第126回:「カーグラフィック TV」を遥かに超える? ドイツのトンデモ番組を発見!
2010.01.23 マッキナ あらモーダ!第126回:「カーグラフィック TV」を遥かに超える?ドイツのトンデモ番組を発見!
イタリア版「地デジ」
イタリアのテレビも地上波デジタル放送、つまり日本でいうところの「地デジ」への移行が進められている。イタリアでは「ディジターレ・テレステレ」と呼ばれている。移行は基本的に州ごとで、2008年のサルデーニャ州から始まっている。ぜんぶで5年間かけて完全移行させる計画だ。ボクが住んでいるトスカーナはというと2012年、つまり最後の年だ。
それはさておき、去年暮れのことだ。ボクのデスクトップパソコンのモニターで“ドット欠け”が始まった。それはクルマのフロントガラスのヒビ割れのごとく日を追って大きくなっていった。それも行の書き出しあたりに広がってしまったからとても気になる。ネットで検索して知った「画面を指圧する」等々を試したが、効果はなし。ドット欠けでできる模様も、最初はサンドロ・ボッティチェッリの「春」に出てくるような踊るグラマーな女風だったので、壁紙代わりに楽しんでいたのだが、やがて駄馬のように見えて嫌になってきたのだ。
スクロールすれば文字を見られないこともないが、皆様にお届けする原稿に何かあってはいけないと思い、ここはひとつ新しいモニター購入に踏み切ることにした。
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まだまだ少ないチャンネル
近年イタリア全国にチェーン展開している大手量販店に行ってみると、その店の場合、選択肢は「LG」「サムソン」「HP」の3ブランドだけ。イタリアでモニターは寡占化が進んでいる。
そうした中、ちょうど22インチワイド画面のLG製モニターが、233ユーロで特売されていた。円にして約3万円である。おっ、この商品は「TVチューナーも内蔵」という。前述したように、イタリアでの地デジ化完了は2012年だが、「地デジ完全移行=アナログ停波」であって、実は地デジ放送自体はすでに開始されている。これは良い。我が家初の地デジ対応ということで、ボクはそのモニターを買って帰った。
帰りのクルマでカーオーディオではプッチーニをかけながら、口では「地デジでね、テレビがね、パッと変わるゥ〜」という、北島三郎による日本の地デジ振興ソングを歌っていた。家に帰り、インフルエンザ予防消毒液で手を洗うのもそこそこに、箱を開けてモニターを出す。そしてアンテナ線を引っ張ってきて繋げる。電源を入れると、モニターは勝手にオートチューニング機能で、一帯で受信できる80のチャンネルを拾い上げた。
ところで基本的にイタリアのテレビアンテナは、日本でいうところのUHF用に似たものだ。以前聞いた説明によると、アンテナをいじらず受信できる地域と、若干の角度調整を要する地域があることになっているが、幸いウチは前者だった。いいぞいいぞ。
ところがどっこい、80チャンネルのうちタダで受信できるのは25チャンネルで、あとは有料だった。さらに見られる局もまだ限られている。楽しみにしていた外国局は英国「BBC」のみで、フランスのテレビ局は我が地域ではまだ放映していない。それどころかイタリア公営放送「RAI」も、ボクの州ではまだ映らない。ボクにとってありがたかったのは、デジタル番組表で「TAKESHI’S CASTLE(風雲! たけし城の海外版)」の放映日がわかるようになったことくらいである。
そんなわけで、イタリアの地デジ移行は、少なくともボクの住むトスカーナでは急ぐことはなかったということだ。パソコンのモニターが新しくなったのはいいが、新年早々ちょっとトホホである。
ドイツも面白い
気を取り直して。年末年始で面白かった衛星放送の番組を紹介しよう。
まずはドイツ「ZDF」テレビの「Wetten, dass?(それ、賭けようか?)」というバラエティ番組だ。
レギュラーアシスタントの人気オーストリア人女性タレント、ミシェル・フンツィガーが、オートバイにまたがったひとりの男と登場した。ところが、この男の乗るオートバイ、一風変わっている。フロントにピザ焼き釜、燃料タンク上に生地をのばす台を備えているのだ。
「生地をのばし、具をのせて釜に入れて焼く」という一連のピザ焼き作業を、走行しながらこなしてゆくという、トンデモ企画だった。したがって、ほとんど手放し運転である。
実際、この“ピザ職人系ライダー”は(さすがに公道ではまずかったのだろう)、放送局前の庭をグルグル周回しながら、ピザを仕上げはじめた。
持ち時間は5分。ピザだけでなくそれを釜に入れて焼いている間に、モッツァレッラのサラダを作り、ワインのコルク栓も走行しながら抜いた。男の挑戦中、ベスパで追走していたフンツィガーがカーブでコケるというハプニングもあったが、男は制限時間内にスタジオ内部に乗り入れて見事ピザを会場ゲストたちに振る舞った。
もっと強烈だったのは、ドイツの著名雑誌のテレビ版である「シュテルンTV」だ。日頃から、社会問題から芸能まで硬軟取り混ぜて論評するバラエティ番組だが、ここに紹介するのは2009年12月30日夜に放映された年末総集編である。
どこかの忠犬の話題が終わって、次は何をやるのかと観ていたら、過去のクルマ関連特集をまとめたものだった。ところが、クルマといっても、ちょいとネタが凝っていた。
まずは「部品当て」である。スタジオに散りばめられた大小のパーツを司会者が無作為に抽出すると、達人が「初代フォルクスワーゲン・ゴルフ」とか「フォード・フィエスタ」といったように車種を当てるというものだ。
「そのくらい、オレだってできるぜ」という人は読者のなかにもたくさんいると思うが、不特定多数の視聴者相手のテレビ放送にしては、妙にエンスーな雰囲気が漂っていた。
番組はさらにエスカレートしていった。今度はモーターオイルのブランド当てである。挑戦者は目隠しをしている。何を始めるのかと思ったら、なんと指ですくい、舌でなめて当てるというものだ。
言っておきますが、オリーブオイルとかごま油じゃないですよ。子ども店長を敬う国・日本だったら、子どもが真似するという理由で完全にボツになっているに違いない。ドイツというのは大人の国である。
……と、そこまで盛り上げたあと、何事もなかったかのように、いきなり「ラゲッジルームの荷物を固定しないと、衝突時にいかに危ないか」という話題に移った。
いやー「クルマもの」という観点では、『カーグラフィックTV』を遙かに超えるエンターテインメントであった。とかくゲルマン系というと、「イタリア人より冗談がわからん」というイメージが定着してしまっているが、本当は「なかなかどうして」である。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorezno OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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