メルセデス・ベンツE350ブルーテック ステーションワゴン アバンギャルド(FR/7AT)【ブリーフテスト】
メルセデス・ベンツE350ブルーテック ステーションワゴン アバンギャルド(FR/7AT) 2010.05.18 試乗記 ……934.0万円総合評価……★★★★
メルセデスのラインナップに加わった「ブルーテック」を名乗るディーゼルモデル。ディーゼルゆえの、気になる部分はあるのか? そして、気になる燃費は?
守りの堅い“鉄壁モデル”
ディーゼル車……と耳にして、いまだ「うるさく、遅く、振動が大きい」とイメージを持つ人は、日本では決して少なくないように思う。なんとなれば、かつてこの国に存在したディーゼル乗用車には、「まさにそのとおり」と前言を肯定しなければならない代物が少なくなかったからだ。軽油に対する課税額の低さをベースに、ガソリン車よりも燃料代が少ない事だけを生命線と考えたかつての日本のディーゼル乗用車は、たしかに動力性能にも快適性にも見るべきところのないモデルが多かった。加えて、排ガスがダーティとの説明が重なれば、その人気が衰退するのも自明であったわけだ。
一方で、だからこそそうしたイメージを抱いたままの人が、ひとたび触れてみれば仰天するに違いないというのが、この「メルセデス・ベンツE350ブルーテック ステーションワゴン」の実力だ。日常シーンでの加速の力強さは多くのガソリン車に後塵(こうじん)を浴びせるほどだし、ごく低いエンジン回転数でこなしてしまうクルージング時の静粛性も、今やガソリン車に全く遜色(そんしょく)のないもの。そんなパワーパックを、徹底してファンクショナルなパッケージングを持つボディと組み合わせたこのモデルは、だからある意味、世界のステーションワゴンの中にあっても“鉄壁モデル”の最右翼、と言えるものかもしれない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
メルセデスの中核モデル「Eクラス」の現行型は、2009年にまずフルモデルチェンジを果たしたセダンが日本上陸。その後、「クーペ」に続いて2010年2月に追加されたのが「ステーションワゴン」である。セダンよりリアオーバーハングを120mm延長することで、大きなラゲッジルームが確保された。また、リアにセルフレベリング機構付きのエアサスペンションを採用。荷物を満載したときなどにも、車高を維持する。
搭載エンジンは、1.8リッター直4、3リッターV6、3.5リッターV6、5.5リッターV8、6.2リッターV8のガソリンエンジンに加えて、ポスト新長期規制をクリアする3リッターディーゼルと、豊富なラインナップ。
(グレード概要)
テスト車の「E350ブルーテック」は、シリーズ中唯一、ディーゼルエンジンを搭載するモデル。燃費は13.4km/リッター(10・15モード)。排ガスに含まれるPM(粒子状物質)を除去するDPF(粒子状物質除去フィルター)を装備するだけでなく、排ガス中に尿素水溶液「アドブルー」を噴射することで、NOx(窒素酸化物)を削減する「ブルーテック」技術が採用される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
レッドゾーン表示が低い回転数から始まるタコメーターに気が付かなければ、目前に広がるのは、もう見慣れた新型Eクラスのダッシュボードの光景。相変わらずダイヤル方式を用いるフロントライトスイッチから「OFF」のポジションが無くなったのは、走行中はランニングライトの自動点灯が常識化しつつある欧米での事情を踏まえた、メルセデス流の安全思想のひとつの表れか。装備は基本的に充実しているが、900万円近いモデルにもかかわらず、電動式のステアリングコラムの調整機構がオプション扱いなのは、ちょっと意外に感じた部分。ベーシックなクルーズコントロールシステムを標準採用するが、高速の長時間クルーズでこそ真価を発揮するのがディーゼルモデル。ここはぜひ、先頃「Sクラス」に設定された、全車速対応の追従機能付きシステムを用意して欲しい。
(前席)……★★★★
見た目は決してゴージャスとはいえないものの、座ってみれば、サイズがたっぷりとられ、長時間の着座でも疲労感が少ない、機能性の高さはやはりたいしたもの。ただし、個人的にはより張りの強さを感じさせる面圧分布を備えた、「E250CGI」もしくは「E300」に採用のファブリックシートの方がより好みではある。ドアトリム上部に設けられたパワーシートスイッチは慣れれば使いやすいが、他車と頻繁に乗り替えるユーザーは、きっと指先がシートサイドへと伸びてしまうはず。各種のカメラやセンサーを内蔵するルームミラーがぶ厚く、それゆえにその鏡面が顔面に接近してしまうのは、ちょっと違和感がある。
