BMW X1 xDrive25i(4WD/6AT)【試乗記】
革命の予感 2010.06.16 試乗記 BMW X1 xDrive25i(4WD/6AT)……585万5000円
BMWのSUVファミリーに、もっとも小さなニューモデル「X1」が登場。その走りは? 乗り心地は? 3リッター直6を積む4WDモデルで試した。
SUVでも立駐オーケー
「BMW X1」は、後輪駆動の「sDrive18i」(エンジンは2リッター)で363万円……と、けっこう衝撃的な戦略価格で話題である。「3シリーズ」より全長は短いが、ホイールベースは同じで、エクステリア/インテリアともに少なくとも「1シリーズ」よりは高級に見える。SUVとしてはボディが異例に低いが、一般のセダン/ステーションワゴンよりは背高で、着座姿勢や室内空間、視界性能は前後シートとも3シリーズより健康的である。これでコンパクトハッチの「120i」とほぼ同じ値段(正確には1万円安い!)、「320iツーリング」より100万円以上安いんだから、まあ商品力は強烈だ。
ただし、ここでの主題は同じ「X1」でも上級モデルの「xDrive25i」のほうである。BMW伝統の直列6気筒を積んで、電子制御油圧多板クラッチで随時フロントへ駆動配分制御する4WDシステムを持つ。車名は“25i”だが、こっちの排気量は正確には2996cc、つまりは3リッター。車名の数字が単純に排気量を示さない、エンジンチューンに応じて微妙に変わる命名法はBMWではけっこう昔から採られてきたが、エコ技術が進んできた昨今では車名と実排気量のズレが著しい。細かく追っかけてもその命名ロジックはすぐに変わるので、ハッキリいってよく分からない。エンジン排気量ではなく、性能に応じて“従来の○リッター相当の性能”ということなのだろうが、排気量によって規則的に自動車税額も変わる日本では、いわゆる車格をちょっとイメージしにくいのは否めない。
それはともかく、「X1」はSUV(BMW流にいえばSAV)とはいっても、全高は日本の立体駐車場対応の1545mmしかない。セダンでもハッチバックでも全高1.5m超えはめずらしくない昨今では、「X1」のディメンションはもはや明確なユーティリティモデルとはいえないものだ。また、今回の取材車が履いていた225/50R17サイズの「ピレリ・チントゥラートP7」は、サイズも銘柄も完全な高級乗用車タイヤであり、足元にもSUVっぽさが完全になくなっている。
「sDrive18i」より重厚
こうなると、ハードウェアにおける「X1」と「3シリーズツーリング」の機能的な違いは、「ツーリング(=ステーションワゴン)」が低く伸びやかなリアオーバーハングを持つのに対して、「X1」は対照的にリアオーバーハングが短く、かわりにリアのマスを大きくすることによって大きな空間を得ていることくらいである。そりゃ厳密にいえば「X1」のほうが10cmほど背高だが、かわりにオーバーハングは短く、ウエイトが特別に重いわけでもない。「X1」のボディサイズやプロポーションはもはや、ダイナミクスの点で性能に大きなデメリットとなるほどではなくなった。
実際、「X1」はドライバーズシートに乗っているかぎり、SUVというか高重心グルマを無理に抑え込んで走るようなフィーリングは皆無である。目隠ししてドライバーズシートに座らせられてから「これが新しい3シリーズツーリングです」と言われれば、なんら違和感なく納得させられるだろう。
ヒラヒラと軽快な「sDrive18i」に対して、同じ「X1」でもエンジンも駆動システムも異なる「xDrive25i」は、ズシリと重厚で地に足ついた感が濃厚だ。「3シリーズ」や「5シリーズ」より遮音対策が省かれているのか、高回転でのツブのそろったハイノートは、エンスーきわまりない響きと音量で耳を楽しませる。それにしても、最初は驚くほどズシリと重いパワステは、これがあくまで「1シリーズの派生型」であるという商品企画の演出だろう。「1シリーズ」は明らかに重いパワステで「ただの廉価モデルではない」という主張をしているのだ。
「xDrive」なのがミソ
BMWといえば後輪駆動……というイメージが強いが、同社の4WDシステムは実のところ、かなり高度なデキである。こういう普通のセダンやステーションワゴンに近いボディで味わうと、その優秀さを純粋に味わえて楽しい。冒頭にも書いたように、BMWの最新4WDシステムはセンターデフを持たない。油圧多板クラッチを電子制御して、FRをベースにリアルタイムで適切にフロントにも駆動配分する。つまり、ポルシェのPTMや「日産GT-R」のアテーサE-TSと基本的に同タイプと考えていい。
「xDrive25i」はどこでも矢のように直進して、曲がるのもイージーそのもので、速い。そして踏める。後輪駆動の「sDrive18i」でも直進性には文句ないし、もちろん不安定というわけではないが、ダイレクトに比較すれば明らかに次元がちがうのだ。よほど駆動力配分がうまいのか、直進安定性と回頭性のバランスはドンピシャで、乱暴に扱っても俊敏に曲がるだけでなく、安定感も見事に失わない。現行「3シリーズ(E90)」系のシャシーはステアリングレスポンスが鋭すぎて、路面状況によっては少し扱いにくいケースもある。しかし、フロントに絶妙な鈍さとけん引力を与えるxDriveがつくと、路面からの影響も受けにくく、余計な微調整ステアもはっきりと減少するから結果的に乗り心地の印象もいい。
繰り返しになるが、「X1」といえばやはり363万円の衝撃が大きい。それがこの「xDrive25i」だといきなり100万円以上のアップとなる。グレードごとの価格差が甚大なのは、BMWにかぎらず、(日本における)輸入車ビジネスのあまり好ましくない慣習だ。しかし、その480万円という価格をあらためて考えると、4気筒で後輪駆動の「320iツーリング」(465万円)とほとんど変わらないことに驚かされる。内外装の仕立ては確かに「3シリーズ」のほうが高級だが、「X1」が大きく引けを取るわけでもなく、ちょい背高なボディを利した室内レイアウトはより健康的で、絶対的な走行性能はいうまでもなく、「X1」の「xDrive25i」の圧勝だ。
「X1」はこれまでのBMWヒエラルキーをぶち壊す革命的な商品だ。これが新しいBMWスタンダードだとするならば、次期「3シリーズ」のクルマづくりは大きく変わるのかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。