世界遺産・高野山で大型電動バス「BYD K8」の営業運行がスタート その狙いとは?
2026.05.07 デイリーコラム高野山で初めての和歌山を体験
これまで旅行や仕事で日本のあちこちを訪れてきたが、実はまだ行ったことがない都道府県がいくつかある。佐賀と長崎だ。今年こそこの2県に行ってみたいと思っているのだが、つい最近、もう1県、未踏の地があることがわかった。和歌山である。
なぜそれが発覚したかというと、BYDから「プラグインハイブリッド車(PHEV)の『シーライオン6』に乗って高野山に出かけませんか?」という誘いを受けたからだ。よく考えると、高野山も和歌山県も訪れた記憶がない。それだけに、世界遺産の高野山も気になるし、シーライオン6での長距離ドライブも気になる……ということで、急きょ和歌山行きを決めた。
ところでなぜこのタイミングで高野山なのか。実は4月24日から、「南海りんかんバス」が高野山でBYDの大型電動バス「K8」を走らせることになったからだ。
大型電動バスが和歌山県内に導入されるのは今回が初めて。この記念すべき瞬間に立ち会い、せっかくなら高野山の街並みを走る姿も見てみたいし、実際に電動バスに乗って高野山を巡ってみたい。そんな思いを抱きながら、BYDのPHEV、シーライオン6で東京から和歌山を目指すことにした。
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航続距離240kmのK8なら夜間の充電だけでOK
今回導入される電動バスのK8は、全長×全幅×全高=1万0500×2495×3270mm、最大乗車定員80名(座席と跳ね上げ席は26席)の大型バスだ。主に屋根の上に搭載される容量314kWhのバッテリーは、BYD自慢のリン酸鉄リチウムイオンタイプの“ブレードバッテリー”で、一充電走行距離は240kmと発表されている。
導入は6台で、弘法大師(空海)の御廟(ごびょう)がある高野山を代表する参拝地である「奥の院」と、高野山駅とを行き来するメインの路線に導入される。一日に走行する距離は一台あたり100km程度といい、240kmという一充電走行距離は十分なスペック。営業終了後の夜間に急速充電を行えば、翌朝の始発までには満充電にできるという。
南海りんかんバスでは、このエリアを走るディーゼルバス40台のうち、6台をK8に入れ替えた。その理由を同社の和田純一社長に伺うと、「南海グループでは環境経営に取り組んでおります。高野山は信仰の聖地でもありますので、走行時に二酸化炭素を排出しない電動バスは、クリーンな空気やその雰囲気の維持にもつながると考えております。同地は南海グループの沿線では有数の観光地でもあり、ステークホルダーの皆さまに向けて環境経営をPRするうえでも、電動バスの導入は最適であると考えております」という答えが返ってきた。
BYDを選んだ理由は、航続距離やメンテナンス性に加え、冬場はマイナス10°Cを下回ることもある高野山で使える実績があったこと、さらに南海グループ内での導入経験もあり、整備面の不安が少なかったことも大きいそうだ。
“山上の宗教都市”を駆け抜けるBYDの電動バス
電動バスの拠点となる高野山駅で出発式を見届けた私は、営業運転が開始されたばかりのK8に乗り込み、人気の奥の院まで行ってみることにした。後方の席について待っていると、ほどなくしてバスが発車。ディーゼルエンジン車と違い、走行中も停車時も静かなのが電動バスのうれしいところ。もちろん加減速もスムーズだ。バスの運転士に話を聞くと、ギアチェンジやクラッチ操作から解放されるのも助かるという。
高野山駅を出た電動バスは曲がりくねった山道を3kmほど走り、「大門」のあるT字を右に折れる。すると森ばかりの視界が突然開け、山の上に広がる街とおびただしい数の寺院にあっけにとられる。標高約900mにある高野山が“山上の宗教都市”と呼ばれるのも納得だ。
初めて訪れる高野山は、観光地っぽいにぎわいを想像していたのだが、実際はかなり静かで落ち着いた空気が流れている。そんな雰囲気のなかを電動バスが静かに走り抜けていく。赤いボディーカラーも、高野山の街並みになじんでいて、ここ高野山の移動手段としては、かなり相性がいいのではないかと思う。
20分ほどバスに揺られていると、目的地の「奥の院前」バス停に到着した。奥の院を参拝したあとは、電動バスで街の中心にある「金堂前」まで移動し、高野山真言宗の総本山である「金剛峯寺(こんごうぶじ)」や、弘法大師が最初に整備したという「壇上伽藍(だんじょうがらん)」を見たり、ランチを楽しんだり。街なかに響く鐘の音が心を癒やす。
ひととおり見どころを回って、電動バスで高野山駅に戻るころには、都会と違って静かにゆっくり流れる時間に、すっかり気持ちが緩んでいた。
シーライオン6は快適なグランドツアラー
冒頭でも触れたが、今回の高野山取材は、往復ともにBYDのミッドサイズSUVであるシーライオン6を走らせた。先行して導入されたFWD仕様車に加えて、この4月からは4WD仕様車「シーライオン6 AWD」もデリバリーが始まり、私は往路に前者、帰路に後者のステアリングを握ることになった。
これまで日本に導入されてきた「ATTO 3」「ドルフィン」「シール」「シーライオン7」がすべてBEVであるのに対し、このシーライオン6はPHEVであるのが大きく異なるところ。短距離であれば電気だけで走行できる一方、長距離ではガソリンエンジンで発電することで、FWDでは1200kmに及ぶ長い航続距離を実現するのがアドバンテージである。
これを支えているのが「DM-i(デュアル・モード・インテリジェンス)」と呼ばれるプラグインハイブリッドシステムで、バッテリー残量に余裕がある場合はその電力のみで走行し、バッテリー残量が少なくなると、1.5リッター直4エンジンで発電しながら走行。状況によってはエンジンが直接前輪を駆動することもあるが、基本的には発電用に徹するというのがDM-iのコンセプトだ。
それだけに、FWD、AWDとも加速はスムーズで、走行時の静粛性も高く、ロングドライブには打ってつけ。今回初めて運転したAWDは、モーターの最高出力が前後合わせて408PSと、FWDの197PSを大きく上回るだけに加速にも余裕があり、とくに高速道路で加速するような場面では頼もしかった。
片道約550kmのドライブでは、当然、途中の給油は不要。満タン法による燃費は、行きのFWDが17.4km/リッター、帰りのAWDが16.6km/リッターという数字で、レギュラーガソリン対応というのもうれしい。
車両価格はFWDの398万2000円に対して、AWDは50万6000円高の448万8000円だが、加速性能や悪条件での走破性などを考えると、私なら積極的にAWDを選びたいと思いながら、気がつけば約1200kmを走破。BYDの高い技術力に感心させられた2日間だった。
(文=生方 聡/写真=BYDジャパン、生方 聡/編集=櫻井健一)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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