第395回:高速無料化についての小沢的考察
つくづく「ニッポン愛車党」が必要では?(笑)
2009.09.14
小沢コージの勢いまかせ!
第395回:高速無料化についての小沢的考察つくづく「ニッポン愛車党」が必要では?(笑)
移動やめますか? 喜ぶのやめますか?
なんか俺が半分うたた寝しながら原稿を書いているウチに衆議院選挙は終わり、民主党が予想どおりというか、自分的には予想以上の300議席オーバー獲得で第1党になった。もっと自民が底力を出すかと思ってたのに。うーむ。
さて、クルマを愛する者として、同時に日本の未来を憂う者として気になるのは、民主党が掲げる「高速道路の基本無料化」だ。細かい話はさておき、俺的には大賛成で、それはクルマが基本的な人間の移動欲を一番正しい意味で満たしてくれるものと思うからであり、そのためには道は安ければ安いほどいいからだ。こういう仕事についていることもあるが、俺はクルマは人を幸せにする道具だと信じている。安くて便利な道は絶対に必要不可欠なのだ。
渋滞が増えるとか、エコに反する(ホントか?)そういう卑近な問題もあるけれど、渋滞と無料化は本来別の話だ。渋滞するならば、道を太くすればいい。そのため暫定的に道路が有料になるのはいいと思う。ただ、元が取れたら無料にしてほしい。これは昔からそういう話だった。でもそれは、一時の料金プール制で誤魔化されたのだ。
エコについては非常に難しい。たしかにクルマが増えれば、基本的には排ガスが増えるだろう。でも、民主党が言うように、無駄なストップ&ゴーが減り、移動スピードが上がって効率アップする部分もある。それ以上に移動は人の生活そのものなので、エコ以上に人に喜びや経済発展をもたらし、根源的には非常に難しいバーターの話になってくる。移動やめますか? 喜ぶのやめますか? みたいな。
人類の歴史を振り返ると、人は移動によって生活を発展させてきた。古くはコロンブスのアメリカ大陸発見もそうだし、もっと遡るとアフリカからヨーロッパやアジアやオセアニアへ移動するうちに人類は進化し、栄えたのだ。
身近な話でも、都会から実家のある田舎に帰るのは喜びだし、恋人に会いに行くのは快楽で、大間のマグロや松坂の牛肉を東京で食べられるのは口福(笑)。どれも効率のよい移動手段があるから可能になる。移動は無駄と言い切るのは難しく、移動をやめると快楽と経済活動が損なわれる。よって道路建設を、エコを理由にやめるのは基本的には反対だ。それよりその分、エコロジーなクルマを作ろうって話に賛成したい。
相変わらずユーザー無視の道路問題
それより気がかりなのが、実は道路に関わる人々の問題だ。クルマは基本的にユーザーとメーカーのものでありつづけ、いいクルマを作るとユーザーが喜び、同時にメーカーが潤うという素敵な成長関係を描いてきた。その間に我々自動車ジャーナリズムも幸せに存在できたわけだ。
一方、道路は全く違う。調べれば調べるほど感じるが、道路は基本的にクルマ好きが造るものではない。道路を設計し造るのは、単なる土建業者で、指揮するのは利権を握る官僚と政治家。ようするにユーザー無視の建築物のなれの果て。それが日本の道路であり、高速道路なのだ。
それともう一つの問題が、道路という建造物がやたらデカく、値付けが難しいということだ。クルマに関してもよく原価率とか、原価償却の話になるが、道路はそんなもんじゃない。おそらく日本で一番難しいんじゃないだろうか。
卑近な例で申し訳ないが、去年俺はとある家の建設に関わり、わかったことがある。最も強く感じたのは、建築物の値段があってないようなものだということだ。それも大きく複雑になればなるほどわからなくなる。なにしろ数十坪の土地でも、母屋建設の見積もりが2000万円と3000万円で、1000万円も開きがあるんだよ! そのうえ、出来上がってくると、地盤改良やらそれに伴う基礎作りなどで、さらに追加料金が発生したりする。
よくクルマの売買を「家具以上、家未満」と評価するけど、道路は「家具以上で、クルマ以上で、家以上」。ホントに価格や価値が判定しにくい。その上「年間何十万台のクルマが走るんですよ」と利用価値を訴えられる、さらにわからなくなってくる。
道路をユーザーの元に戻す戦い
