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【スペック】全長×全幅×全高=5135×1900×1455mm/ホイールベース=3030mm/車重=1850kg/駆動方式=FR/5リッター V8DOHC32バルブ(385ps/6500rpm、52.5kgm/3500rpm)/価格=1320.0万円(テスト車=同じ)

ジャガーXJ ポートフォリオ(FR/6AT)【試乗記】

豹変してもジャガー 2010.05.06 試乗記 徳大寺 有恒松本 英雄沼田 亨 ジャガーXJ ポートフォリオ(FR/6AT)
……1320.0万円

見た目がガラリと変わった、ジャガーの新型「XJ」。その走りや乗り心地は、一体どんな仕上がりなのか? 巨匠 徳大寺有恒が試した。
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見た目も画期的に

松本英雄(以下「松」):ジャガーの最高級サルーンである「XJ」ですが、新型は1968年に誕生した初代から先代までの流れを断ち切り、大胆なイメージチェンジを図りました。
徳大寺有恒(以下「徳」):そもそも初代「XJ」は、1961年に登場したマークX(テン)のイメージを受け継いでいた。そこから考えると、ほぼ半世紀ぶりの変貌となるわけだ。
松:ジャガーによれば、制約にとらわれず、白紙からラクシャリーサルーンを再定義したそうです。伝統を尊重する英国生まれの、保守的なユーザーが多いであろう高級ブランドとなれば、これは勇気のいることですよね。
徳:そうだな。好みの問題はさておき、この決断は評価に値すると思う。

松:先代「XJ」は、リベットと接着によるアルミモノコックボディという画期的な手法を導入したものの、見た目は伝統を守っていました。個人的には、これはちょっと残念な気がしていたので、新型は中身にふさわしい衣をようやくまとったようにも思います。
徳:考えてみると、先代はたった6年しか作られてないんだな。「XJ」の歴史では、異例の短さだろう。

松:そうですね。最近では高級サルーンにもエッジの利いた先進的なデザインのモデルが増えてきたので、新型はそれらに対抗する意味合いもあったのではないでしょうか。
徳:6ライト・ウィンドウが特徴的なスタイリングを手がけたのは「XF」と同じく、元アストン・マーティンのイアン・カラムだよな?
松:ええ。6ライトにしてウィンドウ・グラフィクスを後ろ寄りにすると、ノーズをより長く見せる効果があると彼は言ってました。
徳:なるほど。いっぷう変わったテールライトの形状を含めて、ちょっと「シトロエンC6」に通じる雰囲気もあるな。
松:たしかに。でも上から眺めたら、見事にジャガーの形をしてましたよ。リアクォーター付近は微妙な曲線で構成されてますが、アルミでこれを成形するのは高度な技術がある証拠です。先代からの経験が生かされてますね。徳:ほう、そうかい。

松:ところで、この新型に対する巨匠のご意見はどうなんでしょう? かつては初代「XJ」のV12モデルを3台も乗り継ぎ、いまも初代「XK」を所有するジャガーびいきとしては。
徳:僕がジャガーを好きなのは、スタイリングやたたずまいだけじゃない。むしろいちばん好きなのは、そのタッチなんだ。ステアリング、アクセル、ブレーキなど、運転していて直接手足が触れる部分に伝わってくる、女性的といってもいいなんとも繊細なタッチが。だから見た目だけじゃなくて、乗ってからジャガーらしいかどうか評価したいんだ。
松:わかりました。では乗ってみましょう。


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なだらかなルーフラインや涙型のサイドウィンドウが特徴のサイドビュー。「かつてないほどエアロダイナミックなジャガー」というそのボディは、空力性能も自慢だ(空気抵抗を示すCd値は0.29)。
なだらかなルーフラインや涙型のサイドウィンドウが特徴のサイドビュー。「かつてないほどエアロダイナミックなジャガー」というそのボディは、空力性能も自慢だ(空気抵抗を示すCd値は0.29)。
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アルミホイールは、全10種類が用意される。
アルミホイールは、全10種類が用意される。
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新型「XJ」には、写真のNAユニット(385ps)のほかに、スーパーチャージドユニットが2種類(470ps、510ps)、計3種類のV8ユニットが用意される。
新型「XJ」には、写真のNAユニット(385ps)のほかに、スーパーチャージドユニットが2種類(470ps、510ps)、計3種類のV8ユニットが用意される。 拡大
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「しっとり」なのに「しっかり」

徳:ダッシュボードからドアにかけてぐるりと張り巡らされたウッドパネルを見て、昔乗っていた「ローバー2000」を思い出したよ。
松:なんでも高級ボートのキャビンをモチーフにしたそうですよ。
徳:なるほど。デザイン、素材、仕上げともにたしかに高級感があるな。ジャガーとしては、高級すぎるくらいかもしれない(笑)。

