ジャガーXJ50(FR/8AT)
ゆとりのドライバーズカー 2019.05.08 試乗記 「ジャガーXJ」の誕生50周年を記念して設定された、限定モデル「XJ50」に試乗。デビューから10年がたち次期モデルのうわさもチラホラ聞こえる今にあっても、ジャガーの新世代を切り開いたフラッグシップサルーンの魅力は、色あせていなかった。2019年だけの期間限定グレード
歴代ジャガーXJシリーズにはずっと好感のようなものを抱いてきた。世代的にというか何というか、最初に体験したのは当時まだ新車で販売されていた「シリーズIII」だった。
街を穏やかな気持ちで走っているときには、「これが猫足」と教えてくれるかのようなヒタヒタと柔らかく上品な乗り味に心打たれ、そのくせワインディングロードなどで速度を上げてみたら、ロールはすれども素直に気持ちよく望外にスポーティーに曲がってくれることに驚かされ、さらにはエクステリアやインテリアに漂う“英国”らしい豊潤な薫りに魅せられ──。当時、日本にも高級セダンと呼ばれるクルマはもちろん存在していたわけだけど、まだ発展途上のようなもの。その差には「うーむ……」とうならされたものだった。
その後の「XJ40」も、「X300」も、「X350」も、そして現行の「X351」も、それにさかのぼって体験した「シリーズI」も「シリーズII」も、表現に移り変わりこそあったものの、思えば芯の部分は共通しているような気がする。そんな風なことを自然に思い起こしたのは、ジャガーXJが誕生から50周年を迎え、それを記念したモデルに触れたからだ。その名はジャガーXJ50。シリーズにこの2019年のみ設定されている、期間限定グレードである。
記念モデルと聞いて大きな期待感を持つ人もいらっしゃるだろうけど、このXJ50、メカニカルな部分はスタンダードなショートホイールベース版のXJに準じており、パワーユニットは最高出力340ps/6500rpmと最大トルク450Nm/3500rpmを発生する3リッターV6スーパーチャージドエンジンを搭載する。基本的には中間グレード的な存在である「プレミアムラグジュアリー」をベースに、装備類を充実させたものだ。
昨今のロンドンのような空気感
エクステリアでは最上級グレードの「オートバイオグラフィー」と同じ前後バンパーを備え、ホイールは“スタイル5045”と呼ばれる20インチの5スプリットスポークに。インテリアではシートがヒーター機能とクーラー機能とマッサージ機能付と18ウェイ調整機構付きとなり、表皮はダイヤモンドカットのレザーに、そしてパネルにはグロスシャドーウオールナットが使われる。
シフトパドルはアルミ製に、ペダルはブライトメタル製となり、サイドシルには「XJ50」のロゴがブルーに浮かぶトレッドプレートがあしらわれる。また空調は前後左右独立調整式となる。もちろん記念モデルであることを示す専用ロゴを各所に装着。エクステリアではサイドベントとリアに、インテリアではセンターアームレストに配されている。
そして価格はプレミアムラグジュアリーの1253万円に対して1321万円。差額は68万円だが、例えば通常、オプションの中から18ウェイ調整機構付きのシートを選ぶとプラス39万6000円、前後左右独立調整式エアコンを選ぶとプラス7万2000円という価格を考えれば、XJ50の値付けは割安感のあるものであることが分かるだろう。
上級グレードと比べても遜色がなさそうな仕様となっていることも手伝って、実車はエクステリアもインテリアもラグジュアリーな雰囲気たっぷり。さらにインテリアは、伝統だけにすがらずモダンと奇麗に融合している昨今のロンドンと同じような空気感で、英国の“今”を巧みに表しているような気もする。
今に始まったことでもないけど、あらゆるところにレザーがあしらわれ、そこに施された当たり前のようなステッチの美しさなどを見ていると、いかにも英国らしいと感じさせられてしまう。総じて視覚的にも触覚的にもとても快適で、その場にいることがほんのりと心地良い。
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XJらしい加減のよさ
乗り味はどうかといえば、メカニカルな部分には手は入ってないのだから、以前に走らせたことのある3リッターV6スーパーチャージドエンジン搭載のXJの記憶とほとんどズレがない。最高出力340ps、最大トルク450Nmのアウトプットは1890kgの車体に豪快な速さをもたらすにはちょっとばかり足りないけれど、爽快な速さを得るには十分だし、エレガントで穏やかな紳士然とした走らせ方をするのにふさわしいスムーズさを持っている。
サウンドや振動が伝わってくる様にも安っぽさなどみじんもなく、自分がどのクラスのクルマに乗っているのかをそこはかとなく伝えてくる。「あらゆる“必要”を、ゆとりを持って満たしているストレスのないセダン」と紹介できるだろう。
