スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)
生活者の味方 2026.08.24 試乗記 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車(BEV)「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。実はすでに出来上がっていた?
2025年のジャパンモビリティショー(JMS)で発表されたスズキのコンセプトカー「Vision e-Sky(ビジョンeスカイ)」(参照)は、「軽自動車を生活の足として愛用されるお客さまの毎日に寄り添うBEV」という主旨で、2026年度中の発売を目指す――とされてきた。もれ伝わる話では、「270km超の航続距離を目指す」など性能指標も聞こえてきたが、スズキのガードは硬く、詳細は分からぬまま淡々と時が過ぎていった。
それからおよそ10カ月。スズキはいよいよ発売へ向けて、その情報を少しずつ公開し始めるようだ。そのティーザー開始(参照)に伴い、われわれメディアにもプロトタイプの取材機会が用意された。
市販車の車名はビジョンの文字と、ついでにハイフンが抜けて「e SKY」に。そのエクステリアはコンセプトカーのイメージに極めて近い。車寸は全長×全幅×全高=3395×1475×1625mmとコンセプトモデルとピタリ同一だ。開発の時間軸的にみても、JMSの時点ではほぼ出来上がっていたのではないか。今から1年くらい前、長期技術戦略の発表の場において、鈴木俊宏社長は軽規格車のグローバル展開について従来以上に前向きな姿勢をみせていた。ちょうどeスカイの仕上がりがみえてきたタイミングと考えると、ちょっと興味深い。
内装はビジョンeスカイのようなポップさは抑えられ、より現実的な造形やマテリアル使いへと変わっている。が、ファブリックの色柄や風合いなどからは軽快さが伝わってくる。コンセプトカーに使われていた大きな2枚の液晶ディスプレイはさすがにトゥーマッチということか、液晶メーターはその半分を7セグデジタルの速度計が占めるシンプルなものとなった。ただし、インフォテインメント側には10.1インチのタッチパネルがおごられるなど、全体の雰囲気はスッカスカという感じではない。エンジニアの方々は頑なに口を割らなかったが、取材と試乗に供された車両は察するにトップグレード。なんならもっと装備等が簡素なグレードも用意されるのではないかというのが、個人的な読みだ。
バッテリーは小さく、走れる距離は長く
駆動用モーターはBluE Nexus(アイシン、デンソー、トヨタ自動車の合弁会社)など、ちょっと近しいところからの調達品かなと思いきや、驚くことに自社開発だという。ヘアピン巻線+永久磁石と機構的に目新しいことがあるわけではないが、サーマルマネジメントの一環で、eアクスルは専用開発したオイルを用いる油冷式というところが新しい。スズキで油冷といえば二輪の技術を思い出すところだが(参照)、パワートレインのエンジニア氏は「いやー。特に関係はないっすね」と苦笑いだ。
ちなみに自社開発の理由を聞けば、やはりというか当然というか、動力源たるモーターの技術を手の内化するためとのことだった。そのモーターのアウトプットは、最高出力が64PS、最大トルクは133N・m。走りのあんばいからしても、軽ターボ相当の動力性能はカバーできているのではないかと思う。
対して出自がぼかされているのがバッテリーで、三元系ではなくLFP(リン酸鉄リチウムイオン)というのは「eビターラ」と同じである。ということは、それと同じくBYD傘下のフィン・ドリーム・バッテリー製かと尋ねてみるも、こちらは調達先は公表していないということだった。
LFPバッテリーは「BYDラッコ」の「Xパック」のように、ケーシング上の工夫はないオーソドックスなパッケージだが、ともあれバッテリーリーン、電気を薄く使いながら同時にロバストネスも高めるために、冷却性能には相当気をつかって開発されたようだ。モーターだけでなく、そこでもさまざまな知見を得ることができたという。
搭載するバッテリーの容量は26kWh。「ホンダN-ONE e:」の29.6kWhより小さく、ラッコの上位グレードの35.84kWhに比べれば7割程度だ。一方で一充電走行距離は310km(スズキ計測による参考値)と、N-ONE e:の295kmを上回り、現時点で軽最長の航続距離となるラッコの上位グレードに対しても10km落ちまで接近している。この核たるスペックに、「小・少・軽・短・美」というスズキの理念をみる思いだ。ちなみに車重はN-ONE e:と同じ1030kg。荷重対応のため、あえて大半の軽よりも10mm幅広なタイヤを履いていることなどに鑑みると、足先の調律に頼るのではなく、パワーユニットや電力伝達系での使用電力の低減に、回生ブレーキの効率向上と、ちまちま積み上げて航続距離を稼ぎ出しているのだろう。それらの工夫は今後、商品像がクリアになるにつれて明らかになってくるはずだ。
