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メルセデス・ベンツE350ブルーテック ステーションワゴン アバンギャルド(FR/7AT)

“きれいに遊ぶ”クルマ 2013.09.11 試乗記 下野 康史 マイナーチェンジで、デザインのみならず機能も磨き上げたというディーゼル版「Eクラス」。最新型の走りや乗り心地を試した。

注目ジャンルの草分け的存在

いま人気のクリーンディーゼル。その元祖が「メルセデス・ベンツEクラス」のディーゼルである。放射能よりディーゼルの黒煙のほうがキケンだと思っている前東京都知事がススの入ったペットボトルを振りかざして、日本の乗用車市場からディーゼルが消滅しかけたときも、先代(W211)Eクラスが「E320 CDI」でいち早く“希望の灯”をともした。その後の「新長期(平成17年)規制」も、現行の「ポスト新長期(平成22年)規制」も、先陣を切ってクリアした輸入車はEクラスのクリーンディーゼルだった。

そんな“ディーゼルの盟主”が送り込んだ新型「E350ブルーテック」の3リッターV6ターボは、フェイスリフト前の従来モデルよりパワーで41ps、トルクで8.1kgmをさらに上乗せし、一方、燃費は約50%の向上を果たしたという。

NOx(窒素酸化物)対策のソリューションは、ポスト新長期規制をクリアした2010年モデル以来の尿素還元触媒方式を用いる。尿素水溶液(アドブルー)を排気に噴射して、NOxをN2(窒素)とH20(水)に変える。アドブルーが切れると、エンジンはかからなくなるから、軽油やエンジンオイルと同様に欠かせない液体だが、新型はアドブルーの補充に関してトリセツで一切触れなくなった。チェックは点検整備の際にプロがやり、ユーザーさまの手は煩わせませんという方針を徹底したのだろう。

試乗したのはワゴン(833万円)。セダンとともに、グレードはアバンギャルドのみ。ガソリン3.5リッターV6の「E300アバンギャルド」と比べても、ディーゼルは80万円近く高い。現在、クリーンディーゼル輸入車のベストセラーを駆けぬける「BMW 320d」のように、ガソリンモデルとの価格差を詰めて、割安感で売るという色気はないようだ。

ディーゼルの「Eクラス」は、今回のテスト車であるワゴンモデルのほかに、35万円安のセダン(798万円)も用意される。
ディーゼルの「Eクラス」は、今回のテスト車であるワゴンモデルのほかに、35万円安のセダン(798万円)も用意される。 拡大
マイナーチェンジにともない、エアコンの吹き出し口やセンターコンソールのスイッチ類などの意匠が変更されたインテリア。ハンドル位置は右のみとなっている。
マイナーチェンジにともない、エアコンの吹き出し口やセンターコンソールのスイッチ類などの意匠が変更されたインテリア。ハンドル位置は右のみとなっている。 拡大
メーターのデザインもリニューアル。大小5つあったアナログメーターは、3つに集約された。
メーターのデザインもリニューアル。大小5つあったアナログメーターは、3つに集約された。 拡大
ステレオマルチパーパスカメラ(写真)と5つのレーダーセンサーを用いた最新の安全運転支援システム「レーダーセーフティパッケージ」が標準で備わるのも、セリングポイントのひとつ。
ステレオマルチパーパスカメラ(写真)と5つのレーダーセンサーを用いた最新の安全運転支援システム「レーダーセーフティパッケージ」が標準で備わるのも、セリングポイントのひとつ。 拡大
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踏まずして速く、回しても静か

国内外の4気筒クリーンディーゼルより別格に高価なだけあって、E350ブルーテックはパワーもマナーも別格だ。100km/h時のエンジン回転数は7速トップで1500rpm。シフトパドルを引いて、6速で1700rpm、5速で2200rpm、4速で2900rpmまで上げても、キャビンに伝わるエンジン音や振動に変化はない。さすが6気筒とウナらせるスムーズさである。アイドリングストップから“起きた”時も、一瞬、かすかにブルッとするだけで、音は聞こえない。遮音も入念なのだろう。

最高出力は252ps、最大トルクは5リッター級スーパースポーツ並みの63.2kgm。E350ブルーテックは0-100km/h加速を6秒台でこなす高性能車だが、そんな限界性能データを持ち出さなくても、ふだんから速いのがトルクに勝るディーゼルの美点である。

例えば緩急の変化が激しい混んだ町なかで、落ちたスピードを再び取り戻すようなとき、ディーゼルはキックダウンさせなくても、モリモリっとカンタンに回復運転が利く。アクセルをろくに踏まなくても速い。ワゴンボディーの車重は2040kg(車検証記載値)に達するが、軽快な走りからはそんなヘビーウェイトをみじんも感じさせない。
一方、オープンロードに出てスロットルを踏み込めば、めくるめく速さと、もはや官能的と言っていいくらいの気持ちよさが味わえる。くやしいけれど、文句のつけようのないエンジンである。