最高出力575psに最大トルク700Nmの5リッターV8スーパーチャージドを積んだXJのトップカテゴリーモデルは、その気になって走ればバカっ速で相当に楽しいし気持ちいい。スポーツドライビングを好む向きには似つかわしいとは思うのだけど、XJ50は気遣いなしに穏やかに走ることができてその気になればスピードとの親和性もほどほどに高い走りが楽しめて感覚的な心地よさもたっぷりある。個人的にはそのくらいの加減のよさこそが「XJらしい」と感じられる。
乗り心地に関しては「やっぱり現代の“猫足”なのだな」という印象だ。基本的にはとてもしなやかで快適だ。低速域などでときどき「ん?」と感じるコツコツした感じは、おそらくスタイリッシュであることを優先させたシューズによるもの。もう少し厚みのある穏やかなタイヤにしたらどうだろう? と思いはするけれど、それは不満というわけじゃなくてふと思いついたにすぎないレベルのお話だし、どの座席からも決して苦情が出ることはないだろう心地よさである。
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気持ちのいい走りが味わえる
全長5135mm、全幅1900mmという決して小柄とはいえない車体からすれば、望外といえるくらい滑らかに素早く曲がってくれ、とても気持ちのいい走りが味わえる。なんといえばいいのだろう? しっとり感としゃっきり感が矛盾もなく同居しているようなそのときのフィールが、やはり「XJらしい」と感じさせてくれるのだ。こういうところが「XJのドライバーズカーらしいところだな」と心から思わされる。そうした面も含め、同時にいい具合に熟成が進んできたのだな、という感覚もある。
X351型のXJサルーンは2009年に初公開されたモデルだから、もはやモデル末期といっていい。デザイナーのイアン・カラムが大胆な刷新を試みて議論を呼んだ新世代ジャガーの先駆けとなったスタイリングも、とうに見慣れている今となっては魅力的に感じられるし、ジャガーらしさを覚えるほどになった。
このXJ50は重要なアニバーサリーの記念モデルとしては特別感が足りないけれど、もともとXJサルーンの購入を考えていた人や充実した仕様のXJサルーンをお買い得に手に入れたい向きにはオススメできる仕様といえるだろう。完成度としては、かなり高いところにあるのは間違いないのだし。
もう少し時間がたてば、X351の次のXJがデビューすることになるのかもしれない。そういうタイミングでXJが生誕50周年を迎えたのは、タイミングがよかったと捉えるべきか悪かったと考えるべきか、微妙だなぁ……とは思うのだけれど。
(文=嶋田智之/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
テスト車のデータ
ジャガーXJ50
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5135×1900×1455mm
ホイールベース:3030mm
車重:1890kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ スーパーチャージャー付き
トランスミッション:8段AT
最高出力:340ps(250kW)/6500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/3500rpm
タイヤ:(前)245/40ZR20 99Y/(後)275/35ZR20 102Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT)
燃費:7.6km/リッター(JC08モード)
価格:1321万円/テスト車=1519万1000円
オプション装備:セキュアトラッカー(9万7000円)/コネクトプロパック(5万8000円)/MERIDIANリファレンスサウンドシステム(65万3000円)/アダプティブクルーズコントロール(24万1000円)/パークアシスト&360°パーキングエイド(5万8000円)/ブラインドスポットアシスト&リバーストラフィックディテクション(8万4000円)/360°サラウンドカメラ(12万8000円)/パークアシスト(16万5000円)/デュアルビュータッチスクリーン(12万1000円)/10.2インチHDリアシートエンターテインメント(37万6000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2905km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:156.0km
使用燃料:23.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/6.6km/リッター(車載燃費計計測値)