松:メーターは一見アナログなんだけど、実際はバーチャルな液晶ディスプレイなんですね。
徳:伝統と最新技術の融合なのだろうが、好きじゃないな。無理にアナログ風に見せることはないと思うのだが。
松:そうですか。最新技術といえば、もちろんアクセルやブレーキも電子制御化されているんですが、フィールが自然ですね。
徳:スロットルペダルを踏むと、スーッと軽やかに動き出すだろ?
松:はい。軽快ながら上品な動きですね。ブレーキもストロークは短めですが、コントロールはしやすいです。

徳:ステアリングはどうだい?
松:しっとりとしていて、それでいて路面のインフォメーションもしっかりと伝えてくれます。
徳:パワーアシストは油圧のままなんだよな。
松:ええ。電動ではまだこの高級感のあるフィールはむずかしいようですね。こうしたジャガー独特のタッチは、遡ればいつごろ生まれたのでしょうか。

徳:初代「XJ」からだと思う。最初に乗ったときに、なんていいクルマなんだろうと感動した憶えがあるから。
松:それ以前の「マーク2」なんかは、けっこうバンカラなクルマですものね。
徳:そう。その初代「XJ」のしなやかな足まわりを俗に「ネコ足」と呼ぶようになったのだが、この新型もすばらしい乗り心地だな。
松:しかもフロントは40、リアは35という扁平率の低いタイヤを履いてこれですからね。

徳:そんなタイヤを履いているとは、にわかには信じがたいほどだよ。
松:コーナリングの際も足まわりの動きはしなやかで、かつロールは少なくフラットライドを保っています。
徳:先代「XJ」は、ハーシュネスを抑えるためにブッシュ類などにゴムを多用しすぎたのか、グニャっとした感じがするのがイヤだった。でも新型はそんなことはないな。
松:アルミボディの剛性がさらに高められたことも、乗り心地に貢献しているのでしょうね。

運転席の様子。ウッドが乗員をぐるりと取り囲むキャビンは、夜間にはブルーの間接照明で彩られる。
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アナログ式に見える3連メーターは、デジタル式。走行モードによって、ごらんの赤などに色を変える。
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高級サルーンの新提案

徳:アルミボディのおかげで、車重は弟分の「XF」より軽いらしいな。
松:ええ。ボディは先代より10%軽量化されたそうで、この試乗車は同じ5リッターの直噴V8を積んだ「XF 5.0ポートフォリオ」より10kg軽い1850kgだそうです。
徳:それでも2トン近くあるわけだが、その重さを感じさせないだろう?
松:まったくですね。全体的に動きが軽やかなんですよ。この独特の感覚は、他社の高級モデルでは決して味わえません。

徳:運転もしやすいよな。
松:はい。ボディは長さがこのショートホイールベース版でも5.1m以上、車幅も1.9mありますが、運転しているとその大きさを感じさせません。すごく取り回しがいいですよ。
徳:それもジャガーの魅力なんだよ。

松:ですよね。アパートの駐車場でときどき顔を合わせる初老の奥さんがいるんですが、なんでも以前は2代目のジャガー「XJ」に乗っていたのだけれど、ご主人の意向で某ドイツ車に替えられてしまったそうなんです。「ジャガーのほうが運転が楽でよかったのに」ってこぼしてましたよ。
徳:わかる、わかる。

松:つまり姿形は変われども、新型にも「XJ」本来の持ち味はしっかり残されているということでしょうか。
徳:うん。タッチから判断すれば、これはまごうかたなきジャガーであり、「XJ」だよ。スタイリングだって、僕は決して悪くないと思う。
松:伝統的なスタイリングをアップデートするのも、もはや限界という感じでしたしね。
徳:そう。いつまでも伝統に縛られていては進化が望めないし、かといってドイツ車的なベクトルに向かってはジャガーの魅力は失われてしまう。その意味において、この新型「XJ」はジャガーの美点を残しつつ、新たな高級サルーン像を提案しているんじゃないかな。

松:変化を受け入れられない既存のユーザーもいるようではありますが。
徳:そういう人たちは、一度考えてみてほしい。ロールス・ロイスとベントレーというツートップのドイツ車濃度が高まってしまったいま、残された純英国産の高級サルーンは、それに次ぐジャガーだけなんだ。そりゃジャガーだってだいぶ前から外国資本になってはいるが、いまだにイギリスで開発・設計され、製造されているということを。

松:最後の純ブリティッシュ・サルーンというわけですね。
徳:英国車好きならけっして無視できない事実であり、無視できないクルマが新型「XJ」だと思うな。

(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=河野敦樹)


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縦に3本の筋が浮かび上がるテールランプは、ネコの爪跡をモチーフにしたという特徴的なデザイン。
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ダイヤル式のドライブセレクターやパーキングスイッチですっきりとまとめられた、新型「XJ」のセンターコンソール。
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松本 英雄

松本 英雄

自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨

沼田 亨

1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。

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