ジャガーXJシリーズ【海外試乗記】
ジャガーの“新しい世界” 2010.03.23 試乗記 ジャガーXJシリーズジャガーの最上級サルーン「XJ」が、フルモデルチェンジ。モダンなボディをまとった新型の真価を、パリでいち早くチェックした。
ため息が出るほどに
大胆な変革を遂げた新しい「ジャガーXJ」の国際試乗会が行われたのは、珍しいことにフランスはパリ近郊。理由を聞いたスタッフは「SEXY CITY, SEXY CAR!」とウインクを返してきた。そのオールアルミ製ボディのデザインについては、昨秋の発表以来、賛否が渦巻いているが、個人的にはコレ、最高に気に入っている。
なるほど、たしかに文法的には、これまでのジャガーの文脈からは外れたと言えるかもしれない。しかしながら本来、その時代の先端をいく美しいクルマこそがジャガーだと言うならば、新型XJは、まさにジャガー以外の何者でもないと思わせる。特に今回、ロングボディのエレガントさにはあらためてため息が出てしまった。
インテリアの、ドアからダッシュボードまで連なるかたちでトリムがぐるりと取り囲む造形は、高級ボートの船室がモチーフ。リアクオーターピラーをブラックアウトしているのも、やはり高級ボートよろしく屋根をフローティングしているように見せるためである。仕立てはモダン。しかし、それでいてやはりイギリス車でしかあり得ない雰囲気が、そこには濃厚にある。XFもそうだったが、ようするにブリティッシュネスの現代的な解釈というわけだ。
洗練された“ジャガー・ライド”
初の試乗体験はリアシートから始まった。低いルーフに、さらに大面積のガラスルーフまで備わることを考えれば頭上に余裕もあり、その座り心地は良い。乗り心地は、やや硬めかな? とも感じたが、降りた後に足元を見たら、ホイールは大径20インチを履いていた。そう考えれば、むしろすこぶる良い。
ドライバーズシートに最初に滑り込んだのは、ガソリン5リッターNAのロングボディだ。走り出してすぐ、まず感じたのは「やっぱりジャガーだな……」ということである。なによりステアリングの反応がいきいきとしている。軽いけれどリニアな反応がクルマの大きさを忘れさせる。中立付近での手応えが先代以上に引き締まって、反応がさらに素早くなった。
そしてなにより乗り心地だ。路面のうねりを越える時のふわっと伸び上がり、そしてスッと縮んでいく感覚は、まさに絶品。しかも、こんなに柔らかだと操縦性にしわ寄せが来そうなものなのに、XJの走りは不安感とは無縁だ。ロール感は小さくないが、余計な動きをするわけではない。ダイナミックモードに入れればダンパーが締め上げられるが、個人的には常にノーマルモードで事足りた。
これだけ良く動くアシで、どうして微小舵角からそんな反応を演出できるのだろうか。しかも高速道路では、ステアリングに手を添えておくだけで、しっかり直進してもくれるのだ。それを考えると、キツネにつままれたような気分になってくる。もちろんフロントを通常のコイル、リアをエアスプリングに変更し、連続可変式ダンパーを組み合わせた新しいシャシーの構成も効果を発揮しているのだろうが、そうした話だけではないはずだ。そう、“ジャガー・ライド”はますます洗練されたかたちで、新型XJにも踏襲されているのである。
後で乗ったショートボディは、身のこなしがより軽快だ。しかしロングでも十分以上に、期待以上に一体感は高い。とはいえ、ショートでも全長は5122mm。決して短いわけではない。そう考えると、取り回し性は唯一の懸念材料と言えそうだ。
クルマが小さく感じられる
5リッター直噴のパワーユニットはすでになじみのものだが、豊かなトルクとレスポンスは相変わらず心地よい。車重の軽さは、ここでも大いに効いている。
翌日には5リッター直噴スーパーチャージド・ユニットを積むスーパースポーツを試すことができた。510ps、63.7kgmもの出力を誇るだけに、こちらは全域でパワーの厚みが増している。感覚としては、アクセル開度が2割がた少なくなっているような雰囲気だ。以前のスーパーチャージドのように特有の「ミーッ」という音を響かせることもなく、室内は静粛そのもの。それはエンジン本体の進化だけでなくアルミボディの弱点である振動、騒音について徹底的な対策がとられたおかげである。Bowers&Willkins製スピーカーと最大出力1200Wのアンプを備えたオーディオシステムも、それでこそ生きるというものだ。
乗り心地はこちらの方が全体にしっかりしているが、それでも十分に快適と言える。当然、よりダイレクトな反応を得られるから、シャキッとした味付けが好みならば、こちらを気に入るだろう。また、スーパースポーツには、標準でアクティブディファレンシャルコントロールと呼ばれる電子制御LSDが備わるため、コーナリングの気持ち良さ自体も増していた。特に姿勢を乱さず、絶妙なトラクションがかかる脱出時の小気味良い挙動は、クルマをさらに小さく感じさせたのである。
ひいき目に過ぎると言われそうだが、最近の実績からいって、新しいジャガーは間違いなく気持ちの良いクルマに仕上っているだろうと思いながら試乗に臨んでいる。しかし実際には、その期待をさらに上回る感動がもたらされる。新型XJも、やはり同様であった。
それ故にもちろん「この格好でジャガーだなんて……」いう保守派なかたにも試してほしいが、個人的にはむしろ、ジャガーに思い入れがあろうと無かろうと、この姿に魅了された人に、その走りを体感してほしいと願わずにはおれない。きっとXJは、ジャガーの新しい世界を切り開いていくクルマとなるだろう。
(文=島下泰久/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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