておく。

その前に、生成AIサービス「ChatGPT」に、前回同様「小林彰太郎氏は、天国でどのようなクルマに乗っていますか?」と質問を入力してみた。結果は以下のとおりである(原文ママ)。

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「それはもちろん想像の世界ですが、きっと“彼らしい一台”を選んでいるはずですね。
生前の嗜好(しこう)や審美眼から想像すると、
例えば:

  • 端正で品格ある ジャガー・マーク2
  • 軽快でドライバーズカーの代表格 アルファロメオ・ジュリア
  • 実用と美を兼ね備えた メルセデス・ベンツ 300SEL 6.3

あたりでしょうか。
あるいは、「天国にもまだ見ぬ理想のグランドツアラーがある」と言って、新しい車を喜々として試乗しているかもしれません。きっとハンドルを握りながら、静かにこう評しているのではないでしょうか――『クルマは文化である』 想像するだけで、少し楽しくなりますね」

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参照するソースが拡大したのだろう、3年前の素っ気ない答えよりずいぶんと「それっぽく」なってきた。しかし、生前の本人を知る筆者としては、「箱もの」を趣味のクルマとして所有するとは想像できない。とくにメルセデス・ベンツは完成度の高い機械と評価しつつも愛情を注ぐ対象にしていなかった小林氏が、300SEL 6.3を日々楽しむとは到底思えない。まだまだAIは修行が足りない。

それではご降霊、お願いします……。

今回は久々に、あの世の小林彰太郎氏に面会(?)したお話を。
今回は久々に、あの世の小林彰太郎氏に面会(?)したお話を。拡大
メルセデス・ベンツ300SEL 6.3
メルセデス・ベンツ300SEL 6.3拡大

霊界で創刊近し

大矢:ご無沙汰しております。お元気でしたか?

小林:ああ。少し前こっちに来た(元CAR GRAPHIC編集部員で、自動車誌『NAVI』創刊編集長の)大川 悠君とばったり会ってね。フリージャーナリストの立場から長年筆を振るってもらった三本和彦さんも含め、古い仲間がだんだん集まってきた。だから、天国版CAR GRAPHICでも創刊しようかと話していたんだ。困ったのは名前だ。

大矢:大川さんは晩年にお遍路を実践していたので「仏界のCG」で『BCG』なんてのは、いかがでしょう?

小林:(こいつはダメだという表情)君があんまり霊言をやってくれないものだから、もう物書きをやめて場末の学校で先生でもやっているのかと思ってました。たしか君は、SUPER CG編集部に採用されなかったら、内定していた女子校の音楽教師になってたはずだったね。

大矢:(相変わらずささいなことをよく覚えている)3年前は話題となっていた霊言も、諸般の事情ですっかり旬のワードではなくなりまして。それはともかく、2025年にアメリカ大統領にドナルド・トランプ氏が再選されました。

小林:トランプ?

大矢:ああそうか。小林さんが天国に召されたときはバラク・オバマ氏でした。したがってトランプ氏の大統領第1期からしてご存じないのですね。今、彼が朝令暮改で発表する関税政策で、世界の自動車業界は大混乱です。さらに環境政策も変わって、メーカーは電気自動車から内燃機関車への再シフトに大変なんです。まさに“トランプ劇場”が毎日開かれているような状態です。

小林:劇場ということは、またハリウッド俳優か?

大矢:いえいえ、ロナルド・レーガンじゃないんですから(笑)。

電気自動車シフトが後退するなか、ステランティスは2026年2月、ディーゼル車の生産継続を決めた。これは2025年10月に発表された「アルファ・ロメオ・トナーレ」の改良新型。
電気自動車シフトが後退するなか、ステランティスは2026年2月、ディーゼル車の生産継続を決めた。これは2025年10月に発表された「アルファ・ロメオ・トナーレ」の改良新型。拡大

日産とKK線

大矢:そういえば、前回、小林さんの霊言を試みたあと、日産自動車の経営状態が急速に悪化しまして、現在も再建を模索中です。

小林:僕は日産自動車の入社試験を受けたことがあるんだ。でも最終の健康診断で不採用になった。

大矢:まあ、日産に採用されていたら、CAR GRAPHICは誕生しなかったわけですね。

小林:それから日産といえば、僕が俗界で生きているときから言ってたんだけど、ダットサンの名称を葬ってしまったのはまったくもって愚策だった。きっかけは社内の権力闘争だったんだ。ここ数年でこっち(天国)に来た人から聞いたところによると、今の経営不振はそうした内輪もめが繰り返された結果とみた。いわばお家芸だな。

