第109回:礼賛! 世界のベーシックカー ―でかいタイヤが象徴する“足し算のカーデザイン”に物申す!―
2026.04.15 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ルーマニアのダチアやインドのマルチ・スズキなど、日本では見かけない世界のベーシックカーに大注目! カーデザインの識者が見いだした、飾り気のない姿に宿る“素のカッコよさ”の源泉とは? 日欧にはびこる足し算のカーデザインに今、警鐘を鳴らす!
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カーマニアこそダチアを知っておくべき?
webCG ほった(以下、ほった):今回は清水さん肝いりのテーマです。ルーマニアのルノー系ブランド・ダチアや、日産のインド向けMPV「グラバイト」のような、世界の安価なクルマのデザインについて語ってみたいとのことですが……。要は新興国向けのクルマってことで、よろしいでしょうか?
清水草一(以下、清水):ダチアは新興国じゃなくて、欧州のど真ん中向けだけどね。所得が低めの南欧では、超メジャーでしょ。
ほった:所得については知りませんが、確かにイタリアの月販ランキングでは、ダチアのクルマが表彰台の常連みたいですね。その影響で、同門の兄貴分であるルノーの販売まで落ちたとか。(PCをポチポチ)……イタリアでは、フィアットに次いでブランド別シェア2位ですね。
清水:「ダチア・サンデロ」とか、『トップギア』でもしょっちゅうイジられてるくらい、メジャーなモデルだもんね(笑)。
渕野健太郎(以下、渕野):ダチアは純粋にデザインがカッコいいと思いますよ。変なことをしていないというか。
清水:おおっ、援護射撃キター! そうですよね! まったく変なことをしてない。飾ってない感じがカーマニア的にとっても好印象なんですよ。まぁ写真でしか見ませんけど。
ほった:日本じゃ実車は見かけませんからねぇ。
清水:カーマニアは今こそダチアに注目しろ! 「ダチア・ダスター」を知っておけ! と言いたい。
ほった:サンデロはハッチバック、ダスターはSUVですね。
渕野:ダチアは変なことはしてないですけど、それでも「ここにこんなものが付いているんだ」という面白さもありますね。
清水:ルーフレールやフロントアンダーガードが定番かな。それも微妙にレトロっぽいんだよね。
今のダチアより昔のダチア
渕野:ただ、水を差すようで恐縮ですが、現行ダスターはこれ(タブレットで写真を見せる)で、以前のものとは全然違います。
清水:ああ。だいぶオシャレになっちゃってるな、これは。
ほった:で、これがひとつ前のダスター(やっぱり写真を見せる)。 いいですね。これくらいの感じが。
清水:おお、これこれ。この素な感じがいいんだよ。カッコつけていないカッコよさ。今のSUVが失った何かがある。
ほった:対する現行ダスターは、ちょっとカッコよすぎかも(笑)。これは、あまりよくない傾向ですよ。ちょっと売れすぎてるのかもしれません。
渕野:先代ダスターの、これくらいの感じがいいですよね。顔も強すぎないし。一般ユーザーは、それほど顔に強さを求めていないのだと思います。
清水:先代のほうがむしろ新鮮に見えますよ! 例えば渋谷で、すごい髪型やファッションの人が大勢いるなかに、ほった君みたいに素朴なのがいたら、より高潔で好青年に見えるでしょ? ダチアはそんな感じですよ。
ほった:ワタシは渋谷だろうと高知の大川村だろうと、常に高潔な好青年ですがね。ちなみに当方が今一番推しているベーシックカーは、タイの「ハイラックス チャンプ」です。
清水:えっ、これいいじゃん! ものすごく素!
ほった:少しあざとい感じもしますが、いいですよね。個人的に激アツです。
渕野:「ランドクルーザーFJ」のベースはこれなんだろうと思います。ただ、今日の話題としては、少し違う気もしますね。
清水:これはトラックだから。今日の議題からすると、ちょっとズレるかも。
ほった:むう。残念。
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日産車にみる新興国向けデザインの進化
清水:ダスターと伍(ご)して渡り合えるクルマといえば、やっぱり日産グラバイトじゃないかな。このクルマのニュース(参照)が出たとき、『webCG』では結構アクセスが伸びてたでしょ。カーマニアの心に刺さる何かがあるんじゃないかな?
ほった:いやー、これはどうかと思いますよ。
清水:ちょっと色づかいが問題だけど、バンパーのこの赤い装飾とかがなければ、もっと素の感じがしていいんじゃないかな。現行日産車のなかでは、かなりグッドなデザインの部類に入る気がする。
渕野:うーん。フロントとリアはスタティックで今風なデザインですが、ボディーはどちらかというとダイナミックな造形で、そのチグハグさが少し気になりますね。
ほった:ワタシも、「コメントに困る」というのが印象です(笑)。
渕野:赤の差し色って割とあるものですが、このクルマはかなり目立つ使われ方をしてますよね。ほかの地域ではあまりやらない感じですが……。写真のクルマは最上級モデルでしょうか?