(後席)……★★★★
前席に比べれば使用頻度が低くなるからといって、決して手を抜いた形跡が感じられないのが、メルセデス各車の後席の基本的印象。セダンと同じホイールベースの採用で、後席スペースに関してボディ違いによる優劣は存在しない。もっとも、後方からの荷物の飛び込みを防ぐパーテーションネットを使用すると、雰囲気は途端にセダンよりもぐっとビジネスライクとなる事は否めない。後席用のサイド/ウィンドウエアバッグや外側2席用のシートベルトフォースリミッターを標準で装備するのも、メルセデスの「安全」に対する流儀の具体的現れだ。
(荷室)……★★★★★
スペース、仕上がりの質感、使い勝手と、どこをとっても文句の付けようのないのが、このモデルのラゲッジスペース。VDA計測法による最大1910リッターというその容量は、まさに「広大な空間」という表現がふさわしいもの。シートバックが2:1の割合で前倒れする後席アレンジ法は、より多くの容積が稼げる、いわゆる「ダブルフォールディング式」ではないものの、操作が簡単で多くのユーザーにはむしろ歓迎されるはず。後席使用時の容量表示が627リッターと、他の6気筒エンジン車よりも28リッターのマイナスなのは、尿素水溶液タンクを備えるために、フロアボード下のサブトランク容量が削られるためだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
「7Gトロニック」を名乗る7段トルコン式ATと組み合わされた6気筒の3リッターディーゼルエンジンは、ピエゾインジェクター採用のコモンレールシステムや可変ノズル式ターボなど最新テクノロジーの助けを借りて、最高211psという出力を発生。しかし、より注目すべきはE550用の5.5リッターエンジンを10kgmしのぐ55.1kgmという最大トルクを、わずか1600rpmという回転数で絞り出すこと。そんなスペックは実際のドライブフィールとも合致していて、その動力性能はスタートを切った瞬間からすこぶる強力かつスムーズだ。“ディーゼルサウンド”は、アイドリング時こそキャビン内でも明瞭(めいりょう)だが、ボリュームは小さいので決して耳障りではない。さらに、走りはじめて速度が30km/hほどに達すれば、その他の“暗騒音”に紛れて、自らがディーゼル車に乗ることを知るのはもはや困難になる。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
実はこのモデルで最も残念に感じたのがこの項目。なぜならば、そのフットワークの質感が他のグレードに対して、明確に見劣りするからだ。その要因の多くは「メルセデス車で唯一の標準採用」とされるランフラットタイヤ(テスト車両はグッドイヤー製イーグルF1を装着)にあると推測される。尿素水溶液タンクをラゲッジボード下にレイアウトしたため、スペアタイヤの搭載が不可能になったこのグレードでは、代わりにランフラットタイヤを採用。しかし、結果的にそれがメルセデス車特有のフットワークのしなやかさを奪い、路面継ぎ目では不快な突き上げ感も増幅させている感が否めない。別の機会に「E350ブルーテック(セダン)」を試す機会もあったが、実はこちらのモデルのほうが標準タイヤを履くモデルに対しての印象の悪化幅は小さかった。そこはボディの違いによる堅固さの違いということだろう。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2010年4月15日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:4542km
タイヤ:(前)245/45ZR17(後)同じ(いずれも、グッドイヤー イーグルF1)
オプション装備:ナイトビューアシストプラス(25.0万円)/レーンキーピングアシスト(7.5万円)/プラスパッケージ(22.0万円)/本革シート(31.5万円)/キーレスゴー(15.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(5):山岳路(3)
テスト距離:447.2km
使用燃料:40.4リッター
参考燃費:11.1km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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