なぜマツダはいま「ロードスター」に新グレード「PS」を設定するのか?
2026.07.27 デイリーコラムまだまだ売ります!
「マツダ・ロードスター」好きの読者諸兄においては、ロードスターがギネス世界記録を持っていることはきっと常識だろう。2000年に「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」としてギネス世界記録に認定され、今なおそれを更新中。2000年5月には53万1890台だった累計生産台数は、2016年4月には100万台、2023年10月には120万台を突破。押しも押されもせぬロングセラーとなっている。
そんなロードスターが商品改良を実施したのもきっとご存じに違いない(顧客へのデリバリーは2026年9月上旬からを予定)。メニューの中心は車外騒音規制への対応に加えて「レブリミット回転直前まで出力を絞らずに走行できるよう制御を変更」といった“さらなる走行性能の向上”だが、もうひとつ大きなトピックがある。「PS」という新グレードの追加だ。PSとは“ピュアスポーツ”の略なのだとか。なに? その、いかにも好事家をターゲットにしたと思わしきグレード名は。
「なぜいま新グレードが追加されるのか?」というのが本コラムのテーマだが、それは結論からいえばズバリ、ロードスターをもっともっと売っていくためだ。
「新グレードのPSはシリーズ中、最もダイレクトな乗り味を楽しめる仕様です。新しい方向性のPSを追加することで、ロードスターのバリエーションの幅を広げ、より多くのお客さまにロードスターを選んでもらえることを願っています」
マツダ広報部はPSの狙いをそう語る。
マツダによると、そのキャラクターは、かつて設定していた「990S」の真逆で、990Sが柔らかいサスペンションでひらひらと舞うような軽快な乗り味を強調していたのに対し、PSはソリッドな味つけのサスペンションとし、切れ味鋭い走りを目指しているという。
ねらうは「NDの買い替え需要」
具体的な内容も興味深い。PSは、ロードスターのなかでは走行性能を高めた仕様としている「RS」と比べると、同じサスペンション(ショックアブソーバーはビルシュタイン製)を装着しつつもRSだと標準装備となるレカロシートやBOSEオーディオは非装着。いっぽうでRSではオプション扱いとなるブレンボ製のブレーキとRAYS製の鍛造アルミホイール(合計で33万円相当)とRSには設定のない「インシュレーター付きのソフトトップ」を標準装備しつつ、価格は366万3000円と、374万円のRSより安い。なんと絶妙な価格設定だろうか。
PSはひとことでいえば「レカロシートやBOSEオーディオは不要な人に向けた、走りに振ったグレード」というわけだ。RSに比べると、スペック上の車両重量も20㎏軽い。
もちろんPSは、新たにロードスターの世界へ踏み入れる人もターゲットだが、ロードスターからロードスターへ乗り換える人のための新グレードという意味合いも小さくないというのが筆者の見立てだ。その背景にあるのが「NDロードスターからNDロードスターへの買い替えが多く発生している」という現状。ND型と呼ばれる現行型ロードスターのデビューから10年が経過し、ユーザーのなかには“NDからNDへ”と乗り換える人も少なくない。日本においては2025年にND型として年間販売最多を記録したが、乗り換え需要もそれに大きな役割を果たしているのである。
それを後押ししているのは高いリセールバリューや残価設定ローンによる購入の増加。NDからNDへの買い替えにあたっては「これまでと違う新グレード」の存在が大きな説得材料になっている。「今乗っているロードスターと同じグレードしか選べないなら買い替える必要はないけれど、新しい仕様があるなら次はそれにしてみようか」とPSが背中を押すことになるわけだ。
あと5年で何かが起こる?
そしてその時に「RSより安いなら、とっても魅力的じゃないの!」となるのは目に見えている。というわけで、PSはロードスターからロードスターへの買い替えをスムーズに進めるための強力なツールという役割を担っているのだ。もちろん、新規で買うのもぜんぜんアリだけど。
それにしても、ブレンボのブレーキが付いて、レイズの鍛造ホイールも付いて「SレザーパッケージVセレクション」(360万8000円)の5万5000円高というのは安すぎないだろうか? やっぱりPSはコスパに優れた買い得グレードなのだ。
ところで、現行型ロードスターはいつまでつくり続けられるのだろうか。デビューは2015年5月だから、もう10年以上。普通ならフルモデルチェンジがあってもおかしくはない。
かつてはその話題を関係者に振ると「(規制に対応するのが難しくなり)生産できなくなるまで現行型をつくり続ける。引っ張れるだけ引っ張る」として、次は低炭素社会対応のEV化を匂わせる発言をしていた。
しかし近ごろは「(EV化の前に)もう一世代あるかもしれない」と内容が変化。もしかするとすでに次期型の企画がスタートしているかもしれない。
ただし、次期型の登場は決して近くはないだろう。ロードスターは2023年の秋に多額の開発費用をかけて電子プラットフォーム(電子部品やECUなどを統合制御する基盤技術)を刷新する大幅商品改良を受けているが(関連記事)、フルモデルチェンジからそこまでで8年が経過している。これを折り返し地点と考え、現行型へのフルモデルチェンジから16年を迎える2031年ごろが次世代モデル登場の目安となるのではないだろうか(どうやら3年後となる誕生40周年記念はND型で迎えるようだ)。あくまで筆者の予測だが。
「16年は長い」と思うかもしれないが、あの「日産GT-R」だって17年もつくり続けていたじゃないか……。
(文=工藤貴宏/写真=マツダ、webCG/編集=関 顕也)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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