清水:たぶん(笑)。たまたまグリーンと赤が組み合わさっちゃっただけで、全体がシルバーなら超地味で好感度高いでしょ、きっと。以前にダットサンブランドで出してたクルマに比べたら、だいぶ進化してると思いますよ。
ほった:「ダットサンGO(ゴー)」でしたっけ? 見た瞬間、「新興国の人をバカにするのはやめたほうがいいですよ」って言いたくなりましたもん。今となっては、名前を出しづらいあの人に(笑)。
清水:名前を出しづらいあの人(笑)。
渕野:これと比べたら、グラバイトはまだマシですね(笑)。グラバイトは3列7人乗りですけど、全長によって税金が変わるとかの事情があるのでしょう。車体が非常にコンパクトです。西アジアや東南アジアではこういう系統のクルマが走っているイメージがありますね。プロポーションがちょっと不思議というか。
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デザインの進化か? 厚化粧になっただけか?
ほった:あと、新興国で強いといえばインドのスズキですかね。実はこんなのを売ってます。「ビクトリス」といって、なぜか去年のジャパンモビリティショーにも展示されてました。
清水:これはシンプルでいいね。
ほった:非常にデザインがまっとうなんです。初代「バレーノ」の頃はちょっと心もとない感じもあったけど、そこから比べたら随分変わりました。マルチ・スズキの進化もすごいけど、それ以上に、お客さんであるインドの方の意識やセンスの進化がすさまじいんだとか。
渕野:マルチ・スズキは、ディーラーに行けばスマホひとつですべて対応してくれるようなショールームになっているらしいですね。その辺はむしろ、日本よりも進んでいる。
清水:日本が一番アナログなのかも。
渕野:いっぽう日産グラバイトは、清水さんには申し訳ないですが、デザインとしてはスズキのほうが現代的で洗練されていますね。スズキはもう、いい意味で「新興国だから」っていう感じがしない。
清水:確かに、日産はインドでもダメだし日本でもダメだし、北米でも中国でも、全世界で不振ですよね。でも日本のカーマニアとしては、もっと“素”の、力の抜けたデザインを望んでるってことが言いたかったんですよ。とはいっても、ダチアでさえデザインの一流ブランド化が進んでいる。シュコダも今風になりすぎました。もっと飾っていないものを期待しているんだけどなぁ。
渕野:モデルチェンジのたびに、改良しようとして純粋さが失われていくのでしょうね。
ほった:いや、新興国向けのカーデザインもどんどん進化しているってことじゃないですか? なんだかんだ言っても、以前の「日産ラティオ」とかはヒドいデザインだったじゃないですか。幅が狭くてタイヤが小さくて、しかも引っ込んでいて。それが「ダメなセダン」として、逆にいとおしく思ったりもしましたけど。
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キモはタイヤの小ささにあり!
渕野:タイヤに関していえば、ダチアは今どきのクルマとしては、タイヤが小さい割に車高があるのが特徴なのでしょうね。スズキの「フロンクス」も、小さいタイヤでうまくSUV感を出そうとしてます。今のクルマは、なんでもタイヤを大きくしてカッコよく見せようとしますから、逆にタイヤが小さいだけで、どこか懐かしく感じるんですよ。
清水:なるほど、ポイントはそこか! 正直、タイヤのデカさでカッコよく見せるクルマはもう飽きましたよ。どこもかしこも大径タイヤにツライチのオーバーフェンダーでしょ。もう、そういう脂っこいデザインを見てもなんとも思わなくなってるんですよ! そうじゃなく、小径タイヤの内股デザインでもカッコよく見えるクルマをつくってほしい。小さいタイヤで勝負してほしい! そのほうがタイヤ交換も安いし(笑)。
渕野:清水さんの好きな「クロスビー」(参照)も、その感覚に近いですよね。結局のところ、いき着く先は「タイヤの径」であると。
清水:私が今でも愛している「日産サンタナ」は(笑)、タイヤがすごく小さかった。ホイールベースが短くてトレッドも狭かった。でも、それが逆に上品で、たおやかに見えたんですよね。今風のデザインとは真逆! 昔のクルマが若い人に人気なのは、今のクルマとはプロポーションのつくり方が根本的に違うからじゃないですか?
渕野:昔のクルマはサイドシルをグッと中に入れて、そのぶんタイヤをはみ出させて強調する手段が一般的でした、しかし現代では、安全上の理由などでサイドシルをそんなに内側に入れられないんですよ。それでもスタンスをよく見せるため、さらにはボディーの拡大化も相まって、タイヤの大径化が進んだのではと感じています。
ほった:それにしたって、今のクルマはタイヤがデカすぎでは? R32の「日産スカイラインGT-R」だって16インチだったし。素人が生意気言いますけど、デカいグリルとかデカいタイヤとか、今のカーデザインは簡単にカッコよくできる安易なアイコンに頼りすぎじゃないかと。
清水:強気に出たね(笑)。今日のまとめとしては、「タイヤを大きくしてごまかすな!」ってことでいいでしょうか?
ほった:ムリヤリ着地させましたね(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=スズキ、ダチア、日産自動車、newspress、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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