第107回:タイヤ変われば生活変わる!? 〜トラック用タイヤ最新事情
2010.01.29 エディターから一言第107回:タイヤ変われば生活変わる!? 〜トラック用タイヤ最新事情
欧米では主流の「シングルタイヤ」
タイヤという部品は地味である。ずっと前から「クルマはタイヤ4本が、それぞれハガキ1枚分の面積で地面と接して……」という言葉が使われてきたほど、重要な自動車部品のひとつでありながらも、その基本的な見た目は変わっていない。黒いゴムの固まりである。
そもそもが消耗部品なので、クルマ好きじゃなくてもタイヤ交換はしたことがある人は多いと思われるが、それは「減ったから換える」という受動的な行動によるものだろう。タイヤに興味があるという人は、スポーツ走行をするクルマ好きや、降雪地域に居住するスタッドレスタイヤユーザーぐらいではなかろうか。
しかしながら、その地味なタイヤが最近多くの人から注目を浴びている。特に昨今は、燃費(転がり抵抗)や経済性(タイヤライフ)などで、注目されることが多くなってきたはずだ。
と、ここまでは乗用車用タイヤの話。しかし、どうやらトラック業界にもタイヤ改革(?)の波が押し寄せてきているという。ということで、日本ミシュランタイヤが主催するセミナーに参加し、トラック用タイヤの最新事情を勉強してきた。
今回の主役は、「シングルタイヤ」。
大きなトラックの後輪には、片側にタイヤを2本並列に付けていることをご存じのかたも多いだろう。これが「ダブルタイヤ」である。そしてシングルタイヤというのは、そう、この2本のタイヤ部分を1本にすることなのだ。欧米ではすでに主流になりつつあるという。
「それ、なにかいいことあるの?」と、実は私も直感的に理解ができなかった。
しかし聞けば聞くほど、メリットだらけなのである。
財布にも環境にも優しい技術
商用利用が主な用途となるトラックでは、個人使用の乗用車よりもコストへの意識が高いのは言うまでもない。具体的には、燃費が重視される乗用車に対し、トラックでは輸送効率を上げることが課題。つまり、「一度にたくさん運べる」ことが重要ということだ。
まず知識として、トラックの積載量(重量)は車両総重量から車両重量を引いたものが積載の上限重量となることを知っておきたい。たとえば、車両総重量25トンとなる「25トントラック」の車重が12トンだとすれば、積載可能な荷物は13トンまでとなる。
(注:25トントラックはたまたま車両総重量が25トンであり、2トントラックや4トントラックは車両総重量が2トン、4トンではない)
そこでシングルタイヤの美点がいきなり登場。全10本のタイヤを使用していたトラックでは、これを6本に減らすことができ、結果、タイヤとホイールの重量をおよそ240kg減らすことができるという。つまり、タイヤの変更によって240kg分の荷物を多く積むことができるようになるわけだ。
また、トラックにはサイズにも規制があり、たとえば大型トラックだと全高は3.8m以内と決められている。タイヤを小径化することで、荷室床面を下げることができるため、相対的に荷室の高さが上げられる。つまり積載容量を増やすことが可能なのだ。同時に、ダブルよりシングルのほうが総幅が狭くなるため、床面も広くとることができる。
ダブルからシングルにしても荷重能力は同等というから、荷物を多く積むという観点で、メリットは満載なのである。
輸送効率以外でも、ダブルタイヤではホイールの取付ハブ穴が8個なのに対し、シングルタイヤは10個ということで、安全面でも有利。ワイドトレッドになることで、旋回時の転覆限界性能も上がるそうだ。さらにタイヤの軽量化は、燃費改善にもつながる。
輸送効率が上がれば、トラックの台数が減る。台数が減れば、当然排出するCO2も減るし、渋滞緩和にも貢献できる。ミシュランはこれを「持続可能で環境に優しい革新技術」とアピールする。
ただ、「じゃあ小径シングルタイヤにとっかえよう」とはいかないそうなのだ。というのも、ホイールの取付ハブなどを含め、車台にそこそこの改造が必要になるという。ということで、基本的にはカスタムオーダーとなるトラックの製造段階からシングルタイヤ使用を前提に作らなくてはならないのだ。
「業界人以外には関係ない!」と思うなかれ。物流コストが減れば商品価格にも反映されるかもしれないし、もっと直接的なところでは、バスの乗車定員が増えたりすることも考えられる。
みなさんも街を走る、トラック・バスのタイヤをチェックしてみてはどうだろうか。「あ、今のトラックはシングルタイヤ」とつぶやけば、最先端のエコ意識を持っていると思われるかも!?
(文=webCG本諏訪裕幸)
