MINI E(FF)【試乗速報】
EVの新たな可能性 2010.07.02 試乗記 MINI E(FF)BMWが将来のEV市販化にむけ、データ収集用につくった「MINI E」に試乗することができた。短時間の試乗ながら、リポーターは、これまでのどのEVとも異なる強烈な個性に、新たな可能性を見たという。
まだ売らない
ハイブリッドあり、EVあり、燃料電池あり、もちろんこれまでどおり内燃機関のブラッシュアップも続けてゆく、と、BMWの環境対応ソリューションは全方位だ。サッカーでいえば、ツートップどころか、スリートップ、フォートップの体制だ。重いフルサイズセダンを電気モーターだけで走らせるのは無理がある。近所の買い物にしか使わないシティコミューターを、高価な水素発電の燃料電池車にするのは無駄である。次世代自動車の可能性を複眼的に探ってゆく。しかも、「いろいろやってます」ということをオープンに広報するのがBMWの姿勢である。
「MINI E」は、そんな技術主導メーカーの広告塔EV編だ。500台が生産され、アメリカではすでに1年半前から450台がユーザーの下で実証実験に供されている。といっても、このカタチで市販化される計画はない。航続距離はどれくらいが適正か、求められる動力性能はどの程度か、たとえばそういったEVの「使われ方」をリサーチするための実用プロトタイプである。ボランタリーな450人にタダで貸しているわけではなく、月850ドルのリース料を頂いているのも、マイカーとしてちゃんと使ってもらうための方策だという。
その米国仕様「MINI E」にお台場で試乗することができた。いわば"習作"だから、スペックにこだわるのは意味がないが、サラッと紹介しておこう。
エンジンに取って代わったのは、150kW(204ps)というハイパワーを発する電気モーター。変速機はなく、シングルステージのヘリカルギヤで減速した動力を前輪に伝える。リアシートを完全につぶして(つまり2人乗り)搭載したリチウムイオン電池は、重さ260kg。内燃機関のクルマでいえば燃料タンク容量にあたるバッテリーの総電力量も35kWhと大きい。ちなみに、「三菱i-MiEV」は、16kWhの電池で47kW(64ps)のモーターを動かす。
未知の世界
試乗といっても、与えられた枠は1時間。味わえたのは、ほんの一部分だけだが、その結論を言うと、たいへんおもしろかった。今まで経験したEVのなかでも、最もファン・トゥ・ドライブだった。なにしろパワフルである。トルクステア(急加速時にハンドルが片側にとられる現象)が強いので、慣熟走行用のクローズドコースが出発前に用意されていたくらいである。
とくに印象的だったのは、モーターならではの強大な低速トルクで、徐行しているような微速で、ハンドルをきったまま不用意にアクセルを踏むと、トラクション・コントロールが効くまでの数瞬、前輪がシュワッと音を立ててホイールスピンする。あんな微速領域で、しかもあの程度のわずかなアクセル開度で瞬時にタイヤのグリップを失わせる大トルクは、どんなハイパワーFF車でも経験したことがない。最高速は152km/hに規制されるが、0-100km/h加速は8.5秒。「MINIクーパー」より速い。
さらに、これまで乗ったどのEVにもなかった特性は、回生ブレーキの強力さである。アクセルペダルを戻すだけで、最大0.3Gの減速Gが発生するので要注意と、事前に説明は受けていたが、実際味わってみると、最初、思わず笑ってしまったほどアクセルオフ時の減速力が強い。その減速Gだけで酔う。あわててアクセルを踏めば、加速Gもまた強力だ。そのため、併走撮影でカメラカーとペースをシンクロさせて走るのがホネだった。普通のAT車の「L」レンジでずっと走っているのをもっと極端にした感じ、と想像してもらえば近いかもしれない。
EVでもゴーカート的
これまでのリサーチでは、市街地なら75%はフットブレーキに頼らず、この回生制動だけでブレーキングがこと足りるという。言うまでもなく、少しでも航続距離を伸ばそうというチューニングで、カタログ値では240kmをうたっている。快適なドライバビリティを考えると、なんぼなんでもやり過ぎだと思うが、そうした意見を広く集めるのが「MINI E」の使命である。
市販EVに早速とり入れてもらいたい点もあった。バッテリー残量は0から100%までのパーセンテージで出る。16コマで表す「三菱i-MiEV」よりずっと正確で親切だ。満充電でスタートしてお台場周辺を1時間走ったら、電池残量は89%になっていた。アメリカでは専用の給電ボックスがユーザーのガレージに設置され、空の状態から2時間半で満充電にできる。ただ、230Vで最大50Aの電気が流れるから、日本で使える一般家庭はごく限られるだろう。
でも、「MINI E」がみせてくれたのは、EVの可能性である。EVが退屈だ、なんて思ったら大間違いだ。EVのファン・トゥ・ドライブは前途洋々である。ゴーカートにたとえられるギュッとした足まわりが、ハイパワーモーターの鮮烈な加速感に"合っている"のも発見だった。「MINI」はEVに向いているのである。
(文=下野康史/写真=荒川正幸)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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