久々の“攻め”の一台! 新型「日産キックス」に宿る起死回生の使命とつくり手の意気込み
2026.07.24 デイリーコラムマーケティングが語る新型「キックス」の使命
東京都内で行われた、日産の新型「キックス」の試乗会のことである。すでに試乗記は公開しているが(参照)、乗る前のプレゼンテーションで、ちょっと興味深い場面があった。デザイナーや開発者とともに、マーケティングの担当者が登壇したのだ。
これまでも、車種によっては営業畑の方による価格設定の説明があったりはしたものの、マーケティングの担当者が自動車メディアの取材会で、ここまで前面に出て話をするのはちょっと珍しい。しかもそこでは、「日本市場で日産の存在感を復活させるように」というフレーズから始まり、「台数を増やすことで存在感を示すことが大事」「ユーザーに選ばれることで、キックスはもちろん、日産の印象好転の実現を狙いたい」という切実なメッセージが語られた。
マーケティング目線での新型キックスの価値観としては、コンパクトSUVならではの機能性はもちろん、遊び心や質感の高さ、大人っぽさも付加価値として挙げており、これらをユーザーに伝えていきたいと語っていた。さらに価格設定については、「チャンピオンモデルと比較してもらえるように」と切り出し、「ホンダ・ヴェゼル」のハイブリッドがターゲットだという具体的な言葉もあった。
イヴァン・エスピノーサCEOが就任後の日産は、日本では「リーフ」と「ルークス」の新型が発表されたが、前者は販売台数がそれほど多くない電気自動車だし、後者は三菱自動車との合弁企業NMKCがマネジメントした軽自動車だ。対する新型キックスは、日産が独自に設計をして、売れ筋となっているコンパクトSUVの市場に送り込むモデル。それだけに、並々ならぬ決意を持っていることが伝わってきた。
技術面でも、新型キックスはシリーズハイブリッドの第3世代「e-POWER」を日本で最初に市場に投入。プラットフォームはコスト面で有利だった「Vプラットフォーム」から日仏共同開発の「CMF-B」にスイッチ。「アリア」や「エクストレイル」など、上級車向けの技術と個人的に思い込んでいた「e-4ORCE」も投入するなど、「技術の日産」というフレーズを思い出させるような内容だ。
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生産拠点が九州に移るころには……
走りについては試乗記で報告したとおりで、上で書いた先進技術が快適性や上質感に結びついているだけでなく、e-4ORCEの作動状況を液晶メーターに映し出すなど、分かりやすくユーザーに伝えようとしている姿勢も印象に残った。デザインについても、アメリカンフットボールのヘルメットをイメージしたというフロントマスクや、スニーカーのソールを思わせるサイドシルにライバルにはない遊び心を感じた一方、横長の大型ディスプレイとファブリックを組み合わせたインパネは、先進かつ上質という雰囲気だった。
それだけに気になったのは、発売後に放映が始まったテレビCMが、フワッとした印象だったこと。ここでは披露できないけれど、商品企画のプレゼンテーションで見せてもらったムービーのほうが、ポップでリズミカルで、キャラクターに合っていると思った。女優の綾瀬はるかさんが出演した、「マツダCX-5」のCMの印象が強かったからそう感じたのかもしれないが、日産も「見えルークス!」という実績があるので、もっと弾けてほしいものだ。
最後になるが、新型キックスは、国内向けの生産拠点がタイのバンコク近郊から日本の追浜工場に移されたことも、先代との違いだ。プラットフォームを共有するノートの拠点が追浜ということもあるだろう。ちなみに、タイでは先代のビッグマイナーチェンジ版が継続生産される。僕自身は、昔はともかく今はクルマやバイクがどこでつくられたかは気にしないが、タイ生産だった先代よりクオリティー面で信頼できると考える人もいるだろう。これもまた、新型キックスの価値のひとつに数えられるかもしれない。
たしかに追浜工場は、2028年3月に車両生産を終えることが決まっている。新型キックスの生産施設を決めたときは、あるいはまだ閉鎖の決定がなかったのかもしれない。追浜のあとはノートともども九州でつくられることになるそうだが、その頃には、世の中での日産のイメージが好転していることを望みたい。
(文=森口将之/写真=向後一宏、日産自動車/編集=堀田剛資)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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