カワサキZ900RSブラックボールエディション(6MT)/Z900RS SE(6MT)
王者の誇り カワサキの矜持 2026.07.24 試乗記 カワサキが誇る人気のレトロスポーツ「Z900RS」が大幅に進化。このマシンならではの“凄(すご)み”はそのままに、エンジンの改良と高度な電子制御の採用により、スポーツバイクとしての魅力にいっそう磨きをかけてきた。卓越したその走りを報告しよう。電子制御で走りを磨く
名車「Z1」のDNAを現代によみがえらせたレトロスポーツとして、絶大な人気を誇るZ900RS。その最新モデルでは、これまでのマイナーチェンジの域を完全に超えて、走りの質を一気に引き上げてきた。
最大の注目は、大幅な改良が施されたパワーユニットだろう。排気系はもちろん、カムシャフトやクランク、ECUも変更され、ついに電子制御スロットル(ETV)が採用された。これにより、低回転域の扱いやすさと高回転域での力強い加速を両立。さらに、車体姿勢を緻密に制御する「カワサキコーナリングマネジメントファンクション(KCMF)」や、クイックシフター、クルーズコントロールなどの機能・装備を網羅。クラシカルな外観とは裏腹に、中身は現代の最先端スポーツモデルへと進化した。
実車を前にしてまず目を奪われるのが、新設定の「Black Ball Edition(ブラックボールエディション)」のカラーリングだ。かつてのZ1をほうふつとさせる漆黒の塗装は、光の当たり方で妖艶な表情を見せ、レトロスポーツとしての凄みと高級感を完璧に表現している。このたたずまいだけで、乗り手の所有欲を満たしてくれる仕上がりだ。
そして走りだせば、ETVによりスロットルレスポンスが極めてスムーズになったことに気づかされる。従来のワイヤ式で時折見られた、開け始めのシビアな過渡特性が完全に払拭されている。低速域でのギクシャク感がなくなり、タイトコーナーからの立ち上がりでも恐怖感なく右手を大きく開けていけるようになったのだ。
またこの点については電制アシストの恩恵も大きく、6軸センサーで制御されるKCMFが、バンク中のブレーキ力や後輪のトラクションを安全圏でコントロールするようになったのだ。アクセル操作に対して車体の挙動が安定しているため、気持ちにも余裕が生まれ、ライダーはライン取りに集中できる。今回はサーキット試乗だったが、これなら街なかの交差点でもワインディングロードでも、気持ちよく爽快な走りを堪能できるはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
官能性を増したエンジンと、地味に効いているライポジの改善
そして、この扱いやすさの先で待っているのが、最高出力が従来比+5PSの116PSへと高められたパワーユニットの真価だ。電子制御の恩恵でジェントルかつツキのよさが極まったエンジンは、中回転域を過ぎたあたりから、カワサキの“Z”特有の図太くハウリングの効いた咆哮(ほうこう)とともに、一気に加速ゾーンへ飛び込んでいく。特に高回転域におけるパワーの盛り上がりと、レブリミットに向けてさらに伸びていく上昇感が素晴らしい。「これぞ直4全開加速!」という、官能的なエキサイトメントが全身を突き抜けていく。
思い返せば、2017年に初期型がデビューしたときも、九州の大分にあるサーキット、オートポリスで初試乗したのだが、その過激な走りっぷりに「ネイキッドの形をしたスーパースポーツ」と評した記憶がある。もちろん、当時と今とではバイクを取り巻く環境も、性能の基準も大きく異なる。しかし新型は、Z900RSが持つとがった長所はそのままに、われわれがまさに欲した部分だけを見事に上乗せしてきた。そのブレない進化の姿勢に、カワサキの矜持を感じる。
加えて、これも地味に効いているのがライディングポジションの改善だ。ハンドル幅が50mm狭くなって、高さも38mm低くなった。最初にまたがったときに、「あれ、バイクが小さくなった?」と勘違いしたほどで、従来の上体が立った大柄なライポジからすると、だいぶコンパクトかつスポーティーになった。個人的には、ヒジを張ってワイドハンドルでねじ伏せる、昔ながらのスーパーバイク乗りのような雰囲気も好きだったが、多くのライダーにとっては新型のほうが自然にフィットするかもしれない。またシート高も10mm高くなったが、それはタックロール部のウレタンの厚みが増えただけなので、足つきはほぼ変わらず、クラシカルな見た目とともに快適性が向上しているのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
さらなる高みを求めるなら「SE」という選択肢も
このように隔世の進化を遂げたZ900RSだが、そこにさらなる走りの性能と質感を付与したのが、上級モデルの「SE」だ。特徴は、世界のトップブランドの品を採用しての足まわりの強化にある。例えばフロントブレーキには、ブレンボ製φ300mmダブルディスクと「M4.32」ラジアルマウントキャリパーを装備。ニッシン製ラジアルマスターシリンダーやステンレスメッシュホースとの組み合わせにより、正確でリニアなコントロール性を実現している。また、リアサスペンションにはオーリンズ製「S46」ショックを採用。大型ピストンとガスチャンバー構造が優れた路面追従性を発揮し、リモートプリロードアジャスターによって状況に応じたセッティング変更も容易だ。
視覚的にも、フロントサスのゴールドのアウターチューブや、専用エンブレムが特別感を演出。象徴的な“ファイヤーボールカラー”は、彩度と明度を高めることでその存在感をいっそう際立たせている。さらに、ドライブレコーダーやUSBソケットなどの実用装備も標準で搭載し、まさに上級仕様にふさわしい仕上がりだ。
