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第154回:フランス高速でもらえる「お楽しみ袋」の中身は?

2010.08.07 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第154回:フランス高速でもらえる「お楽しみ袋」の中身は?

「夏の流出」始まる

いよいよ8月である。イタリアやフランスの、とくに製造業では、これから8月下旬まで夏休みに入る会社が多い。そうしたこともあって、先週7月30日から8月1日の週末は、1年のうち最大の行楽ラッシュとなった。

イタリアでこの時期の移動は、「エソド・エスティーヴォ」という。Esodoとは流出、estivoとは夏のことである。直訳すれば、「夏の流出」といったところだ。
あるデータによれば、イタリアではこの週末に1300万人が旅立ったという。彼らの移動手段は、列車25%、飛行機5%に対して、自動車は65%という。圧倒的にクルマ利用が多い状況は今年も変わらない。
かわってフランスでは、この時期の大移動を「シャッセー・クロワゼー」と呼ぶ。本来は「交換」を意味する言葉だ。こちらでも列車160万人、飛行機90万人に対して、自動車利用は500万人と圧倒的だ。8月1日午前には全国の道路渋滞の総延長が約100kmに達した。

あるサービスエリアの食堂では、通常の5倍の量を用意して対応したという。ラジオ局も特番に切り替えた。たとえば民間FM局のひとつ『RMC』は31日、毎週土曜日朝恒例のガーデニング相談を、ヴァカンス向け特番に切り替え、交通情報や各地のビーチの様子を延々と流していた。そうしたことにちなんで、今回はイタリアやフランスのオートルートで見かける事象あれこれをお届けする。

フランス・オートルートの料金所で2010年7月19日撮影。収受員のいるところばかりに列ができる。
フランス・オートルートの料金所で2010年7月19日撮影。収受員のいるところばかりに列ができる。 拡大

使えない料金所、燃えるトラック

先々週、ボクはフランス中部のオートルートを走る機会があった。料金所ではこの季節、日頃に増して「収受員のいる料金所」に列ができる。クレジットカード用の自動精算機があるのにもかかわらず、そこに並ぶドライバーは少ないのだ。
その背景には欧州でのカード普及率がアメリカなどより低いことがある。と同時に、精算機が通行券やカードをうまく認識してくれないことも、人々が不信を抱く原因だ。だからたとえ収受員がクソ暑いなか疲れていて愛想が悪くても、結局は「人力」のほうが速いと考えるドライバーが多いのである。これはイタリアでも同じだ。

またイタリアでは幹線の高速であっても山岳区間が多いため、夏はエンジンに負荷を掛けすぎた大型トラックが炎上してしまうことがよくある。この時期、ラジオの交通情報では毎日のように伝えられるほか、ボクもイタリアに住んでから3回ほど目撃している。そのたび渋滞が起きるのは、いうまでもない。

イタリアのアウトストラーダでもカードの列はガラガラ。
イタリアのアウトストラーダでもカードの列はガラガラ。 拡大
アウトストラーダでエンジンから火を噴いてしまった大型トラック。
アウトストラーダでエンジンから火を噴いてしまった大型トラック。 拡大

読めない表示板、犬の休憩所

いっぽう、役にたつのかたたないのかわからない設備もある。
まずひとつめは夏限定ではなく常設なのだが「ガソリン価格表示版」だ。もともとフランスが先鞭(せんべん)をつけたもので、次のサービスエリアのスタンドにおけるハイオク/レギュラー/ディーゼル/LPGの価格が路肩に表示されているのである。

ボクは「どのドライバーも、必要とあらば少々値段が高くても給油するだろうから、あまり値段を書かれてもありがたくないのでは?」と思う。
イタリアのアウトストラーダでも数年前から設置が始まった同様の表示板は、さらに理解に苦しむ。最寄りから100km近く先のスタンド4カ所のガソリン/ディーゼルの燃料価格がズラーッと表示されているのである。
スピードを出さないボクでも、表示されている数字があまりに多すぎて、いまだきちんと読めたためしがない。ご丁寧にガソリン/ディーゼルとも、最安のスタンドに緑のランプが点灯しているのだが、それさえ通過中一瞬で判断するのはかなり難しい。

「一般道のスタンドとあまり変わらぬ価格で提供しているのだから、ガス欠にならないようちゃんと給油せよ」というサインともとれるが、とにかくまともに判読できる代物ではない。
隣に座っている女房が判読に役にたつかと思えば「ウチのクルマ、ディーゼルだよねえ?」と初歩的なことを確認したりする。その間に、表示板はバックミラーの後方にすっ飛んでゆく。

