第141回:新案「ぶしつけ顔」でルックス至上主義カーデサインに渇!
2010.05.08 マッキナ あらモーダ!第141回:新案「ぶしつけ顔」でルックス至上主義カーデサインに渇!
「窓が開かないバス」の明暗
クルマの窓を開けると心地よい季節になったので、今回はウィンドウ、とくにサイドウィンドウのよもやま話をしよう。
ドイツの路線バスで感心するのは、線路上を走っているのかと思うほど時刻が正確なことと合わせて、空調がよく効いていることである。そのため、窓が開かないボディ構造でも、換気が悪くなって不快になることは少ない。
ダイムラー・ベンツ製をはじめ、多くのドイツ製路線バス・観光バスボディが早くも1960年代から閉め切り窓を採用してきたのは、そうした空調の性能に裏付けられたものだろう。
いっぽうイタリアの状況はちょっと違う。こちらでも、過去10年ちょっとで、窓が密閉型のバスが主流となった。デザインはピニンファリーナだったりイタルデザイン-ジウジアーロの作だったりする。
ただし問題は、購入後の整備状況が悪いらしく、冷房がまるで効かない車両が多いことだ。
上部に天地の狭い長方形窓を備えたモデルもあるが、大抵満身の力を込めても開かない。経年変化によるボディのゆがみや、ガイドレールに汚れが堆積して開かなくなるのだろう。東京の幼稚園時代の遠足で乗った平行四辺形窓の観光バスしかり、バスの窓というのはどうもいけない。
たしかに、窓を閉め切りにしたほうが空調効率は上がり、乗客の落下といった不意の事故は防げることはたしかだ。見た目もスタイリッシュになる。しかし、エアコンのメインテナンスが難しい国には、それなりに窓の開くバスをデザイナーはまじめに考えたほうがいい、と常々思っている。
 閉所感が苦手
乗用車のサイドウィンドウにも、いろいろな思い出がある。
まず思い出すのは、ボクが幼稚園児だった1970年代初頭、家にやって来た「フォルクスワーゲン・ビートル」である。
多くの方がご存知のとおり、ビートルの後席サイドウィンドウの窓は開閉できない。後席は当時ボクの指定席であったから、それはショックだった。ましてや、それまで家にあった「モーリス・マイナー」の4ドアは、いくら車両本体がボロくても巻き上げ式ウィンドウが備わっていたから、世の矛盾を感じた。
そもそもボクは2/3ドア車の後席の閉所感がたまらなく苦手だ。女房の実家にいるのと同じくらい、今でも一刻も早く逃げ出したい空間のひとつである。
もし、知人とクルマに分乗することになり「『ベントレー・ブルックランズ』の後席」と、「スバル『営農サンバー』の助手席」が空いていたら、間違いなくボクは後者を選ぶだろう。
おっと、熱くなってしまったので話を戻そう。
そんな幼き日のボクだったが、後年またもや後席窓が開かないクルマが、家族車になりかけた。それも、あろうことか5ドア車でだ。中学生のときで、クルマの名前は「シボレー・サイテーション」である。
サイテーションは、1980年に発売された「Xカー」のシボレー版だ。「Xカー」とはGMが、当時勢力を急拡大していた日本製輸入車に巻き返しを図るべく、鳴り物入りで発表したフロントドライブのコンパクトカーだった。
このクルマのリアドア窓は、はめ殺しだったと記憶している。性能の良いエアコンを装備しているから開閉は不要、そのうえデザイン的にもリアドアに三角窓がないほうがスタイリッシュ、という論理だったに違いない。
なお、その赤いサイテーションをわが家に見せに来たのは、いすゞ販売店だった。当時いすゞはGM系ということで、シボレーの一部車種を扱っていたのである。どうやらよほど売れなかったらしく「半額でいいから」というオファーだったのを覚えている。
「また窓が開かないクルマなんて、シボレー、最低〜っしょ!」などと駄じゃれを考えていたボクだが、幸か不幸かサイテーションはたとえ半額でもわが家におカネがなかったことから商談不成立となり、ガレージに収まらず終わった。
顔を出したいんですけど……
ウィンドウで最近困ってしまうのは、欧州のプレミアムカーで近年流行したのスタイリッシュ系4ドアクーペである。サイドウィンドウの面積が小さいうえ、後にいくにしたがい、その上端がカーブを描いてすぼまる。そのため後席窓に至るあたりでは天地が極端に狭くなり、窓から顔を出せないモデルがあるのである。
そもそもそうした種類のモデルの主役は前席であり、さらに欧州では出発するとき見送る人に窓を下げて挨拶するマナーはないからいいのだ。だが、個人的には窓から頭を出せないと、緊急時における脱出の可能性とかまじめなこと以上に、空気が薄く感じられちゃって、どうもなじめない。
そうしたなか、先日レンタカーで借りた「フォード・フィエスタ」で後席窓から顔を出してみた。このクルマの場合、顔はかろうじて出るが、やはりかなりきつい。
たしかにガラス面積を減らせば、車体を軽量化できるというメリットはあるだろう。また、すべてのクルマを「フィアット・ムルティプラ」のような電車級窓面積にとは言わないが、しかし、前述のプレミアム系ならまだしも、こうしたポピュラーなクルマで、スタイリッシュさを追求するあまり、ここまでガラスの天地を狭くするのは、ユーザーの気持ち的にいかがなものか。
デザイナーの皆さんには、ぜひ考えていただきたい課題である。
と、日頃温厚なボクがいつになく鼻息を荒くしながら書いていたら、原稿に目を通したわが女房が一言、
「あなたの顔が標準よりデカいだけじゃないの?」とつぶやいた。
それを聞いて、「もしくは自動車デザイナーは、みんな小顔なのか」
という想像も一瞬脳裏をよぎった。だがそれよりも、“ぶしつけ棒”ならぬ“ぶしつけ顔”として、これからも自分の顔でウィンドウの開口面積を測り続け、居住性の改善に貢献しようと誓った筆者であった。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=Daimler、VOLKSWAGEN、General Motors)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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