ルノー・ルーテシア1.6(FF/4AT)【ブリーフテスト】
ルノー・ルーテシア1.6(FF/4AT) 2010.03.29 試乗記 ……219万8000円総合評価……★★★★
フルモデルチェンジかと見まごうほどに、ガラっと印象がかわったルノーのコンパクトカー「ルーテシア」。その仕上がりと走りを試す。
才能は十分
いまから10数年前は、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「プジョー306」など、いわゆるCセグメントのハッチバックは、全長4m前後、全幅は1.7mを切るコンパクトなクルマだった。ところが、時代とともにボディは大きくなり、たとえば「プジョー308」は全長4290mm、全幅1820mmにまで拡大。5ナンバーサイズに慣れ親しんだ人から見れば、手が出しにくい存在になっている。
そんなユーザーたちに、熱いラブコールを送るのが、ルノーのBセグメントハッチバック「ルーテシア」だ。3代目ゴルフや306とほぼ同じサイズのコンパクトなボディに、スタイリッシュなデザインとCセグメントに見劣りしない装備を与えることで、悩めるユーザーを取り込もうという作戦だ。
ユーザーとしても、我慢や不便を強いられることなくBセグメントにダウンサイズできるなら、喜んで誘いにのるだろう。このルーテシアなら、才能は十分。パワートレインに新しさがあれば申し分ないのだが、それを差し引いても、ルーテシアはなかなか魅力的なモデルである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
現行モデルは2005年3月に本国デビューした3代目で、日本では2006年3月に発売された。
今回(2010年3月5日)のマイナーチェンジで、フロントマスクが一新。低くなったボンネットや新設計のヘッドライト、バンパー、フロントフェンダーなどによりダイナミックな印象となった。リアもテールランプとバンパーがリニューアルされた。フロントデザインの変更により、全長は4025mmと35mm長くなったが、シャシーは従来のままだ。
エンジンは、1.6リッター直4DOHC16バルブ(112ps/6000rpm、15.4kgm/4250rpm)のみで、マニュアルモード付き4 段ATまたは5段MTを組み合わせる。ボディ形状は5ドアのみ。
安全面では、新たに横滑り防止装置(ESP)が標準装備される。
(グレード概要)
AT車、MT車で基本の装備は同じ。オートライトやフロント雨滴感知式オートワイパー、ヒーター付きの電動格納式ドアミラー、花粉などを抑えるオートエアコンディショナーなどの快適装備のほか。ブレーキアシスト付ABSやESPなどの安全装備も標準装備される。さらにAT車には、スピードリミッター、クルーズコントロールが備わる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
上級モデルからの乗り換えを狙うだけに、室内にはセグメントを超えた上質さが漂う。すっきりとしていながら、要所にシルバーのアクセントを施したダッシュボードは、素材の質感も高く、小さな高級車という表現がぴったり。また、装備も、オートエアコンをはじめ、オートライト、雨滴感知式オートワイパー、クルーズコントロール、コーナリングランプ、ESPなどを標準で搭載するなど、満足度は高い。ドアのリモコンが別体型なのは、慣れるまでまぎらわしいが……。
(前席)……★★★★★
サイドに光沢のある素材、センターに小さな凹凸のある素材を配したファブリックシートは、仕上がりが美しく、室内の上質感を高めるのに一役買っている。しかもこのシート、座り心地が絶妙で、見た目どおり、少し硬めなのだが、背中全体を包み込むようにサポートするため、すこぶる快適。長時間のドライブでも疲れ知らずだ。ウエストラインが低いおかげで、運転席からの眺めは開放的。Cセグメントのハッチバックに比べると幅方向は狭いが、それでも窮屈さは感じない。ステアリングホイールは革巻きで、ステアリングコラム横にはオーディオをコントロールできるサテライトスイッチが付く。コラムの調節はチルトのみで、テレスコピック調節があればいうことなし。
(後席)……★★★★
全長が限られるぶん、後席は狭そうに見えるが、実際は大人が乗っても十分な空間が確保されている。膝の前には拳ひとつぶんのスペース。足を組むことはできないが、前席の下に足の甲がすっぽりおさまり、また、フロアから座面までの高さも適切なので、自然な姿勢で座ることができる。身長168cmの筆者の場合、頭上のスペースは10cmほどと十分に余裕がある。前席に比べ、タイヤが拾うショックを伝えがちなのが減点の理由。
(荷室)……★★★
奥行き60cm強、幅100cm、リアパーセルシェルフまでの高さが約50cmのラゲッジスペースはボディサイズ相応のレベル。コンパクトハッチバックの文法どおり、分割可倒式のリアシートを倒せば、大きな荷物にも対応する。その際、ヘッドレストを取り外さずに済むのはありがたい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
このルーテシア1.6のパワートレインは、1.6リッター直4DOHCエンジンと4段ATの組み合わせ。発進は多少のんびりしていて、2000rpmを超えたあたりからようやく活発になる性格だ。決して遅いわけではなく、気楽に乗るには問題はないが、物足りなさを覚えるのも確か。4ATもいまや時代おくれの感は否めず、燃費の点からもATの多段化、あるいはCVT、デュアルクラッチギアボックスの搭載が待たれるところだ。5段MTも用意されるので、不得意でなければそちらを選ぶのも手だ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
まだ走行距離が短いためか、やや硬めの乗り心地のルーテシアだが、3人乗車なら実に快適な乗り心地となり、実力の一端をうかがい知ることができた。ルノーのクルマらしく、速度域によらず落ち着きある重厚な走りを見せるルーテシアからは、サイズ以上の高級感が伝わってくる。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2010年3月5日-10日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:3739km
タイヤ:(前)185/60R15(後)同じ(いずれも、コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(7)
テスト距離:258.9km
使用燃料:26.32リッター
参考燃費:9.84km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
NEW
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
NEW
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。 -
NEW
第4回:個性派「ゴアン クラシック350」で“バイク本来の楽しさ”を満喫する
2025.9.18ロイヤルエンフィールド日常劇場ROYAL ENFIELD(ロイヤルエンフィールド)の注目車種をピックアップし、“ふだん乗り”のなかで、その走りや使い勝手を検証する4回シリーズ。ラストに登場するのは、発売されたばかりの中排気量モデル「ゴアン クラシック350」だ。 -
NEW
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー―
2025.9.18マッキナ あらモーダ!ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。 -
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2025.9.18谷口信輝の新車試乗レーシングドライバー谷口信輝が、ピュアなドライビングプレジャーが味わえるという「ポルシェ911カレラT」に試乗。走りのプロは、その走りをどのように評価する?