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再評価されてほしいヒンジドアの美点
このバッテリーを床下に敷くために、eスカイのパッケージは全高が高めにとられている。具体的には「アルト」より100mm高く、「ワゴンR」より25mm低い。これによりヒップポイントの設定幅が稼げていることもあってか、着座姿勢にBEVだからという違和感はない。後席もレッグスペースは十分。前席の下には大足でもつま先をなんとか入れられるくらいのスペースがあり、ヒザ裏が持ち上がる体育座り的な姿勢を強いられることもなかった。
リアドアはヒンジ式だが、当然ながら乗降になんの支障もない。なにがなんでもスライドドアというユーザーにはハナから相手にされないだろうが、そのおかげで重量も軽く、小さなバッテリーでしっかり航続距離を稼げている。そういう合理性の面からヒンジドアが見直される日は来ないものだろうか。
それにヒンジドアは、やはり上屋の剛性がスライドドアとは大きく異なる。それが動的質感の側にも好作用を及ぼしている……というのを、今回のクローズドコースでの試乗で体感できた。ガンガン追い込んでいくような走りの楽しさはでN-ONE e:に軍配が上がるが、そういうこと以前に「軽は生活の足である」というスズキの理念を踏まえれば、eスカイは十分合格点に達している。……というより、パワーの伝えやすさや静粛性、乗り心地や運動性能といった点で、他のスズキの軽とは明らかに一線を画していた。
小さな車体に秘めた可能性
バッテリーを床下に置いて四方をカチッと固めるというクルマづくりが、例外なく動的質感に有利に働く。なんならクラスを超えた価値をもたらしてしまう。そこに、従来の評価軸を置き去りにしてしまうBEVの怖さがある。
この性能を軽自動車の需要だけに留まらせるのはもったいないと考えるのは、どこも同じだろう。だからホンダは「スーパーONE」の欧州投入を決めたし、スズキもこのeスカイを英国に輸出するのではという報道がある。BEV化による伸びしろと、トラフィックの低速化が進む先進国の事情に鑑みれば、動力性能がネックとされてきた日本の軽にも、勝機があるのではないか。もしこの挑戦が現実化するなら、その顛末は他のメーカーにとっても非常に興味深いものとなるだろう。
その大きな鍵を握るのが価格だ。試乗車は最上級グレードと仮定し、よりシンプルで安いトリムもあるとして、補助金うんぬんを織り込んで乗り出し150万円くらいの仕様があると、スズキの本気度を感じてもらえるのではないか。営業担当の方に価格イメージを問われてそうカマしてみたら、苦笑はしていたものの、愕然とはしていなかった。バッテリーも調達品ゆえコスト的な難しさはあるだろうが、初代アルトばりとはいわずとも、それに準ずるミラクルはあり得るのだろうか。ちょっと期待して次なる詳報を待とうと思う。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
スズキeスカイ プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1625mm
ホイールベース:2460mm
車重:1030kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)
最大トルク:133N・m(13.6kgf・m)
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップeエナセーブ)
一充電走行距離:310km(スズキ計測による参考値)
交流電力量消費率:97Wh/km(スズキ計測による参考値)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--
テスト開始時の走行距離:363km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--Wh/km
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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