トヨタ・パッソ/ダイハツ・ブーン(FF/CVT)【試乗速報】
女子による女子のためのクルマ 2010.03.03 試乗記 トヨタ・パッソ 1.0+Hana(FF/CVT)/パッソ1.3G(FF/CVT)/ダイハツ・ブーンCL“リミテッド”(FF/CVT)……169万2950円/163万3700円/131万8000円
トヨタとダイハツの共同開発車「パッソ」と「ブーン」がフルモデルチェンジ。新たにオシャレバージョンも加わったニューモデルを、スーザン史子がリポートする。
女性開発チーム発足
「僕らの想像のつかないこと? そんなのいっぱいありましたよ!」
目を大きく見開き、そういって身を乗り出すのは、「パッソ」チーフエンジニアの鈴木敏夫さん。ロマンスグレーが似合う、アラフィー世代。彼にとって、今回のプロジェクトは驚きの連続。というのも20代を中心とした女性開発チームから飛び出すさまざまな提案は、これまでの常識を覆すものが多く、自分たちの発想にはまったくないものだったからなんです。
「トヨタ・パッソ」と「ダイハツ・ブーン」は、トヨタが商品企画を担当し、ダイハツが設計から生産までを行い、それぞれのブランドで販売する姉妹車。「トヨタ・ヴィッツ」よりも短い全長ながら、十分な広さの室内と燃費の良さがウリのコンパクトカーです。
新型は、基本的にキープコンセプト。全長を40mm伸ばした以外は、ボディサイズはほぼ変わらず。とはいえ、室内幅や室内高が広がり、室内空間には余裕が生まれています。ところが、外観はエッジを利かせた旧型に比べると、イマイチ捉えどころがなく無難にまとめた印象。少々丸みを帯びたデザインになったせいか、輪郭がぼけ、パッと見た感じでは、他のコンパクトカーとの区別がつきにくい。このカタチだけ見て、「欲しい!!」という気にはならないところが残念! 女性がターゲットなら、キュートなキャラクターを打ち出すような、目を引くデザインだったらよかったな。
新シリーズ「+Hana」
一般ユーザーからの聞き取り調査を経て、トヨタの女性社員、約100名と、20代を中心とした女性開発チームが、意見交換を繰り返した結果生まれた、新型「パッソ」&「ブーン」。「自分の部屋のようにリラックスできる空間」を開発コンセプトに、インテリアを中心に、たくさんのアイデアが盛り込まれています。
目玉となるのが、新たにラインナップに加わった、「パッソ+Hana(プラスハナ)」。「パッソ」にプラスアルファの華やかさをプラスした、オシャレバージョン。
前席には、室内が広く感じられ、使い勝手もいいと若い女性に人気のベンチシートを採用し、インテリアカラーには、シックで落ち着いた色合いのチョコ×オフホワイトをコーディネート。シンプル&モダンなテイストでまとめられたインパネまわりや、オーディオなども、まさに女性好み!
とりわけ、「+Hana」のスタイルを印象付けているのが、ドアハンドルとサイドミラー、ホイールに施されたシャンパンゴールドの塗装。シルバーやメッキじゃないところに、「+Hana」ならではの個性を感じるわ〜。
とはいえ、若い人のオシャレ感覚って、なかなか年上の方には理解できないもの。
「そもそもドアハンドルっていうのは、ボディと同じ色を塗るのが常識。そこへあえて別の色を塗るっていうのは、僕ら男目線では生まれてこない発想なんですよね。でも、よく彼女たちの意見を聞いてみると、つまりネイルアート感覚なんです。そこでなるほどなと。ユーザーが求めるものを作るのが僕らの仕事ですし、ポジティブに考えて、今回ワンポイントオシャレを採用することにしました」と鈴木さん。
ジェネレーションギャップや男女の感性の違いを越え、ユーザーの“欲しい”にこたえたのが、新型の「パッソ」&「ブーン」というわけなんです。
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ドライブで肌に潤い!?
ボディカラー名についても、これまでとは違う発想が採り入れられています。たとえば、ホワイトを「ユキ」、パールホワイトを「シンジュ」、オレンジを「アカリ」、ベージュを「キナコ」と表現するなど、和のテイストを持ちながら、女性にとって馴染みのあるものをイメージし、名前に採用したんです。感性豊かな女性らしい発想がイイ!
