第143回:イタリアの夜明けは近いぜよ! 空港駐車場に新たな波
2010.05.22 マッキナ あらモーダ!第143回:イタリアの夜明けは近いぜよ! 空港駐車場に新たな波
ベスプッチ空港、ガリレオ空港
2010年4月、日本航空(JAL)は、年内にもミラノおよびローマ便から撤退することを決定した。すでに全日本空輸(ANA)はイタリアから早々と撤退しているから、残る直行便は、あのイタリア系航空会社だけになってしまう。
まあ、ボクはあまり関係ない。というのは、筆者が住むシエナは、ミラノやローマから遠い。したがって日本に飛ぶ場合は、同じ州内のフィレンツェかピサから乗り、パリやフランクフルトで乗り継いでいる。
ちなみにフィレンツェの空港は、同地出身でアメリカの語源となった探険家にちなんで「アメリゴ・ベスプッチ空港」、ピサの空港は同地の大学教授として地動説を唱えた人物にかけて「ガリレオ・ガリレイ空港」と名付けられている。日本も、高知龍馬空港だけにとどまらず、もっと気楽に人名を付けたら楽しいのにと思うのだが、いかがだろうか。
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イタリア空港駐車場の問題
それはともかく、フィレンツェしかりピサしかり、「ローマやミラノより近い」といっても隣町というわけではない。フィレンツェ空港まで約70km、ピサ空港まで150kmある。参考までに東京都心−成田は60km。さらに公共交通機関のアクセスも良いとはいえない。
そこで空港まではクルマとなるわけだが、空港の公共駐車場がこれまた問題だ。たとえばピサの場合、4カ所あるうち年間営業しているのは3カ所。収容台数は合計1850台に過ぎないから、夏のシーズンなどはすぐ満車になってしまう。ただでさえ早めに行かなくてはならない空港に、さらに前倒しで行く必要がある。
最近はインターネットでリアルタイム混雑情況がわかるようになったが、今この原稿を書いている時点で、長期間用駐車場は満車の赤マークが点灯している。
料金もけっして安くない。ターミナルにいちばん近い第1駐車場に1週間置いておくと、92ユーロ(約1万1000円)である。流行の格安エアラインを使ったうえ、旅行中涙ぐましい努力で節約しても、意味をなさなくなってしまう。
ちなみにピサだけでなく、イタリアにおける空港駐車場の高額ぶりは、たびたび問題になる。2008年に消費者団体「アルトロコンスーモ」が発表した調査結果によれば、ナポリの空港駐車場に1週間置くと196ユーロ(約2万3000円)に達するという。
かといって、空港周辺の路上に駐車するのは、車上荒らしや車両盗難をするやからにネタを提供するようなもの。帰ってきて、自分のクルマが壊されていたり、なくなっていることを想像するだけでも惨めだ。
あるとき、空港の近くに住んでいるイタリア人の知人を思い出し、家にクルマを置かせてもらうことにした。「そりゃラッキーだね」と思うのは早計だ。
当日行ってみると、先方がボクの出発日をすっかり忘れていて出かけてしまっていたのだ。これには参った。彼らの家族に空港までの送迎をお願いしたり、こちらもタダで止めさせてもらっている手前、お土産を考えたり……という気苦労も尽きなかった。
そればかりか、夜、空港に着いて彼らの家に赴くと、「晩メシ食べてけ」ということになってしまったこともある。もちろん相手は善意なのだが、彼らの夕食は長い。出張後で疲労困憊(こんぱい)していても、そうそう無愛想にはできない。預けたクルマのキーは引き出しに仕舞われたまま。滅茶苦茶辛かった。
だから日本に帰った時、成田周辺に林立する「1日500円!」の看板を目にするたび、「こういう民間駐車場が、イタリアにもあればいいのに」と羨望(せんぼう)のまなざしを送っていた。
祝! 民間駐車場続々開業
幸いなことにここ数年、「イタリアの夜明け」ともいえる現象が起きつつある。イタリア各地の空港周辺に、民間駐車場がぽつぽつとでき始めたのだ。
その代表的なものが「パーク・トゥ・フライ」だ。1998年に北部から空港パーキングのチェーン展開を開始。現在イタリア国内の9つの空港に10カ所ある。成田の民間駐車場のような、空港ターミナルまで自分のクルマを持ってきてくれるサービスこそないが、ウェブ予約可能でマイクロバスで送迎してくれる。
料金は、ピサ空港で1週間56ユーロ(約6700円)だ。成田より高いが、前述の公共駐車場より約4300円も安い。駐車場探しでヒヤヒヤする必要がないのは心理的にもよい。
もちろん過剰に神経質な日本人の目で見れば、送迎用の「フォード・トランジット」がボロかったり、スーツケースの載せ方が悪くてカーブを走行中にドッカーン! と倒れたりと、気になるところはいろいろある。
しかし空港駐車場を、それも専業でチェーン展開して、均一のサービスを提供しようという「パーク・トゥ・フライ」のアイディアは画期的だ。
今年に入ってからは、イタリア初の業界団体も結成。他の民間駐車場の先頭に立った。そういえば、昨年はフィアットとともに「フライ&フィット」というサービスを一部の空港営業所で導入した。
旅行中の顧客のフィアット車を整備工場に持っていき、定期点検や簡単な整備をしておくものである。オイル/バッテリー交換、エアコンのガスチャージ、ブレーキパッド/ショックアブソーバー交換、ワイパー交換などを有料でしてくれるのだ。
後発ならではの鋭いアイデア。イタリアのサービスはいつも日本の後発だゼなどといって侮っていたが、日光猿軍団の次郎になって反省したボクである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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