まず、またがっただけでサスペンションのグレード感が違う。スタンダードモデルから乗り換えると誰でもすぐに気づくと思うが、リアサスの動きが「滑らか」「しっとり」「じんわり」しているのだ。スロットルオフでの姿勢変化も穏やかで、ブレーキングも安定しているし、スロットルの開け始めで後輪が路面を蹴っていく手応えが濃厚。高速コーナーでのフルバンク中にギャップやウネリに乗ったとしても、接地感が途切れず挙動が安定しているので怖くない。結果として、サーキットのような限界域のステージでも、快適に思えるほど安心してラップを刻むことができた。普通に走るぶんにはスタンダードモデルでも十分満足できるのだが、同時に乗り比べたからこそ分かる「30万円の差」だった。
クラシカルで美麗なスタイリングに、現代最高峰の調律が施されたスポーツ性能。新型のZ900RS、そしてZ900RS SEは、単なるレトロモダンにとどまらない、スポーツバイクとしての真の凄みを、さらに極めた一台である。
(文=佐川健太郎<ケニー佐川>/写真=望月勇輝/編集=堀田剛資)
【スペック】
カワサキZ900RSブラックボールエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×815×1135mm
ホイールベース:1465mm
シート高:810mm
重量:216kg
エンジン:948cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒当たり)
最高出力:116PS(85kW)/9300rpm
最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/7700rpm
トランスミッション:6MT
燃費: 20.5km/リッター(WMTCモード)
価格:152万9000円
カワサキZ900RS SE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×815×1135mm
ホイールベース:1465mm
シート高:820mm
重量:217kg
エンジン:948cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒当たり)
最高出力:116PS(85kW)/9300rpm
最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/7700rpm
トランスミッション:6MT
燃費: 20.5km/リッター(WMTCモード)
価格:183万7000円

佐川 健太郎(ケニー佐川)
モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。
-
ランボルギーニ・レヴエルトSV(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.9.5 ランボルギーニの歴史において「SV」の2文字は特別な意味を持つ。その称号が与えられた、ハイブリッドの最新マシン「レヴエルトSV」の走りやいかに? イタリアのテストコースで試乗した西川 淳がリポートする。 -
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.9.2 BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.9.1 2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
NEW
ブーム再到来はあるか!? 国産ステーションワゴン興亡史(前編)
2026.9.7デイリーコラムかつて日本でも一世を風靡(ふうび)したステーションワゴンだが、すっかりSUVの陰に押しやられてしまい、今ではモデルラインナップもごくわずかだ。ここでは国産ワゴン興亡の歴史を追う。ブーム再到来のきっかけのひとつ(!?)になれば幸いである。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.9.6ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルで、STIで、クルマの走りを磨いてきた辰己英治さんが、3代目となる新型「日産リーフ」に試乗。15年にわたり進化してきた電気自動車の走りは、ミスター・スバルの目にどう映るのか? 日本専用に調律されたという、足まわりの仕上がりに迫る。 -
ランボルギーニ・レヴエルトSV(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.9.5試乗記ランボルギーニの歴史において「SV」の2文字は特別な意味を持つ。その称号が与えられた、ハイブリッドの最新マシン「レヴエルトSV」の走りやいかに? イタリアのテストコースで試乗した西川 淳がリポートする。 -
あの多田哲哉の自動車放談――BMW M235 xDriveグランクーペ編
2026.9.4webCG Movies元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんが、BMWのコンパクトスポーツセダン「2シリーズ グランクーペ」に試乗。そのステアリングを握った印象を動画でリポートします。 -
北米産の800万円級SUV「トヨタ・ハイランダー」「日産ムラーノ」「ホンダ・パスポート」で一番“買い”なのはどれか?
2026.9.4デイリーコラム特例により国内導入されることになった北米生産のジャパニーズSUVは、3車種ともにサイズと価格帯が接近している。では、そのなかで最も“買い”なのは? それぞれの仕様を見比べてみた。 -
ホンダがコンセプトモデル「アキュラ・ネクセラ ビジョン」を発表 次世代デザインを読み解く
2026.9.3デイリーコラム本田技研工業の米国現地法人アメリカン・ホンダモーターが、アキュラブランドの次世代デザインを示すというコンセプトモデル「ネクセラ ビジョン」を初公開した。バタフライドアを採用するこのスポーツカーは、次世代アキュラの何を表現しているのか。