もうひとつは、イタリアのアウトストラーダのサービスエリアに、数年前から毎年出現するようになった「犬の休憩所」である。
飼い主が食事などをしている間、犬をはじめとする動物を一時的に入れておくロッカーである。水飲み場が設置されていることも多い。
これは、炎天下の車内放置を避けるためだけではない。イタリアは夏休みが長いため、旅行の途中でペットを捨ててしまう飼い主が多い。そうした不心得な飼い主はサービスエリアでペットを置き去りにする場合がよくある。そのため動物が道路上に飛び出し、それを避けようとしたクルマが事故を起こしてしまうことが毎年問題となる。

「犬の休憩所」は、少しでもドライバーが動物とより快適に夏休みを過ごせるようにと考えられた企画なのである。しかし、ロッカー内置き去り防止のために、レストランで身分証明書を見せて、申込み用紙に記入してロッカーのカギをもらい、犬を連れてカギをかけに行くという手順を踏まなければならない。その面倒くささからか、使っている人をボク自身は目撃したことがない。
フランスもイタリアも、もはや高速道路や施設は多くが民営化されているものの、いまだこういう何だかわからん設備に投資してしまう癖は変わっていない。

オートルートの路肩にある燃料価格可変表示板。2010年7月17日撮影。
オートルートの路肩にある燃料価格可変表示板。2010年7月17日撮影。 拡大
イタリアの燃料価格可変表示板。(資料映像)
イタリアの燃料価格可変表示板。(資料映像) 拡大
アウトストラーダの「犬の休憩所」。
アウトストラーダの「犬の休憩所」。 拡大

うれしいお楽しみ袋

困ったことばかりを書き連ねたが、「へえー」と感心することもある。フランスのオートルートにおける「お楽しみ袋」である。

先日、オートルートを走った時、通行券発券機のそばに人影が見えるので、「おいおい、ゲートが壊れでもしたのかよ」と一瞬ビビった。ところが実際はそうでなかった。その人影はお姉さんで、通行券を取る前に、何やらビニール袋を渡している。ボクももらうことができた。
次のパーキングエリアで、さっくゴソゴソと中身を確認すると、以下のものが入っていた。

・ミネラルウォーター「ボルヴィック」
・「ヴァンシ・オートルート」社提供の冊子「ミッキー(マウス)ジャーナル」
・「ヴァンシ・オートルート」社提供のテレペアージュ(フランス版ETC)のカタログ
・周辺の陶芸展覧会ご案内
・ラッフィングカウ(笑う牛)チーズの全国イベント告知
・ミネラルウォーター「ボルヴィック」の割引券計3枚

ヴァンシ・オートルート社とは、2005年にフランス政府が所有していた南部高速道路会社を民営化するにあたり、それを取得した企業である。冊子は52ページで漫画、故障時の対処、ゲーム、動物、クイズなどが載っている。移動中の子供を飽きさせないネタと、実用ネタ両方を載せているというわけだ。

また、テレペアージュのカタログは、料金所渋滞で参っている人たちには、それなりに効き目があるかも。
日本でも知られているラッフィングカウ(笑う牛)チーズの全国イベント告知は、「笑う牛体操」の振り付け解説付き。

ミネラルウォーターの配給は、実は以前にもあった。イタリアなどで大渋滞のシーズンに、路上に出動した災害救助隊が無料で配ったのだ。
しかしこの袋の場合、広告と乗員の水分補給を兼ねた、一挙両得である。ノンストップのETCがここまで普及した日本でどうするかは不明だが、まともに読んでもらえぬ交通安全運動のチラシを配るよりも頭が良い、参考にすべきアイデアだと思う。

ちなみにボクにとっては、水だけではなくそのペットボトルもありがたかった。330ミリリッターのボトルは背が低く、クルマのカップホルダーに入れてもたいして邪魔にならないのである。
しかし、このサイズのボトルはボクが住むイタリアではほとんど普及していない。極東の日本でも販売されているというのに、である。
そもそもイタリアのミネラルウォーターのボトルは、たとえ有名ブランドでも材質が悪くてペコペコだ。運転中不意に勢いよく握ると、へこんで水を車内に散乱させてしまったりする。

そんなわけで、ボクはそのボルヴィックのボトルを飲み終わったあと、イタリアまで持って帰り、中身を詰め替えて何度も使うことにした。
「なんてエコなオレなんだ」と自分に感心したボクは、ついでに帰路でもう1袋もらおうと期待したが、例のお姉さんは立っていなかった。フランスの柳の下にも2匹目のドジョウはなかなかいないようだ。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

オートルート「お楽しみ袋」の中身。
オートルート「お楽しみ袋」の中身。 拡大
スイス国境に近いアウトストラーダの休憩所で。
スイス国境に近いアウトストラーダの休憩所で。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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