 
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マイナーチェンジ前に比べ、41psと8.1kgmアウトプットが増大したディーゼルユニット。1600rpmの低回転域から63.2kgmの大トルクを発生する。
マイナーチェンジ前に比べ、41psと8.1kgmアウトプットが増大したディーゼルユニット。1600rpmの低回転域から63.2kgmの大トルクを発生する。 拡大
「AMGスポーツパッケージ」をセレクトしたテスト車には、サイドサポートの大きな「AMGスポーツシート」が備わる。
「AMGスポーツパッケージ」をセレクトしたテスト車には、サイドサポートの大きな「AMGスポーツシート」が備わる。 拡大
最新型と、前年モデルとの最も大きな識別ポイントは、フロント周りのデザイン。片側で2つに分かれていたヘッドランプは、マイナーチェンジで1つに集約された。
最新型と、前年モデルとの最も大きな識別ポイントは、フロント周りのデザイン。片側で2つに分かれていたヘッドランプは、マイナーチェンジで1つに集約された。 拡大

伝統的なよさもある

試乗車は18インチホイールを履く「AMGスポーツパッケージ」付き。アグレッシブな顔つきに変わった新型Eクラスにいっそうの迫力を与えていたが、乗り心地はすばらしく快適だ。新しい「Aクラス」や「Bクラス」に乗ると、「メルセデスの乗り心地にも陰りが出てきたなあ」と思わざるをえないが、このクルマは直系“メルセデス・ライド”である。どんな場合でも、サスペンションが落ち着きを失わず、しなやかに作動する。豊かな乗り心地だ。

今回、それらしい使い方はできなかったが、ワゴン性能の高さはこれまでどおりである。ボディー全長は「BMW 523d」と同じなのに、荷室長は実測で10cm大きい。後席を畳むと、フロアの上だけで173cmの長さがとれる。荷室床の標高が低く、重量物の出し入れがラクにできるのもEクラスワゴンのよき伝統だ。

今回、ワンデイツーリングを主体に約260km走り、満タン法で記録した燃費は11.1km/リッターだった。1リッターの化石燃料で2トンオーバーのスピードワゴンをこれだけ走らせる純粋内燃機関は、やはりディーゼルしかないだろう。
しかも、軽油は無鉛ガソリンよりリッターあたりおよそ20円、ハイオクより30円安い。言うまでもなく、産業用の軽油を一番安価に抑える殖産興業的優遇税制のおかげである。それに乗っかれるのが日本でディーゼル乗用車を選ぶ痛快さといえる。

新しいクリーンディーゼルの多くは、同クラスのガソリン車に比べても我慢するところがまったくなくなった。それどころか、E350ブルーテックはディーゼルの官能性まで感じさせる。イニシャルコストは高いが、ランニングコストは安い。昔の粋な旦那衆が言うところの“きれいに遊ぶ”クルマって、こういうことか。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=峰昌宏)

「AMGスポーツパッケージ」に含まれる、18インチアルミホイール。標準のサイズは17インチとなる。
「AMGスポーツパッケージ」に含まれる、18インチアルミホイール。標準のサイズは17インチとなる。 拡大
荷室の様子。後席を倒すことで、容量を拡大できる。なお、ガソリン車「E350アバンギャルド」に限って、荷室収納型の3列目シート(オプション)を選択することもできる。(写真をクリックすると、シートの倒れるさまが見られます)
荷室の様子。後席を倒すことで、容量を拡大できる。なお、ガソリン車「E350アバンギャルド」に限って、荷室収納型の3列目シート(オプション)を選択することもできる。(写真をクリックすると、シートの倒れるさまが見られます) 拡大
前後席ともに開放感をもたらす「パノラミックスライディングルーフ」は、20万円のオプション。
前後席ともに開放感をもたらす「パノラミックスライディングルーフ」は、20万円のオプション。 拡大
テスト車は本革仕様。これにより、リアシートにもシートヒーターが備わる。
テスト車は本革仕様。これにより、リアシートにもシートヒーターが備わる。 拡大
 
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テスト車のデータ

メルセデス・ベンツE350ブルーテック ステーションワゴン アバンギャルド

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4905×1854×1507mm
ホイールベース:--
車重:--
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:7段AT
最大出力:252ps(185kW)/3600rpm
最大トルク:63.2kgm(620Nm)/1600-2400rpm
タイヤ:(前)245/40R18(後)265/35R18(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト3)
燃費:18.0km/リッター(JC08モード)
価格:833万円/テスト車=911万円
オプション装備:AMGスポーツパッケージ(Mercedes-Benzロゴ付きブレーキキャリパー&ドリルドベンチレーテッドディスク+AMGスタイリングパッケージ<フロントスポイラー/サイド&リアスカート>+18インチ AMG5ツインスポークアルミホイール+ブラックアッシュウッドインテリアトリム+AMGスポーツステアリング+AMGスポーツシート<前席>+ステンレスアクセル&ブレーキペダル<ラバースタッド付き>+AMGフロアマット)(30万円)/パノラミックスライディングルーフ(20万円)/本革シート<前席・後席シートヒーター付き>(28万円)

テスト車の走行距離:4139km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:262.7km
使用燃料:23.6リッター
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/12.2km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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