ボルボXC60 T6 SE AWD(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
ボルボXC60 T6 SE AWD(4WD/6AT) 2009.09.14 試乗記 ……678.0万円総合評価……★★★★
従来のボルボ車とは違う、スタイリッシュさが特徴の「XC60」。果たして実際の使い勝手はどうなのか? その走りとあわせ、細かく検証する。
最も情感豊かなボルボ
単なる台数の減少のみならず、市場占有率の低下をも伝えられる、日本での輸入車販売。残念ながら、そんな中でも、昨今の落ち込み幅が大きく伝えられるブランドのひとつがボルボだ。
そうした動きに至った要因のひとつとしてすぐに思い浮かぶのが、これまで日本でのボルボ車の代表格として親しまれてきた「V70」シリーズに、かつての勢いが見られないこと。そもそも、一世を風靡してきた日本でのステーションワゴン人気が下火になったこと。そして、モデルチェンジを行った最新「V70」のボディサイズが、これまで日本で興味を示して来た人の“守備範囲”を超えてしまったこと、などがその理由に挙げられる。
そんなこんなでちょっとばかり元気が感じられなかったボルボ車のラインナップに、強力なカンフル剤として加えられたのが「XC60」。3列シートSUVの「XC90」比で、全長が185mm、ホイールベースが80mmのマイナスというサイズは、その弟分的イメージ。ただし、わずかに20mm小さいだけの1890mmという全幅は、実は直列6気筒エンジンを横置きするという独自のレイアウトからくる、物理的な制約のせいでもあるはずだ。
一方で、そんな事情を生かして成立したのが、ボルボ車史上で最も情感豊かなスタイリング。後方を強く絞り込んだキャビン部分の造形や、強く張りだしたステップ状ショルダーの採用は、先のワイドな全幅が許されてこそ表現が可能になったポイントであるはず。30km/hまでの範囲内で働く、追突回避・低減自動ブレーキの“シティ・セーフティ”の標準採用も、もちろん大きなセールスポイントになる。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2008年秋に欧州デビューし、日本では2009年8月に発売された「XC60」は、ボルボ初となるクロスオーバーモデル。クロスカントリーモデルとクーペスタイルを融合させたデザインが特徴的。
足まわりは、フロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンク式を採用。ハルデックス社製の電子制御式フルタイム4WDシステムで四輪を駆動する。
ボルボお得意の安全面では、15km/h以下での追突を回避できる前方障害検知自動ブレーキ「シティセーフティ」を、本国のすべてのグレードで標準装備しているのが見どころ。
(グレード概要)
日本市場では、「T6 SE AWD」グレードのみが販売される。本国ラインナップで最もパワフルな3リッターターボエンジンを搭載。最高出力285ps/5600rpmと、最大トルク40.8kgm/1500-4800rpmを発生する。モノグレードゆえ、多くの装備が標準となる最上級グレードも兼ねるが、セーフティ、セキュリティ、ファミリー、スタイリングのそれぞれのパッケージオプションも用意される。シティセーフティは日本でも認可され、標準装備された。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
“スカンジナビアン・デザイン”をキーワードに、落ち着いた雰囲気を強調したこれまでの各モデルに対し、XC60のダッシュボードは、より若々しく、遊びごころが加えられたテイスト。最大の見せ場は、標準でアルミ、オプションでウッド仕様が選べるセンタースタックにドライバー側への“ひねり”が加えられたことで、なるほどこれによって強い躍動感が表現されている。惜しむらくは、ナビの操作をタッチパネルでは行えないため、コンソールボックス内に転がされた(!)リモコンでやらなければならない。機能面でも美観面でも大きなマイナスだ。
(前席)……★★★★
大柄な北欧人の体格に合わせるかのようにタップリしたサイズなのは、ボルボ車のシートに共通の特徴。パッセンジャー側シートバックが水平位置まで前倒れして長尺物の搭載に備えるのも同様。「X」の文字をモチーフにしたクッション/シートバック地のデザインは、やはりXC60が、気持ちの若いユーザーを取り込もうとしていることを物語る。ドアトリム部とコーディネートされた黄色が用いられたテスト車の仕様は、そんな狙いが最も強調されたものだが、すでにうっすらと汚れが目立ち始めていたので、無精者にはダークカラー仕様が無難か。
(後席)…… ★★★
“ファミリー・パッケージ”のオプションを装備するテスト車では、左右2席分クッション部に2段階高さ調整式のブースタークッションを内蔵。子供の成長に合わせて身長95〜140cm、体重15〜36kgと幅広い体格に対応可能というのが謳い文句。ただし、そのぶんクッション厚が減じられることもあり、未チェックではあるものの標準仕様よりも着座感が劣る可能性は否めない。アップライトな着座姿勢で前席下に足先がすんなり入ることもあり、スペース的には十分“フル2シーター”が確保される。
(荷室)……★★★★
こうしたモデルの常でフロア高が高いため、重い荷物の積み下ろしにはそれなりに骨が折れる。しかし、容量495リッターでゴルフバッグ4組が横方向に搭載可能という荷室デザイン自体は文句ナシ。三角表示板などの小物はボード下のサブトランク部分に収まるし、ボードの一部が起き上がって買い物袋などが暴れないようにストラップで保持できるのも親切。パワーゲートは標準装備となるが、その開閉動作が遅くちょっとイライラする。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
日本仕様車が搭載するエンジンは3リッターのターボ付き6気筒ユニット。285psのパワーと40.8kgmというトルクは、1.9トン級の重量には必要にして十分。直6だからといって決して「官能的」というわけではないが、息の長いパワー感はXC60のキャラクターになかなか良く似合っている。トルコン式の6段ATはモードの切り替え機能は持たないが、シフトプログラムが日本の交通環境下でも違和感がないのは、ボルボ各車に共通する美点。取材車がオプションのラミネートガラス付き仕様だったこともあり、静粛性は期待以上に高かった。ただし、エンジン回転数にリンクして周波数の変わる空調用コンプレッサーのうなり音が、すでにアイドリング時から耳に付いたのは残念。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
率直に言って、特に感動する事も失望する事もなかった、というのがXC60のフットワークに対する印象。路面凹凸に対するタイヤの当たり感はそれなりにシャープであるものの、その先のサスペンションの動きはなかなかしなやかで、チューニングが行き届いている印象。特にクルージング時のフラット感は、ボルボ車のなかでもレベルが高い。ちなみに、借り出し時のタイヤ内圧は「高負荷&エコ」設定の4輪2.7barだったが、後に「低負荷」設定の2.4barにセットし直したところ、前述路面への当たり感は、やはりいくぶんマイルド化。ロールやピッチング挙動は小さく、普段シーンでの動きは素直だが、最小回転半径が5.8mと大きいので、購入検討時には是非とも日常使うガレージに収めてみることをオススメする。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:河村康彦
テスト日:2009年8月19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:5303km
タイヤ:(前)235/60R18(後)同じ(いずれも、ピレリP-ZERO ROSSO)
オプション装備:セーフティパッケージ=20.0万円/ファミリーパッケージ=4.0万円/セキュリティパッケージ=15.0万円/ガラスルーフ=20.0万円/エクステリアスタイリング・パッケージ=20.0万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4):高速道路(4):山岳路(2)
テスト距離:276.3km
使用燃料:30.0リッター
参考燃費:9.21km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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