第155回:「反・装飾系男子」が許す唯一のクルマ用品
2010.08.14 マッキナ あらモーダ!第155回:「反・装飾系男子」が許す唯一のクルマ用品
女性に「ひく」瞬間
日本では、携帯電話などにステッカーやラインストーンで装飾を施すカルチャー、いわば「デコ」が相変わらず健在である。いっぽうボクはというと、そのまったく逆で、装飾物を付加することにどうも抵抗がある。
女性が取り出した携帯にハートのパーツやギンギラのステッカーが貼りまくってあったり、けばけばしい携帯ストラップがぶら下がっているのを見た途端、持ち主がどんなに美人であろうとひいてしまう。
もちろん他人がどのような装飾をしようと自由であるし、女性に対して「携帯にシールをベタベタ貼るな!」と説教する勇気など、とうてい持ち合わせていない。
しかしボクの考えはこうだ。携帯メーカーのデザイナーは新製品の材質や質感を日々模索している。そして社内には新しいマテリアルを探す部署があって、デザイナーの希望をかなえるため、日々飛び回っている。
彼らはあるときは精神的に追い詰められながら、またあるときはプロ生命を懸けて仕事をしている。自分の勤めている会社が携帯電話の業務を縮小してしまった際、それでも携帯のデザインをやりたかったため韓国メーカーに移籍してしまった人だっている。
携帯は、そうして作られた汗と涙の結晶なのである。ステッカーを貼ったり、不釣合いな携帯ストラップを下げることはどうもできない。
ただし、「工場出荷状態が命!」と言っているわけではない。画面の保護シールは、買った途端ペロッとはがしてしまう。メーカーが誇る液晶のスペックに敬意を表するためである。
コロコロシート
クルマのシートカバーもボクは苦手だ。交際時代のわが女房が、赤の初代「トヨタ・カローラII」にシートカバーを掛けていたのを見て、真剣に結婚を思いとどまろうかと悩んだほどである。
たとえばメルセデス・ベンツはイタリアの北部コモにデザインスタジオを構えている。コモ周辺は伝統的にテキスタイルの都である。そうした場所にコストをかけてサテライトを開設し、世界各国から集めた精鋭デザイナーたちにシートのマテリアルを精査させているのだ。自動車メーカーがここまで頑張っているのに、シートカバーをかけてしまうのは、どうも納得がいかない。
もちろん、作り手にばかり味方をするわけではない。それを説明するのには、コロコロとした堅い玉を幾重にも連ねたあのシートが適切だ。日本では1970年代をピークに今や絶滅の危機を迎えているが、イタリアではいまだ敷いているドライバーは個人・プロともに意外と多い。若者がチューニングカーに愛用しているときもある。
日本人ドライバーより走行距離が多い彼らに、いまだ愛されているということは、それを装着したほうが快適であるからだ。逆にいえば、いまだ工場出荷状態のシートに不満があるからである。シートのサプライヤーはコロコロシートを侮らず、よく研究したほうがいい。
キティちゃんはあっても
イタリアでボクが複雑な心境になるカーアクセサリーといえば、「折り畳みサンシェード」もある。サイドウィンドウに吸盤でペタッと貼り付けるやつだ。
ある日、女房が「サンシェードが欲しい」と言い出した。ボクは「ウチのクルマにゃ冷房も付いてるし、(恐らく)UVカットガラスだ。そんなに暑いはずない」と最初は思っていた。だが、中部イタリアを拠点とするわが家は、日頃北に向かうことが多い。午前出かけるときも、夕方帰るときも、助手席(右側)に座る女房のほうばかりに日が当たることが判明した。たしかに、まれに南に向かうときは、逆の立場になるボクが暑い。
日本で高価な美白化粧品を購入されるより、サンシェードで済めばそれに越したことはないという考えもあって、ボクは購入を決めた。ところが、イタリアでサンシェードを探すと、意外に「無地」が少ないのだ。詳しくいうと、以前は動物の顔、ここ1、2年は「ディズニー」や、ファッション界のブームに沿うかたちで「ハローキティ」柄が全開である。
あくまでもボク個人の見解に過ぎないが、イタリアでは、食器といい、シーツなどの寝具といい「ひと言多い」ならぬ「ひと柄多い」デザインが多い。
ようやく黒無地のサンシェードを探し当てたのは、なんと国境を越えたフランスだった。それも後日すぐに破れてしまい、さらにトホホであった。
そもそもこうしたサンシェード、経年変化で吸盤が劣化してきて落ちやすくなるうえ、うっかりパワーウィンドウを降ろして巻き込みそうになってしまう。
高級モデルの一部には、側面窓に巻き取り式サンシェードを装備したクルマがあるが、そろそろ普及車種にも考えてほしいと願うのはボクだけだろうか。
それとは別に先日、唯一ほほ笑ましいサンシェードの使用例を発見した。わが家の近所にたたずんでいる初代「フィアット・パンダ」に貼られた、パンダのサンシェードである。「パンダにパンダ」とは。オーナーと会ってみたいと思うのは、ボクだけではなかろう。同時に初代パンダは、こういうチープ系アクセサリーを装着しても違和感ない、数少ない欧州車であることにも気付く。
ヒトのこと言えない
今回は、気の弱さから怒りたくても怒れない大矢アキオには珍しく、いろいろうるさいことを書いたが、参考写真を探していた女房が「人のこと言えるの?」と言いながら1枚の写真をボクに見せつけた。
見れば、ボクの大学生時代の写真である。クルマと一緒に写っているのだが、親のお下がりそのままのヒラヒラレースのシートカバーがバッチリ掛けてある。ボクが着用しているのも当時はやっていたブランド「PERSON'S」のトレーナーである。いやはや。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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