というわけで話を戻すと、この高速道路無料化は、数年前の道路公団民営化と同様、道路をユーザーの元に戻す戦いなんだと思う。だから、国民は民主党に入れたんではあるまいか。
多分、本当の意味で無料にできるとは思ってないし、絶対無料にすべきとも思ってない。でも、少なくとも「俺たちが納得できるものにしてくれ」とは思っている。納得できる料金、納得できる使い勝手、納得できる渋滞、納得できる安全性を持つ物にしてほしい、と。
国民も、どれが正解かもわかってないはず。でも、今の税金を投入しまくって実現した、安いけど複雑で短期的な料金体系、大仰で利権的なETCシステム、「暫定」とついている税金がおかしいとは感じているのだ。そして、その目標に到達するのに「原則無料」が比較的シンプルで納得できたのだ。だから票を入れたんだと思う。
民主党を完全に信じているわけではない。なぜなら、今、彼ら政治家が無料化を叫んでいるのは、道路が儲からなくなったからだとわかっているから。クルマ好きだからではない。高度成長が終わり、道路建設に昔のような旨みがなくなり、クルマから税金や料金を取れるだけ取って、道路を造れるだけ造った時代は終わったからなのだ。
そして民主党は、比較的そこに真正面に原理主義的に立ち向かっただけなのだ。それに、道路は昔ほどの旨みがなくなったとはいえ、依然として巨大な産業であり、お金が絡む装置だ。やりようによっては美味しいと考えたのかもしれない。
だから心配なのは、今後景気が回復した時、再びユーザーの事を考えてない無駄な道路がどんどんできること。事実、首都高にしろ2012年には3つの環状線がほぼでき上がり、2015年には完成する。知らず知らずのうちに、道路は造られているのである。
よって大切なのは、今後の道路造りにどれだけユーザーの視点、クルマ好きの視点を入れられるかではないかと思う。一般の人にはわからないかもしれないが、クルマの運転は、仕事や義務であると同時に、快楽でもある。快楽であるからこそ長距離運転ができるわけであり、安全性も保たれる。
たとえば、ドイツのアウトバーンでは速度無制限区間のほうが重大事故が少なかったりする。遅く走れば安全なんて、単純な理論ではない。やはり道づくりに、クルマ好きの視点、クルマ乗りの感覚は不可欠なのだ。
だから突拍子もない話だと思うが、「ニッポン愛車党」があったらいいと俺は思う。クルマは、そして運転は労働ではない。楽しみであり、快楽であるという認識が絶対に必要だ。洋服だって、別にカラダを守るもの、体温をキープするだけのものではないでしょう? 着る喜びや、作る喜びがあってこその存在なのだ。
クルマにも同様の考え、教えがオフィシャルにあっていいはずなのだ。そうすれば、クルマ作り、ドライバー作り、道路造りはもっと健全になるだろう。
ってなわけで「ニッポン愛車党」、どなたか立候補しませんか?(笑)
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第454回:ヤマダ電機にIKEAも顔負けのクルマ屋? ノルかソルかの新商法「ガリバーWOW!TOWN」 2012.8.27 中古車買い取りのガリバーが新ビジネス「WOW!TOWN」を開始。これは“クルマ選びのテーマパーク”だ!
-
第453回:今後のメルセデスはますますデザインに走る!? 「CLSシューティングブレーク」発表会&新型「Aクラス」欧州試乗! 2012.7.27 小沢コージが、最新のメルセデス・ベンツである「CLSシューティングブレーク」と新型「Aクラス」をチェック! その見どころは?
-
第452回:これじゃメルセデスには追いつけないぜ! “無意識インプレッション”のススメ 2012.6.22 自動車開発のカギを握る、テストドライブ。それが限られた道路環境で行われている日本の現状に、小沢コージが物申す!?
-
第451回:日本も学べる(?)中国自動車事情 新婚さん、“すてきなカーライフに”いらっしゃ〜い!? 2012.6.11 自動車熱が高まる中国には「新婚夫婦を対象にした自動車メディア」があるのだとか……? 現地で話を聞いてきた、小沢コージのリポート。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。