大矢:その後、ダットサンは小林さんが天国に旅立たれたのと同じ2013年に新興国向けのブランドとして復活したのですが、10年後の2023年にまた廃止されてしまいました。それにしても、小林さんが日産の幹部になっていたら? と考えると、これまた面白いですねえ。

小林:少なくとも、意気がって横浜に立派なグローバル本社は建てなかっただろうな。銀座でよかった。

大矢:銀座といえば東京高速道路、通称KK線が2025年春に大部分が廃止されました。遊歩道になる予定です。

小林:昔は銀座の高速道路の路肩に駐車して、映画を見に行ったりしたものだ。

大矢:(その話、夕方の『太陽にほえろ!』再放送のごとく、何度も聞きましたと言いたいが、一応こらえる)

ダットサンの名称はピックアップトラックの商標として長らく存在した。これは10代目。2018年トスカーナ州で撮影。
ダットサンの名称はピックアップトラックの商標として長らく存在した。これは10代目。2018年トスカーナ州で撮影。拡大
東京都中央区の旧日産本社ビル。2018年撮影。
東京都中央区の旧日産本社ビル。2018年撮影。拡大

やっていることは「繰り返し」

小林:ところで、前回君が来てくれたときに教えてくれたステ…なんとか、というのはどうしたのかな?

大矢:ステランティスですね。グループ内で共通プラットフォームを活用しながら、いかにブランドごとに違うテイストを出すかに苦労しているところです。

小林:英国の旧ブリティッシュ・レイランドのように、気がついたら似たようなクルマが無数にできていて、いつのまにか企業ごと消滅となるのだけは避けるべきだな。

大矢:当時と異なり、同じプラットフォームやアーキテクチャーでも、かなり違う商品にできるノウハウが確立されましたから、バッジエンジニアリングでまったく同じ轍(てつ)を踏むとは思いません。ただし、イタリア人ユーザーのなかには「中身はシトロエンやプジョーじゃないか」と困惑する向きがいることも事実です。いっぽうフランスでは、「なぜ大統領専用車にもなっているDSの最高級車『N°8』がイタリア工場製?」という声もありまして……。

小林:ふむ。ダイムラー・クライスラーのときと同様、国をまたいだ統合は困難がともなうな。

大矢:そうだ、「ジャガー・タイプ00」をご覧になりますか?(と言って、雲の上から地上のコンセプトモデルを指さす)

小林:(一瞬言葉に詰まる)意欲は買うが、かつてのローバーを見ればわかるように、ブランドの若返りというのはけっして簡単ではない。

大矢:権力闘争、部品共通化によるマンネリズムとの戦い、そして若返りの難しさ。考えてみると、自動車メーカーがやっていたり、直面したりしていることは、昔からたいして変わっていませんねえ。

小林:古代ギリシアの政体循環史観のようだな。

大矢:あ、そうだ。今日はお土産に古いCAR GRAPHIC誌を神田神保町の古本屋さんで買って持参しました。あまりに重くて、俗界からあの世まで持って上がってくるの、死ぬかと思いました。

小林:それなら、もう天国の住人になればいい。

大矢:縁起でもないことやめてください。ところで古いCAR GRAPHICを見ると、1970年代の小林さんて、元F1選手のジャッキー・スチュワートや歌手の尾崎紀世彦もびっくりのモミアゲがあったんですねえ(と言って苦笑する)。

小林:ヤング読者にわからないような、たとえはやめたほうがいいぞ。

大矢:(久々にヤングという言葉を聞いた。やはり小林氏はあらゆる意味で時代を超越している……)

(文・イラストレーション=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、メルセデス・ベンツ、ステランティス、ジャガー/編集=堀田剛資)

ダイムラー・クライスラー時代のクーペカブリオレ「クライスラー・クロスファイア」。「メルセデス・ベンツSLK」をもとに開発された。
ダイムラー・クライスラー時代のクーペカブリオレ「クライスラー・クロスファイア」。「メルセデス・ベンツSLK」をもとに開発された。拡大
ジャガー・タイプ00
ジャガー・タイプ00拡大
1970年代の小林氏は、今見るとかなり衝撃的である。
1970年代の小林氏は、今見るとかなり衝撃的である。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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