シボレー・カマロSS RS(FR/6AT)【試乗記】
オレンジ色の深いヤツ 2010.04.13 試乗記 シボレー・カマロSS RS(FR/6AT)……535.0万円
派手な外観に大排気量V8を組み合わせた「シボレー・カマロ」は、そのスペックから想像するのとはやや異なる味わいのクルマだった。
日本で買える、三番目に安いV8エンジン
6.2リッターV8を積む「シボレー・カマロSS RS」の試乗前夜、資料にあたりながら頭に浮かんだ言葉は、「お値打ち!」。自分はケチなので、こんなにデカいV8を積んでいながら正札535万円と聞くと、それだけで得した気になってニンマリ。
「こりゃ安い!」と思って、いま日本で買えるV8モデルをざっくりさらってみる。すると、4.6リッターV8の「トヨタ・クラウンマジェスタAタイプ」が610万円、4.5リッターV8搭載の「日産シーマ450XL」が630万円。ドイツ勢は軒並み1000万円オーバーで、4.4リッターV8ツインターボの「BMW550i」が1040万円、5.5リッターV8の「メルセデス・ベンツE550 アバンギャルド」が1080万円、4.2リッターV8の「アウディA8 4.2 FSI クワトロ」が1104万円、同じく「アウディQ7 4.2 FSI クワトロ」が970万円。こうやって並べると4.8リッターV8の「ポルシェ・カイエンS」(6MT)の939万円がお買い得に見えるのは、だまし絵と同じ理屈か。
調べ始めたら止まらなくなってしまったので、もう少しV8調査団にお付き合いください。アメリカ勢に目を移せば、5.7リッターV8の「クライスラー300C 5.7 HEMI」が633万6750円、4.7リッターV8の「ジープ・グランドチェロキーSリミテッド」が586万9500円。調査のためにイギリスを訪ねると、5リッターV8の「ジャガーXF 5.0 プレミアム ラグジュアリー」が895万円で、「ランドローバー・レンジローバースポーツ5.0 V8」が754万円となっている。
調べた範囲だと、「シボレー・カマロSS RS」より安いV8モデルは「フォード・マスタングV8 GT クーペプレミアム」(480万円)と、「トヨタ・ランドクルーザーAX」(470万円)の2台だけ。しかもこの2台はいずれも4.6リッターだから、6.2リッターのカマロのお買い得感はかなりのもの、という調査結果が出た。
飛ばすと感じるカマロの“人徳”
1967年に登場した初代カマロをモチーフにした外観は、2010年の日本の街並みに置いて眺めると強烈な存在感を放つ。おまけにカラーはド派手なオレンジ。自分がこのクルマに乗っている姿を想像すると、コスプレをしているみたいで気恥ずかしい。乗り込んでも、シフトセレクター前方のアナログ4連メーターなどレトロな雰囲気。けれどもひとたびシートに収まるとしっくりくるのは、斜め後方以外は視界が良好で、車幅感覚もつかみやすいから。大振りなシートのほっこり包み込むような掛け心地にもホッとする。
走り出してのフィーリングも、“あざとい”とさえ思えるデザインと対照的に“ナチュラル”だ。まず、乗り心地が低速域でもいい。タイヤサイズは前が245の45扁平、後が275の40扁平で、ともに20インチだから乗り心地は期待していなかった。
けれど、路面からのショックの角が巧みに丸められていて、いい意味でまったりしている。最初は切り始めがややダルに感じられたステアリングホイールの手応えも、慣れるにつれて、これはこれでいいと思えるようになった。山道を走るとわかるけれど、ステアリングの利き自体は実に正確。ダルなのではなく、あえてネットリ湿ったフィーリングにしているのだ。
6.2リッターの排気量はさすがに余裕たっぷりで、右足の親指付け根にちょっぴり力を込めるだけで街の流れを簡単にリードできる。ヨーロッパ勢のV8のようにシャキーンと回るわけではないものの、豊かなトルク感は大いに魅力的。せこせこしない速さというか、飛ばしてもとがった高揚感よりおおらかでリッチな気分になるあたりが、このクルマの“人徳”だ。6ATはもうちょい変速スピード上げてよ。というリクエストはありつつも、変速ショックは少ないし、何より強大なトルクのおかがでキックダウンする機会もあまりないから、まいっか、という気になってくる。
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外観は派手だが中身は素直
面白いのは、街なかでは従来のアメリカンV8クーペと同じおうようなフィーリングを感じさせたのに、山道ではハンドリングマシンに変身することだ。ステアリングホイールへの入力に敏感に反応して、ドライバーを中心に長いノーズがクルッと向きを変える。ロールもよくチェックされていて、高速コーナーでも腰砕けになることなくきっちり踏ん張ってくれる。
足まわりについては、V6モデルが「スポーツサスペンション」という仕様であるのに対して、V8モデルはさらにスポーティな「パフォーマンスサスペンション」に設定されている。あいにくV6モデルの試乗経験がないので比較はできないけれど、街なかや高速道路での快適性とワインディングロードで見せる敏しょう性を両立するあたり、相当レベルが高い。ただし山道では、ブレーキだけがやや不安だった。V8モデルだけに備わるブレンボの前後4ピストンのブレーキシステムは制動力こそ確かなものの、踏み始めの空走感が気になるのだ。
このクルマで山道を飛ばすと、トルクの大切さがつくづく身にしみる。確かにアクセルペダルを踏みつければ、ごう音とともにケツに火がついたように加速する。けれども高回転がホントに得意かといえばそうでもなく、4000rpm以上では音も回転フィールも無理してやってる感触になる。だからブン回そうというタイプではなく、4000rpmぐらいまでを使ってぐいぐい走るスタイルになる。
こまめにシフトしながらエンジン回転数を保つことは求められないので、ステアリングホイール裏のスイッチ(パドル)でマニュアルシフトするのにも最初の30分で飽きてしまった。アクセルペダルの微妙な操作に反応して、トルクがじわじわしみ出てくるのだ。ただ、これはこれで非常にキモチいい。個人的に、この大排気量V8の魅力は速さやどう猛な音よりも、滋味あふれるトルクだ。大人っぽい乗り方が似合う。これで535万円は、やっぱりお値打ち価格だ。
山道を走り込むにつれ、「これ以上踏んだらアブナイ」というインフォメーションをわかりやすく伝えてくれる。クルマ全体の素直さが理解できるようになる。いま置かれている状況を包み隠さず伝えてくれるオープンな性格だから、乗っていて楽しく、朗らかになる。
おっとりと街なかを流すこともできれば、峠で大人の遊びにふけることもできる二面性。どぎついルックスに素直な性格という二面性。いろんな意味で二つの顔を持つ「シボレー・カマロSS RS」は、懐が深いクルマだ。
(文=サトータケシ/写真=菊池貴之)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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