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そのほかにも女性目線での工夫がいっぱい。
旧型から人気のあった「ロングクッションモード」は引き続き採用。後席座面をレッグスペースにスライドさせることで、前席シートバックとの隙間を埋め、荷物が床に落ちない設計。動物を乗せても安心と、ペットオーナーにも人気の装備なんです。
収納にもこだわりが。「まずは収納ありきで室内をデザインした」というように、インパネまわりの収納スペースはリッド(蓋)も仕切りもないオープンスペース。ものをキレイに隠すよりは、取り出しやすさと、自由度を優先した設計。小さいバッグならそのまますっぽり入るし、少しくらいはみ出してもOK!
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そして、女性のワガママ装備として、今回初めてクルマ用に採用されたのが、パナソニックの「ナノイードライブシャワー」(販売店オプション)。このナノイーシリーズ、今、女性に圧倒的な支持を集めている、美肌ケアグッズ。実は、ワタシも温風と冷風が交互に出てくるタイプのものを愛用してるんですが、15分間蒸気を当てているだけで、かなりのしっとり感が得られるんです。車載用では蒸気ではなく、弱酸性のイオンによって肌の潤いを保ち、髪の毛をまとまりよくしてくれる効果があるんだとか。ドライブしながら美肌ケアなんて、クルマもとうとうここまで来たか! って感じです。
普段のアシに不足なし
「パッソ」&「ブーン」の最小回転半径は旧型と同様の4.3mと、軽自動車並みの取り回しの良さ。運転席に座ってみると、視界の良さにも納得。旧型よりヒップポイントを10mm上げ、ベルトラインを10mm下げることによって、スッキリとした視界を確保しています。また、Aピラーのフロントウィンドウ側を凹ませた形状にすることによって、ピラーを細く見せ、視界をよくする工夫も。右左折時も不安なく運転できそう!
エンジンは、新開発のトヨタ製1.3リッターエンジンと、改良を施した、ダイハツ製1リッターエンジンとの2タイプ。高速道路の利用が多いなら、1.3リッターを。街なかでは、1リッターでも十分といった感じ。
トランスミッションにはCVTを採用。エンジン、CVT、ともに燃費向上を図ることによって、「パッソ」の1.3リッターモデルで50%、1リッターモデルで75%のエコカー減税が受けられるようになったこともポイントです。
ハンドルを握ってみると、足まわりは基本的に街なかメインのやわらかセッティングで、同じくコンパクトカーの「ヴィッツ」の高速走行性能の高さと比べると、より軽自動車の走りに近い印象。がんばって加速するとエンジン音が車内に響くところも軽自動車テイスト。とはいえ、CVTによる滑らかな加速感は心地よく、ストップアンドゴーの多い街なかのドライブでも、気持ちよく運転できました。女性ドライバーの普段のサンダルとしては不足ない動力性能でしょう。
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軽自動車のユーザーとかぶる?
トヨタの調査によれば、旧型パッソでは65%が女性ユーザーと、軽自動車のユーザーとほぼ重なるのだとか。さらに内訳を見れば、子育て世代は19%、独身・カップルや、子離れ世代の割合が合わせて47%と、子供のいない人たちが多かったという結果に。つまり、旧型パッソユーザーの半数近くが、女性でも子供はいない、もしくは子供と一緒に生活していない人たちということなんです。彼女たちの嗜好を分析すると、身の丈にあった価格でありながらも、他人とはちょっと違ったオシャレを楽しみたいという傾向があるとか。
確かに、20代を中心とした若い女性たちを考えれば、他の世代よりも節約志向が強いと言われています。それでも、オシャレには断然興味のある年代。「ファッションセンターしまむら」に足繁く通う“しまむらー”も彼女たち世代が中心。限られたお小遣いのなかで、安くてカワイイものを探す能力に長けていて、見かけのゴージャス感には目もくれない。だから、クルマにウッドパネルやメッキグリルをつけて喜ぶなんて、到底ありえない。そういうゴージャス感は、むしろオジサマたちのもの、という感覚なんですよね。
これまで、いわゆる“オジサマ世代”が作っていたクルマにも、ユーザーに近い女性の意見が積極的に採用されることによって、女性ユーザーが本当に欲しかったクルマが、増えていくかも。そんなクルマ作りに、今後も期待していきたいです。
(文=スーザン史子/写真=荒川正幸)

スーザン史子
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