自動車メーカーにとってBEV開発は「経営のお荷物」なのか?
2026.06.17 デイリーコラム発売目前での計画見直し
日本の自動車メーカーによる電気自動車(BEV)の生産計画中止が次々に明らかになった。インパクトが大きかったのはホンダだ。2026年3月12日、本年にも米国市場への投入を予定していたBEV3車種、「Honda 0 SUV」「Honda 0サルーン」「アキュラRSX」の開発・発売の中止を発表した。
ホンダはモビリティーメーカーの責務としてカーボンニュートラルを目指すとし、その切り札として「電動化への確固たる意志を持って」開発したのが、次世代技術満載の0シリーズだった。2024年1月に米国ラスベガスで開催された「CES 2024」でサルーンと「スペースハブ(後のSUV)」を初公開。両モデルを2026年に市場投入後、2030年までに小型から中大型モデルまで、グローバルで7モデルを投入する計画であることを明らかにした。
米国に投入する予定だったBEV3車種の開発・発売の中止についてホンダは、「米国では化石燃料に対する規制の緩和やBEV補助金の見直しなどにより、BEV市場の拡大スピードが鈍化している」と、事業環境の変化を理由に挙げた。そして、「BEV需要が大幅に減少している現在の事業環境下で生産・販売を開始すると、将来にわたってさらなる損失拡大を招く恐れ」があると説明した。
ホンダは0シリーズの立ち上げに合わせ、米国内で新しい生産システムの導入を企画し、準備を進めていた。開発・発売を中止にすると、それまで準備した機械などの資産を処分する必要が出てくる。その際の除却損失や減損損失、取引先への違約金・補償金などが発生するため、0シリーズの件を含めた四輪電動化戦略の見直しに関連し、2兆5000億円の損失を試算していると明かした。
拡大 |
痛みは小さいほうがいい
伝わるところによれば日産もホンダと同様に米国におけるBEV補助金見直しによる売れ行きの落ち込みなどを捉え、米国で生産する予定だった新型BEV2車種の生産計画を中止したもよう。レクサスは次世代BEVの第1弾として2027年にも導入を予定していた「LF-ZC」の開発中止を決めた。このクルマもやはり主戦場は米国だったはずで、生産計画の中止に影響を与えたのは、米国における事業環境の変化だろう。
スケールの大小はあろうが、ホンダも日産もレクサスブランドを抱えるトヨタも、将来の大きな損失を避けるために、涙を飲んで損切りをしたことになる。先日、ホンダのあるベテラン社員に「2兆5000億円の損失は痛いですね」と水を向けると、「いま決断してよかったと思いますよ」との答えが戻ってきた。「決断できないままズルズルいってしまうことのほうが怖い」と。「世の中には不良債権を抱えたまま黙っている会社もあるんじゃないですか」と続けた。
損することが分かっているなら、早く決断したほうがいい。後で100万円損するより、いま10万円損するほうがまだいいからだ。10万は痛いけど、という話だ(スケールはだいぶ違うが)。そもそももうかる見込みがあって決断をし、大きな投資をしたのではないかという突っ込みもできそうだが、大ナタを振るわざるを得ないほど事業環境の変化は激しいということだろう。額はデカイが、それでも損失は最小限に抑えたという見方もできる。
拡大 |
あくまでアメリカ向けの方針転換
自動車メーカーにとっては大きな決断を迫られたことになるが、BEVへの流れを完全に断ち切るわけではないし、次世代BEVに投入するはずだった技術が無駄になるわけでもない。ホンダはBEV3車種の開発・発売は中止するが、インドで生産し日本には2027年以降に投入する計画の「Honda 0 α」の開発を中止するとは言っていない。ただ米国向けのBEVについて軌道修正をするだけだ。
レクサスはLF-ZCで適用する予定だった低ハイトのボンネットフードを実現するeアクスルや次世代バッテリー、次世代生産技術などの新しい技術は後続のBEVに適用していく可能性を残している。BEV事業を縮小させていくわけではなく、LF-ZCという車種を市場投入しなくなっただけだ。
日産は米国におけるBEV戦略について、「市況や政策の動向に応じて、規律ある投資を維持しながら、柔軟に対応していく」と説明している。BEVの代わりに、ハイブリッドシステムを搭載するフレーム車などで商品ラインナップの拡充を図るとともに、現地調達率を高めるなどしてコスト体質を高め、「関税や政策の変動による影響を抑える」考えだ。
斬新なデザインかつ新技術満載のHonda 0サルーンにSUV、0サルーンと同様にボンネットと背の低さがウリで、新技術満載だったLF-ZCがお蔵入りになったのは残念だが、BEVの開発が終わるわけではない。技術は残るしデザインの考え方も残り、次の機会に生かされる。ただ当面、米国においてはBEVでもうけるのではなく他の技術でもうけるという方針転換をしただけだ。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=本田技研工業、日産自動車、トヨタ自動車/編集=藤沢 勝)
拡大 |

世良 耕太
-
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日NEW 2026.10.30 中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。
-
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー 2026.10.29 メルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
NEW
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29デイリーコラムメルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。 -
NEW
ボルボEX90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(後編)
2026.10.29あの多田哲哉の自動車放談ボルボの新世代EV「EX90」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんが試乗。ちょっと気になったところと、クルマとしての魅力を感じたポイントについて熱く語る。 -
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。
































